吉田群青 短編集


新聞

新聞を開くと、血なまぐさいにおいのする日がある。
人のたくさん死んだ日である。
四角く四つ折りにして、傍らの椅子に置くと、血液があふれ出して床にぽと、ぽと、落ちる。
あわてて拭くが、古い血液であるのか、茶色くべったりとなったまま、一気には拭き取れなくて。
少しずつ、少しずつ、洗剤や何かを垂らして落とす。
悲しみもこんなものなのかなあ、とふと思う。
それとも悲しみは、もっと青々として、冷たくて、すべてを覆い尽くすものなのだろうか。
死亡欄の文字は全部明朝体で同じように並んでいて、見つめてもその向こうに人の顔なんか浮かんでこない。
グレーの紙面は窓から入る風に、はたはた、とかすかに震えている。


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