吉田群青 短編集
ポケット
ある日、部屋でポケットを探ると、靴下が片方出てきた。
ぴんく色の、アヒルの刺繍のある靴下で、子供用らしく大変小さい。
こんなものを買った覚えはないのだが。
裸足の足に履いてみる。足の親指しか入らなかった。それに片方だけなので、かわいそうな道化のようだった。
翌日、またポケットを探ってみたら、死んだ魚がだらりと出てきた。
腐敗しているらしく、ぬめぬめしている。
引っ張り出すと、四十センチほどはあり、ポケットに入るような大きさではなかった。
にわかに恐ろしくなる。
一体わたしのポケットは、どこまでつながっているのだろう。
指で広げて覗いみると、そこには出し抜けに青空がひろがっていた。
眩しい光。
あ、と思って腰を抜かした。
以来わたしはポケットを探らない。切符も財布もポケットには入れない。
家にある服のポケットは、みんな木綿糸で縫い付けた。
新しい服を買う時も、なるべくポケットのないものを選ぶようにしている。
そこはかとない恐怖を感ずる。
次にポケットを覗いたら、その空間に飲み込まれて、二度出て来られなくなりそうな、そんな気がするのである。
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