吉田群青 短編集






ある日好きな人が、洗剤が体に入ると頭が痛くなる、と言った。
恋をして、あともう一息でお付き合いできるという時点であった。

その日はわたしの家で料理を作るという約束の日であり、わたしたちは食材を買い込んで、わたしのアパートへ向かっていた。
ふうん、とわたしが言い、その人は気弱そうに笑う。元来、気弱そうな人が好きなのである。
アパートに到着し、わたしが料理をしている間、その人はわたしの所蔵するアニメDVDを観ていた。青い服を着た少女が結局伝説の人だった、とか云う筋の。
使った調理器具を洗う時に、わずかに洗剤の泡が料理に入ったが、好きな人は見ていないようだったし、わたしも、まあいいか、と思ってそのまま供した。
食べ終わるまでは何事も無く済んだ。

が、食器を洗っていたら部屋で大きな音がしたので駆け寄ると。

好きな人は泡を吐いて白目を剥いていた。

息を嗅ぐと、使っている洗剤の、りんごの香りがした。
いいにおいだな、と微かに思った。


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