吉田群青 短編集





A4サイズの封筒に、生きた蛸が入ったものが届けられた。差出人の名は書かれていない為、誰からかは不明である。
封を切ると、べとべとした水と一緒に、どす黒い蛸が這い出してきた。乾かないように、たらいに入れ、蛇口の下に置いて、水を出しっぱなしにしておいた。

実は数ヶ月前からこのようにして、毎週のように蛸が届けられている。

床は這い回る蛸でいっぱいだ。

しかし、蛸のような軟体生物に包丁を入れるのは恐ろしいので、一度酢蛸を作ろうと試してはみたのだが、まるで自分を切っているようで、身体ががたがた震えるので、殺しもせずにそのままにしてある。

やがて空腹になったので、袋ラーメンを乾麺のまま口に入れ、砕いた。
くちびるから零れるかすを狙って床中の蛸がざわざわと動き始める。

水の流れる音がする。たらいの蛸はだらりとしたままだ。眠ってしまったのだろうか。

ざわざわ、が部屋中に響き、それは麦穂を揺らす秋の風にも似ていて。



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