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 千代に、八千代に
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 キーワード:切ない 幼なじみ
 あらすじ:昭和20年8月戦況はますます悪化し、日本軍は苦戦を強いられて来た。男という男は兵士に狩り出されて行った。16才とまだ若い少年も、立派な兵士として戦地へと送られて行った。泰彦少年も例外ではない。ほんのつい先刻、郵便職員から渡された赤紙そこにははっきり「桐島泰彦」の名前が書かれていたのだった。
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−−−−−−−−−−−

「泰兄どしたん??」
突然の来訪者に太郎の顔はぱぁっと輝いた。
しかし、泰彦のただならない雰囲気にすぐに表情は曇る。
「太郎、ちょっと来い」
引きずられるように連れて来られたのは防空壕だった。
壕の中に入り、向かい合うように座る。
「太郎・・・俺、戦争に行かんといけん。」
「嘘・・・嘘じゃろ??」
泰彦はうなだれ、首を横に振った。
そして手渡された紙に、太郎は愕然とした。
赤紙・・・それはまぎれもなく泰彦が戦地へ行く証だった。
「太郎・・・行きとぉない。お前と離れとぉない。」
泰彦は太郎を抱きしめた。
2つ年上の泰彦はいつも何かと太郎の世話を妬いてくれた。
太郎がいじめられていると、助けてくれた。
怒られて泣いているところを、いつも大きな手で慰めてくれた。
いつだって大きな存在だった泰彦が今、太郎の腕の中、小さく震えているのだ。
太郎の胸はぎゅっと締め付けられた。

「泰兄、泰兄」

泰彦よりもかなり頼りない腕だが、涙を流しながら全て包み込むように太郎を抱きしめた。
「太郎・・・好きじゃ・・・」
「泰兄、俺も大好き。離れとうないよ」

噛み付くように交わした口づけは、互いの涙の切ない味がした。

「太郎、太郎と繋がりたい・・・いい??」
「いいよ、泰兄の証、俺に残して」


−−−−−−−−−−−

翌日、空は雲一つない天気だった。
軍服に着替えた泰彦は、感傷的にならずにすむと今日の天気に感謝した。
「泰彦、太郎ちゃんよー!!」
母親の声と共に太郎が泰彦の部屋へ上がりこんで来た。
「泰兄、おはよ」
太郎はいつもの笑顔を向けた。
向日葵のようなその笑顔。
暫く見納めと思うと泰彦は悲しくなってきた。
「おはよ。その首、なんか言われんかった??」
「あ〜言われたけど・・・蚊に刺されたって事にしといた。」
鮮やかに付いた赤い印
それは昨晩の情事の証だった。
「早く・・・帰って来てね」「あぁ・・・」
帰って来る
太郎の為に帰って来る
小さい体を抱きしめそう泰彦は決意した。
そして太郎に口づけをした。
時刻は

8時15分の針を指した








皮肉にも二人は戦争によって引き離されそうになり、戦争によって二人は離れなくなった。

8月6日、広島に原子爆弾が投下された。
泰彦の家は爆心地から500メートル
窓側にいた二人は家と共に、一瞬で焼きつくされた。

8月15日、終戦を迎えた。
泰彦がもしも一日早く、またもっと早く戦争へ行っていれば
二人は離ればなれのまま
互いに命を落とし、もしかしたら片方が命を落とし、悲しみに暮れていたかもしれない。

時代の波に二人の若い命は散っていった。

しかし二人はもう離れない。
故郷の地で、今も土となり
安らかに眠っていることだろう。







2007/03/18
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