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 月と赤と太陽の白
© 衢佑 
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昔から子供受けのすこぶる悪い顔だった。
嫌いではないのだが、向こうが勝手に泣きだしてしまうので、子供嫌いと勘違いされやすい。
ただ、代わりに動物には懐かれやすかった。
古い馴染みの女は、餌付けしただけでしょうなんて言うが、寄ってきたから餌をあげたまでだ。

そんな俺にしてみれば初対面で逃げずに睨み返してきたあいつは特殊だと言えるだろう。
だから拾ってしまったのかもしれない。

そういった意味を込めて、俺はあいつを「小動物」と呼ぶ。

*****

「おい、小動物」

背の高いあの人は、僕のことをそう呼ぶ。
その瞬間からかうような顔をするから、馬鹿にされてるんだとムッとするけれど。

「遅くなる。帰って来たら、淋しくて死んじゃいました、とか言うなよな?」
「兎じゃないんですから」

膨れっ面で言い返すけども、あの人がからから笑うとつられて笑いそうになる。

遅くなる、なんて別に言わなくてもいいのに。
ああ、この間捜し回ったのが原因かな。
あんまり遅いからいつもの店かと覗いてみただけなのに。
家に居なかった僕を慌てて捜し回ったあの人は、ひどく疲れた顔をしていた。
心配してくれたことが、心から嬉しかった。

「家から、出るなよ」
「はい」

ああでも。

僕はこの笑顔のほうが大好きだ。

****

「あんた、まだそんな味気ない呼び方してるの?」
「うっさい」

昔馴染みの男は、無愛想にそう言った。
表情が弛むのはあの子の前だけだ。

「『小動物』だなんて。あんまりよ」
「俺にあいつの名前を呼ぶ資格があると思うか?」

綿密に立てられた計画を頭にたたき込みながら、男は言った。
相も変わらず頑固な男。

「じゃあさっさとそれ済ませて、愛しのあの子に笑いかけてあげなさいな」
「……ああ」

読みおわった計画書を近くにあった蝋燭の火にくべ、男はのそりと立ち上がる。

今宵もまた、赤い華が咲くのだろう











2007/05/10
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