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一人は嫌や。
R指定:無し
キーワード:関西弁/大学生/ほのぼの
あらすじ:――風邪の時って、何でこないに心細ぉなんねやろ。
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「ぬぁー……だるい。だ・る・いっ!」
熱が篭る布団の中から足を投げ出し、歩が呻く。
男にしては高めの声が、今は風邪で掠れてしまっていた。
巷で流行り始めた季節外れの風邪は、またたく間に歩の大学へと広がりを見せ、バイトバイトで疲れていた歩は不運にもその餌食となった。
歪む視界。
はっきりしない頭と重い体。
やけに大きく聞こえる時計の音。
嫌な思い出が、脳裏に浮かぶ。
大学に入って、一人暮らしを始めたばかりの時、歩はインフルエンザにかかったことがあった。
まだ、仲が良いと言えるほどの友人はおらず、誰にも頼ることができない。
歩は部屋で一人、高熱と戦うしかなかった。
弱っている時に一人でいることが、どれだけ心細いか、その時初めて思い知った。
同じゼミの隼人が、教授から事情を聞き駆け付けた頃、歩の熱は九度近くまで上がっていた。
直ぐさま近くの救急病院に運ばれ、そのまま病院で一夜を過ごすことになった。
あのまま誰も駆け付けてくれなければ、どうなっていたのか。
下手をすれば、脱水症状なんてこともあったかもしれない。
「歩っ!大丈夫か?」
心配そうな顔で部屋に飛び込んで来た隼人の顔が、今でも忘れられない。
あの時、隼人の顔を見て心底ほっとしたのは、未だに内緒にしている。
――そういや、あの頃はまだ「あゆむ」て呼んでたんやっけ。
今は「アユ、アユ」うっさいのに、笑える。
ひんやりとした何かが額に触れ、歩はゆっくりと目を開けた。
いつの間に眠ってしまったのか、出掛けていたはずの隼人が、冷えピタを取り替えているのが目に入った。
「あ、起こしてもうた?悪い」
歩は、ゆっくりと体を起こすと、壁にかかる時計に目をやる。
「えーよ。それより……帰ってくるん早過ぎひん?」
「アユが心配やったから4、5限はサボった」
当たり前のように言ってのける隼人。
「アホくさ、子供じゃあるまいし」
そう言って布団に潜る歩は、とても嬉しそうだった。
苦しい時しんどい時、今は無条件で隼人が傍にいてくれる。
その事実が、歩を幸せな気分にさせた。
「アユ、何ぞ楽しい夢でも見てたん?」
隼人は、ベッドの脇に腰掛けると、優しく歩の髪を撫でた。
「え? 何で?」
「冷えピタとっ変える前、息上がってんのに顔は笑うてたから」
心配そうな顔で走り寄る隼人の顔が、フラッシュバックする。
歩は柔らかく微笑むと、自分の額に置かれた隼人の手に触れた。
「……内緒。隼人には教えたらへん」
「あそ」と拗ねる隼人を余所に、歩は隼人の手を握りしめたまま、再び目を閉じた。
――ずっと隼人が傍におってくれるなら、たまには風邪ひくのも、ええもんかもしれん。
****
END
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お題配布元→Fascinating
2007/05/13
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