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 蛍火に照らされて
© 衢佑 
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   廉海は行き倒れていた尚を拾った。そのまま懐いた尚を、廉海は自分のもとに引き取る。職業柄、廉海は尚と距離を置くべきだと感じ、尚の名前さえ呼ばずに「小動物」と呼んでいる。
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あれが自分の手の届かないところへ行くたびに思うことがある。

手中に納めていればよかったと。

****

家主である廉海の帰りは遅い。
月明かりの下、ちらほらと舞っている蛍と戯れながら、尚は家主の帰りを待っていた。
廉海には、構わず先に寝所へ行くよう言われていたが、尚は待っていたかった。
彼の顔を見てからでないと、どうせ眠れないだろうと踏んでいたからだ。

入り組んだ路地裏で行き倒れていたのを見付けて貰い、発見者である廉海に引き取られてから早半年。
自分を可愛がってくれる廉海は、無愛想だけれども優しく笑える人である。

(何を以てお返しが出来るだろうか)

感謝だけでは足りないのだ。
もっと彼のためになりたかった。
いい案が思いつかず、とりあえずこうして廉海の帰りを待つことしか出来ない。
帰ってきた廉海に、お帰りなさいと言うのが今の日課だ。

帰る場所と待っている人が居るということは、些細なことだが嬉しいものなのだ。
尚はそれを痛いほど知っている。

****

家に帰ってくると、案の定寝所はもぬけの殻で。
庭に面した縁側で、くたりと横たわる小動物を発見した。

「おい」

熟睡しているらしい小動物は、呼んでも起きる気配が無い。
仕方なく、抱き上げて寝所へと戻った。

寝台に横たえた小さな身体は、無防備にも程がある。
ちょっと迷ったあと、すっと耳元に唇を寄せた。

「……尚」

小さな身体が僅かばかり震え、あどけない寝顔に笑みが走った。

「可愛い面しやがって、まぁ」

好いてくれているのは解っている。
手に入れたい、と強く思う。
けれどそれの代償は、途方も無いリスクをこの小さな身体に課すことだ。

「うまくいかねぇものだなぁ…」

これは数えきれない人の命を奪った罰か?
なにゆえ今更になってこんな小動物を俺の前に突き出すんだ?



血塗られた真っ赤な手が
この小動物を汚す前に



「あと、少しだけな」

早くこいつを手放してしまおう。

今ならまだ、引き返せる。






悲恋もの…でいいんですかコレ。







2007/06/05
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