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 いつも保健室
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【いつも保健室】



「やっ…、ちょっ…! 待って待って! 宮内くんッ!」

「ダメですよ! 動かないでくださいッ。湯島くん!」

 そう言って、宮内くんは激しく抵抗するオレの腕をガッチリ掴む。

 あぅっ!
 絶体絶命のピンチです!

「み…宮内くん。痛くしないで! お願いだからッ」

 半泣き状態でそう言うと、宮内くんはニッコリ笑ってこう言った。

「湯島くん。この痛みはどうあがいても変わりません」

 宮内くんはいつもの笑みを浮かべたまんま、何のためらいも無くオキシドールを、傷口めがけてふりかけた。


 …宮内くんが鬼のよう。


「うわーんッ! オニー! オニー!」

 あまりの痛みにわめくオレ。傷口に染み入ってくる消毒薬がジワジワ傷を熱くする。

 宮内くんはそんなオレにかまうことなく、傷の手当てをパッパと済ます。気がつけば、オレの腕には包帯が、すごく綺麗に巻かれてた。

「おしまいです」

 そう言って、宮内くんが優しい笑みを投げ掛ける。

「…宮内くん」

「はい、何でしょう? 湯島くん」

「肘が全く動きません」

 オレが左肘を指差し抗議する。すると、宮内くんは菩薩の笑みで微笑んだ。

「そりゃそうです。動かないよう、少し多めに巻きましたから」

 …言われてみれば、怪我した場所は前腕なのに、肘まで見事に包帯まみれ。

「…え、なんでぇ!?」

 驚愕の眼差しで宮内くんを見つめるオレ。宮内くんはソレを軽〜く流し、記録用紙を手に取った。

「だって、そうでもしないと安静になんてしないでしょう?」

 そう言いながら、宮内くんはオレの来室記録を書いていく。いつ見ても、優しい綺麗な字体です。

 さっすがオレの宮内くん!

「湯島くん。怪我をしたのはいつですか?」

「んー? 4時限目の中盤かなぁ」

 オレがその美しい文字にウットリしながらそう言うと、不意に宮内くんの手が止んだ。不思議に思って顔を上げたら、宮内くんと目が合った。

 その顔に、いつもの笑顔は浮かんでない。

「………湯島くん」

 明らかに不穏な様子の宮内くん。

「……はい?」

 オレがビクビクしながら返事をしたら、宮内くんは人差し指で壁の時計を指差した。

「今何時だと思ってるんです!? そんなに長い間傷口をほったらかすなんて何やってるんですか湯島くんッ! どうしてサッサと来なかったんです!?」

 いきなり宮内くんに怒鳴られた。

 こんなに怒った宮内くん。初めて見ます。…恐いです。

「だ…だってぇ…、昼休みじゃないと宮内くんいないじゃん」

「何もわざわざ学生に看てもらわなくても、ココには保健医だっているでしょう!?」

「だってぇ…」

「『だって』じゃありません! かすり傷だからって甘く見てると大変なことになるんですよッ! 傷から菌が入って破傷風にでもなったらどうするんです!?」

 いつも温厚な宮内くんが、ものすごい剣幕でまくし立てている。


 …もしかして、


 オレってば、宮内くんに嫌われちゃった?

 怪我を放っておくなんて、優秀な保健委員さんから見たら、すっごくダメダメなことだから。


 …だらしないって、思われた?


「………湯島くん?」

 不意に、宮内くんの声音が変わった。

 顔を見たら、戸惑い気味の宮内くんが目に映る。

「………ぅ…」

「…『う』?」

 オレが発した言葉に対して、宮内くんが小首を傾げた。


 う……、


「うわぁーんッ! 見捨てないで、宮内くんッ!」

 胸が詰まったオレはというと、大泣きしながらそう言って、宮内くんにすがりつく。

 恥じらう余裕もありません。

「ゆ…湯島くん!?」

「やだやだッ! 宮内くんに嫌われちゃったら、この先生きていけないよぅ!」

 オレは涙を流しつつ、宮内くんをガッチリ掴む。

「…もう、何バカなこと言ってるんですか」

 宮内くんは呆れた様子でそう言うと、視線を再びオレへと向けた。

「湯島くん。僕がいつ、湯島くんを嫌いだなんて言いました? 僕がいつ、見捨てたりなんてしたんです?」

 宮内くんはそう言って、オレの背中をポンポン叩く。

「だって…すっごく怒ってた」

「そりゃそうです。湯島くんが病気になったら大変ですもん」

 優しい笑顔でそう言って、宮内くんはオレの涙を指で拭った。

「いいですか? 今度どこかを怪我した時は、すぐに消毒してくださいね?」

 ふんわり微笑む宮内くん。そんな姿が菩薩のようだ。

 あぁ…やっぱ、宮内くんは宮内菩薩で正解だ!

「菩薩さま…ッ!!」

 慈悲深い言葉をくれる宮内菩薩に、オレはガッチリ抱き付いた。

「湯島くん。僕は普通の学生です」

 宮内くんは優しい声音でそう言いながら、背中をポンポン叩いてくれる。

 そんな中、

 オレはというと、『やっぱり宮内くんは世界一!』なぁんて思って泣き笑い。宮内くんはいつだって、オレの尊い菩薩さま。

 宮内くんが発する言葉は、全てが慈愛に満ちていて、全てにおいて正論だ。

「宮内くん」

「何ですか?」

 オレが呼んだら宮内くんはこっちを向いた。


 いつでも優しい宮内くん。
 でも一つ。一つだけ、宮内くんに反抗するけど許してね?


「やっぱりさ、怪我の手当ては昼まで待つよ」

 だってほら、染みる手当ても、痛いのも。宮内くんのがいいんだもん。


 だからやっぱり怪我したら、宮内くんの所へ行くよ。


 オレが笑ってそう言うと、宮内くんは困ったような顔をした。

「怪我の放置はいけません」

 そう言って、ちっちゃい子供を諭すみたいに、宮内くんがたしなめる。

「う〜、だってぇ…」

 宮内くんの言葉を聞いて、オレは口を尖らせた。すると、宮内くんがフフって笑う。

「ですからね?」

「次に怪我をした時は、僕のクラスにいらしてください」

 優しい声音でそう言うと、宮内くんは菩薩の笑みで微笑んだ。




Fin...







2007/07/16
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