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全ては夢幻
R指定:無し
キーワード:青龍・白虎・神
あらすじ:青龍を襲った嵐が過ぎその後。。
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あれから何日が経ったのだろう。
竜貴が張った結界のおかげで城は守られ、白虎が嵐同様に散らかしていった街だが何もなかったかのように活気づいている。
風によって破壊された家は一つもなく、普段と変わらない街並みを見せていた。
白虎は初めから迷惑だけはかけない気でいたのかもしれない。
あの後、莱慧の倒れている姿を見つけた。
城の入り口だった。
「申し訳ございません鴾様。このような場所で」
「まだ動いてはいけないのだから。それに…無茶をして」
鴾は莱慧の部屋に訪れていた。
何もない部屋だ。
睡眠をとり食事を摂り、あれば書類を書き…そのために机と椅子、ベッドのみが置かれていた。
まるで竜貴の部屋のようだ。
青龍は無駄に金銀を使いたがらない。
その理由は節約した金銀で竜たちの世話をしているのだ。
人よりも戦力。
他国から見ればそこまで力が欲しいのかと思われがちだが、青龍の者たちは竜を武器だと思っていない。
同じ仲間として扱っているのだ。
それは散歩などをしている様子を見れば一目瞭然。
人と竜の戯れている様を見れば誰もが頷けるのだろう。
横たわる莱慧の横で鴾は静かに腰掛けている。
「傷の具合は?」
莱慧の腹部に巻かれた痛々しい包帯に鴾は影を落とした。
「軍は休まなければなりませんが、生活程度なら問題はないそうです」
嵐で目覚めた莱慧は竜貴の部屋へ訪れたらしい。
そこで見た飛び散ったガラス窓。
無残に光る鮮血。
莱慧は自らが犯した過ちを悔いても悔いても晴らせず、金蜃の力を消すために傷を負ったのだという。
そして本当に蜃気楼は消えたのかと、確認をしようと外へ出たところで力尽きたのだと。
「私の中に金蜃はいません。弱った体では従神でさえ住まわせれば死に至ります。朱雀の力をお持ちの鴾様ならおわかりになるかと」
選ばれた者は神と共に生きるのだ。
その負担は計り知れない。
選ばれた者にしかわからない。
だが従神ならまた別だ。
選ばれた者が一番守りたい者へ保険のために付かす者も、過去の例を辿っても少なくはない。
今回の白虎はまさにそれだ。
白虎に愛されている莱慧。
莱慧は鴾の手に視線を移し、竜貴の背と似たような刻印に手を伸ばした。
手の甲いっぱいに刻まれたそれに指先で触れる莱慧は、鴾を大事な者と重ね目を細める。
蜃気楼はその子の命令で起こしたことだ。
それか誰かに誑かされたか。
自らについていた金蜃が働いたのもそのためだ。
理由は…。
「雷鳥が金蜃の蜃気楼だと。それと兵たちが言っていたのだが今回のことは莱慧が関わっているとか」
「本当です。……ですが経緯などはご勘弁を…」
莱慧には戸惑いがなかった。
いくらか聞かれると予想していたのかもしれない。
莱慧にはまだ辛い現実で人に話せるほど軽く、また何もせずに真相が見えるほど浅くもなかった。
莱慧の美しく輝いていた銀糸の髪も、今は金へとその色を変えている。
一瞬誰だかわからぬほどに。
変わらぬ美麗さとはこのことを言うのかもしれない。
目して自らのことを語らぬ莱慧に鴾は憧れさえ抱いていた。
「無理に話さなくていい。嘘もいらない。俺が竜貴様から聞くようにする」
上体だけを起こした莱慧に鴾はぐっと手を握った。
犬猿の仲だったのにどういうことだと不思議に思っている莱慧に、鴇は微笑んでみせる。
莱慧が森の入り口で見つけた死にかけの子供ではない。
青龍へ連れてきた時の生気の失せた人形でもない。
「何か良いことでもありましたか?」
莱慧の問いに鴾はただ笑っただけだった。
言葉で語ってしまえば陳腐なものに思えて、何も口にできない。
自らの表情、雰囲気を見ればそれが答えだ莱慧にも自ずと知れた。
2007/08/05
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