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ヨロコビ。
R指定:有り
キーワード:行きずり
あらすじ:行きずりな、名前も知らない男との一夜。人のヨロコビとは何かをちょっと違う視点から模索してます。
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人の喜びとは何だろう。
俺の場合、普通の人と感じも漢字も違う。
所謂『悦』(エツ)の方だ。
今日のベッドは結構感触が気持ちい。
布団もいいけど、やっぱり俺はベッド派だ。
うつ伏せになっても痛くないから。
それに何よりも、
「あッ、激しっ……!!」
「もっと、腰……上げな、」
真っ暗な室内で、ギシギシ軋むベッドの音が、
自分が激しく揺さ振られていることをリアルに感じさせてくれる。
俺、もう何回イったんだろ。
今日の男は結構長い。
なかなかイくことがない。
1回は中に出された。
一番奥に突き入れられた瞬間に、
打ち付けられるように注がれた。
それが今抜き差しされる間中、グジュグジュと音を立てて内股を伝って流れる。
結構悔しい……。
自分だけが狂った感じがして。
「やぁっ……また、イくぅ!!!」
「何度目だっつーの。ちったー我慢しろ」
「ひぁっ?!!」
今にも弾けそうな俺のモノを根元から指で締め付けられた。
競りあがる熱をせき止められて、
俺は堪らなくて頭を横に激しく振る。
「やだっ!!イかせて!!」
「俺が、イったらな」
「あぁっ?!……そん、な、ぃやぁっ!!!」
更に早まる打ちつけに、俺はせき止められたまま擬似的にイく。
何度も何度も押し寄せる波を不完全なまま、俺の中で消えてはまた押し寄せる。
「お願い……もぅ、死んじゃう」
「んー……それは困るな」
単調な声が上から降ってきたと思ったら、
「あっ……」
怒張した楔を差し込まれたまま仰向けに回された。
その勢いで下向きに垂れ下がっていた前髪が目の前に張り付く。
見えない視界を開こうと前髪に手を伸ばしたら。
「え……」
勝手に前髪が動いた。
いや、違うか。
「びしょ濡れだな」
前髪をずらしてくれたんだ。
その手が離れ、カチッと音がしたと思ったら、
「んっ……」
サイドの電気スタンドの明かりが眩しくて顔を顰めた。
「こっち向きな」
「あっ……」
顎を掴まれ上を向かされた。
漆黒の髪に、漆黒の瞳。
こんなイイ男だったけ?
俺を可愛いって言ってくれたから
まともに顔を見ずについてきただけだけど、
「死ぬ前にしっかり見とかねぇとな」
「えっ!!」
不適に笑うその顔に、言動からして恐怖を感じるはずなのに、
「ほ、本気?」
その艶やかな感じに見惚れてしまう。
「そう思うか?」
「だって……」
「ははっ、冗談」
『切裂き魔』じゃあるまいし。
と、くつくつと静かに笑った。
「冗談でもキツいって……」
「いや、悪い悪い」
「ねぇ……」
「あ?」
俺はちょっと気になる事を聞こうと思った。
「あんま……悦くない?」
「は?」
首を傾げる男に俺は眉をひそめて言葉を続ける。
「だって、俺ばっかで……、アンタまだ」
たどたどしく言ってる自分が恥ずかしい。
どうしたんだよ俺。
「何だ。それが不満なのか?」
「ふ、不満って……いや別」
思わず顔を背けてぎゅっと目を瞑ったら、
「ひゃっ?!!」
耳を舌で舐め上げられて、変な声を出してしまった。
「だったら頑張ってみるか?」
「え?」
「俺が満足するまで、俺だけを受け入れろよ」
「なっ?!」
なんでそうなるんだ!!
と、言いたかったけど、
「んっ…?!!」
唇を口付けで塞がれてしまった。
蠢く舌に、俺の中の全てを持っていかれそうな感じさえする。
頭の芯がぼぅっとしてきた頃に、
「あっ……」
ゆっくり唇が離れた。
口の端の名残を舐めあげる舌先が紅い。
「俺、お前がそうしてくれるなら
他のヤツとするの我慢できるけど」
「な、何で……?」
「さぁ?」
また不適な笑顔。
何を考えているのか解らない。
「そうするのがアンタのヨロコビ?」
「あ?」
「アンタはそれが嬉しいの?」
「……意味が、わかんねぇ」
「俺は気持ちいのが好き」
そう答える俺に、男は「ふーん」と、呟いて、
「タツハ」
「え?……やぁっ!!」
不意に再開された律動。
俺はされるがままに濡れた声を止め処なく響かせる。
「俺の、名前、呼んでっ」
「えっ……あっひあぁっ?!!」
「タツハって、俺の、呼んで」
揺さぶりながら発せられる、
途切れ途切れの声の響きが俺の快楽を刺激する。
言われるままに口にしたらもっと悦くなるような気がして、
「た、タツハっ」
俺は半開きの口を必死に動かした。
それを聞いて、
「うん、やっぱお前いいね」
タツハが嬉しそうに笑った。
コイツ、なんかズルい。
悔しいから、今日は俺の名前は言わないでおこう。
その代わり、
「あ、タツハっ!タツハもっと!」
「あぁっ、これで最後だっ」
アンタを絶対オトしてみせる。
結局最後も俺がイくだけで終わった。
やっぱムカつくコイツ。
「おい」
「何」
朝方。
別れ際に呼び止められて振り返ると、
「ケータイ教えろよ」
タツハの不機嫌そうな顔がそこにあった。
「ドコモ」
「俺は気が短いんだ」
「今度あったら教えてやるよ」
「はぁ?」
ますますしかめる表情に俺は思わず吹き出してしまった。
「てめぇっ……」
「俺が次に他の奴とヤらないうちに精々早く見つけることだね
アンタなら可能だろ?」
人気モデルのタツハくん。
「なっ?!」
「バイ」
俺は意地悪な笑みを残してその場から走り去った。
追いかけるけてくる気配はなかった。でも……、
「ぜってーみつけるっ!覚悟しとけっ!」
大きな、そして楽しそうな声が後ろから聞こえた。
人の喜びとは何だろう。
俺の場合、普通の人と感じも漢字も違う。
ただまぁ、何だろ。
「あーっ、朝日がきれー」
気分のいい日には目に映る物が輝いて見える。
こんな俺だけど、人生楽しい。
こんな俺だけど、
「待っててやるから、早く見つけろ」
今日もまた、
だけど新しい一日がはじまる。
end
2007/09/02
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