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 ウサギ
© ソラコ 
作者のサイト 
 R指定:無し
 キーワード:先輩×後輩/屋上/自殺未遂
 あらすじ:孤独に弱いウサギは、大空を強く舞う鳥に憧れた。
▼一番下へ飛ぶ




風が、心地いい。
早朝に、たった一人で学校の屋上。
最高だ。


曇り無き真っ青な空。
真下には誰もいない静かなグラウンド。



最後の景色。



錆びてささくれたフェンスに手を掛け、「んっ」と小さな掛け声を零しながら緑色のそれを乗り越えようとした。
風を感じ、耳を澄まし、足を踏み切る感覚を頭の中で想像しながら。

そう、俺は――…。





「……柊」
「!」
「何してんだ?」

フェンスを支えに地面から足を浮かせた、その瞬間。
背後から、聞き覚えのある声。

「誠、先輩……」


2つ年上の。柴山誠先輩。
ブラウンに染められた短髪に、元々色素が薄い為に茶色く見える瞳。
シャツを第二ボタンまで大きく開いて露になった胸元には、シルバーのアクセサリー。耳には小さなピアス。
部活繋がりでもない、委員でもない。

俺たちは、サボり仲間。


「な…んでいるんですか、こんな朝早く」
「何だろうな、胸がそわそわしちゃって。……で、何しようとしてたんだ?」
「……」

俺が入学したばかりの頃、いきなり授業を抜け出して屋上に上がったらこの人に出会った。
真っ黒で無造作に散らばった髪に、一応は校則を守って制服はブレザーまで着用しているごく普通の生徒の俺とは全く釣り合わない誠先輩と、俺はもうすぐ一年近く一緒にいる事になる。

この屋上でたくさん話をした。
雑談、愚痴、時には真剣に将来の話。
基本的に人との交わりを拒絶する俺にとって、誠先輩は唯一の心の拠り所だった。
だから……会いたくなかったのに、最後は。



疲れたんだ、なんとなく色んな事に。
此処から飛んだら自由になれるのかなとか、解放されるのかなとか、思ったりしてさ。
狂ってるよな、俺。


「……んー、翼が欲しくて?」
「はぁ?何馬鹿な事言ってんだか。いいからそっから降りろ、こっち来い」


溜息混じりの呆れたような声で手招きする誠先輩。
俺も俺で、別に思い詰めて思い詰めて覚悟を決めて!って訳でこれに至った訳でも無かったから、すんなりと言う通りに動いて先輩の方へ歩みを寄せた。

顔を見上げる前に、ぐっと後頭部を掴まれて抱き寄せられる。


「……?先輩?」
「あーもうびっくりした。俺が来てなけりゃ危うく柊が鳥になっちまうトコだ」
「ん……怒らないんですか?」
「怒ってんよ。けど飛ばなかったから許してやる」



軽い言い方のように見えて、俺の頭を掴む誠先輩の手は凄く震えている。


ちょっと、罪悪感。


ごめんなさい先輩、
俺に死ぬ理由なんて無かったな。
先輩がいるんだもんな。
衝動で馬鹿な事しようとして、ごめんなさい。



「……自由になりてーの?」
「はい。でも先輩に縛られる生活なら、まだ悪くないかもなぁ」
「ははっ、ぐるぐる巻きに縛ってやろうか」

先輩の手はゆっくりと動いて俺の背中に回り、こつん、と額をくっつけてきた。


「先輩が、俺を甘やかすから」
「俺が甘やかすから……お前が弱いまんまだって?」
「……」

当たる互いの額、間近でかち合う先輩の目。

本当は……怖いのかも。
俺の唯一無二の存在になってしまった誠先輩が、いつか離れてしまう日が来るのが。
先輩が卒業したら、それでおしまいになるような気がして。



「……お前、大学へは行くのか?」
「あーハイ、そのつもり……」
「じゃ卒業したらうち来い」
「は?」


先輩は顔をすっと離し、無邪気に目を細めて笑みながら言った。
急に吹いた強い風が、二人の髪を揺らす。


「俺どうせ働くし一人暮らしするし。来いよ、一緒に住もうぜ」
「な…んで」
「何か今寂しそうな顔してっから。もうすぐ俺とお別れで寂しんじゃねーの?」
「……自惚れ屋」



疑問と、嬉しさと。
どうしようも無い感情が、俺の心臓を締め付けた。




「……先輩も、変わった人ですね」
「お前もな」




疲れた、なんて言うのは
まだ早いのかもしれない。






「柊は鳥じゃなくて、ウサギなんだよ」

俺の髪を撫でながら、先輩はそう言った。




END.







2007/09/17
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