返信する

 この世に存在するは魔物と人間
© POKO 
作者のサイト 
 R指定:---
 キーワード:妖 着物 切ない 年の差 青年
 あらすじ:時は永正元年、一人の青年と一人の親父。青年は緊張する中、初任務をこなして行くが魔物を倒した時何かが起きる。一応BLです。
▼一番下へ飛ぶ


時は1504年、永正元年

秋の匂いを感じ始める夏の日

蟋蟀や鈴虫が庭園で曲を奏でる涼しい夜

こんな時は酒を飲みたいものだ、と

そよ風に吹かれて揺れるくせ毛の髪の持ち主は障子を開け外を眺める

キセルに口を付け煙を吸い込み、肺に送る
吐き出す黒い煙は空に消えていった

「と、言うわけだ」

上の者であろう、品の良い着物を着た男の説明する話しが終わると

きせるをコンコン、と音をたて灰皿に灰を落とす

「松之介、幸孝、後は任せたぞ。」

「了解」

「は、はいっ」

このお方は僕を救ってくれたお館様で恩人だ。

刀を抜く仕事以外は全く締まりの無い人が松之介さん

今回の任務で初めて共にすることになったけど、普段見るときと同じで締まりが無い
でも、練習の時竹刀を持つと人が変わるような感じで
居合わせて貰った時は一度も勝てなかった
あんなに軽そうに見えて

松之介はお館様という人物の後ろ姿を強い眼差しで見送り

幸孝は、何処かこの任務に不安を抱いた眼差しを向けて見送った
初めての任務に不安を隠せない

「おい」

不意に、落ち着いた低い声で呼ばれる

「あ、はいっ」

その呼ばれた声に驚いたのか、少し肩を震わせ
戸惑いながら、その声がした方を振り向き正座で座り姿勢を整える

「お館様はお前を信じ、今日来るであろうモノノケを退治できると思いお前を任務に付けたのだ」

その力の見える言葉に圧倒されながら声を出す

「……はい」

幸孝はその期待に応えたいと、お館様と言われる男から授かった刀を持つ手に力が込められる

恩をあだで返すことはしたくない。

男は言葉を続ける

「良いか、モノノケには絶対に“心に隙”を見せるな。必ずとり憑かれる。」
“自分を信じれば必ず倒せる
お前はそれだけの力を持っているんだ”

胸に響く言葉

“倒したい…是が非でも”

幸孝はその気持ちでいっぱいだった

あの時、松之介さんに聞いた僕の小さい時の話し
僕がまだ4歳くらいの頃に山の中に有る川の側に捨てられていた
僕を見つけてくれたのは、お館様だ
お館様曰く、屋敷に居るとき何かに呼ばれて行ってみたら僕が居たのだと

何かに。は分からないが勘だろう。と言っていた

この人は集中し始めると恐ろしさを感じる
これが強さなのだと思う
僕もいつかこんな風になれたら、
先ずは初の任務を遂行し成功を。

「………」

鈴虫や蟋蟀、風の音

全ての音が一瞬にして消えた静けさ

“何かが来るっ”

と、心の中で呟くと

「来たか」

松之介は声に出すと左手に刀を持ち立ち上がる

ローソクの灯が揺れる、ゆらゆらと風も無いのに
その揺れるローソクの影

その影は次第に大きくなり
幸隆が緊張なせいか喉を鳴らし生唾を飲み込んだ時だった

「構えろ!」

鞘から刀を取り出した瞬間黒い影がニ体、二人に襲い掛かる

“がきーーんっ!!”
ぐおおおるるるるっ!

黒い影はモノノケ形に変わり、咆哮を上げながらモノノケの攻撃
力と力の衝突で青白い微細な霹靂が弾ける

「大丈夫か!」

松之助は自分と同様、モノノケと戦う男
初任務に挑む幸孝の事が気になり声を掛けた

「はい、…何とかっ」

“動きは見えます”
動きは見えるが力は五分、いやそれ以上か
ここで薙ぎ払って切り掛かるか…切り付けられるか
モノノケを睨み付ける幸孝
そのモノノケの瞳は炎の色をしていた
笑っているのか瞳を細めて、小さく音を出す

「捕まえた」

小さく聞こえた、モノノケの声、音を
次にどう動くか考えていた幸孝は一瞬思考回路が止まる

“捕まえた”とはどう言う意味だ
動きは止められているがこっちも止めている
捕まってなどいない
そもそもモノノケは言葉を喋るのか
色んな事に戸惑い悩む

「……こいつは」
やべーな、と松之介は呟き、眉間に皺を寄せる
“あいつのモノノケは魍魎じゃねぇか!”

“心の隙”
“ぐしゅっ”
モノノケは百年ずつ成長する
戦闘力、知能力、特別な力
魑魅魍魎が一番高いと言われるモノノケ
それに比べたら、今俺が戦っていたのは300年ほどしか生きていないモノノケ
そのモノノケからの一突きを右肩に受けてしまう

「ぐっ!」

瞬時に返す松之助の高速な一突き
心のオクを突く一撃
その一刺しと同等の一撃が自分の肩に貫かれた

“俺とした事がっ”

「だがなぁ!低級のモノノケ何かに憑かれはしねぇんだよ!」

モノノケに刺していた刀を勢いよく引き抜き、その刀をモノノケの喉元、肉を切り裂き首が落ち赤黒い血が噴水の如く吹き上がる

モノノケも元は人間、そこから憎しみや憎悪、色んな負の物で形を返るモノノケ
倒れて崩れるそのモノノケを眺めた後自分が負った傷を押さえて
少し移動すると、畳に膝を着いた後腰を下ろし、壁に寄り掛かる

「大丈夫ですかっ!」

モノノケの繰り返される攻撃を刀で防ぎながら声を出す

「てめぇーはてめぇの敵に集中しやがれ!」

松之介の怒声が広い部屋中に響き渡る

本来なら加勢すべきのモノノケ、強すぎる
無敵に近いとされるモノノケが来るなど情報には全くなかった
何故此処に魍魎がっ

心に少しの隙を使ってしまったばかりに出来た傷は深い
右肩に大きな傷、聞き手では刀が持てない

しかし、こいつに魍魎は倒せるのか

「くっ……」

眼前で刃が軋る悲鳴が上がる
最高位のモノノケの攻撃を防いでるだけでも凄いことだ
しかし、このまま陽が昇るまで持ちこたえるのは無理だろう

幸孝は攻撃を仕掛けたいが、モノノケが仕掛ける攻撃を見て防ぐだけで一杯だった

“自分に力が有れば”

「うおおおおっ!」

見守る男は目を見開く
幸孝の力強い咆哮に

お館様はこの男に何が見えたのだろうか。こいつを守り鍛え貫かねば
いつの日か聞いた平和が、お館様はこいつを通じて見えたのだろうか…

“使われていない力を、今!”

幸孝はモノノケの片手の攻撃を弾くと青白い火花が散り、
もう片手の切り裂く攻撃を素早く躱す

躱した身体を高速に回転させこちらの攻撃を仕掛ける
柄を持つ両手を上げ、上から下へ振り下ろし
右斜めから、左斜めから薙ぎ払い
最後に横に一絶ち切り裂く
直接に受けるモノノケ
瞬時に血肉が弾け飛ぶ
そしてモノノケは後方に飛び退くと
幸孝もそれを追いかけ疾走し魍魎の前まで間合いを詰めると

「囂轟雷地!」

青白い稲妻が絡む刀身を渾身の限りめり込ませる!
地に向けての突き刺し


大きな風を浴びる、壁に寄り掛かった男

大きな力を見た、生きていた中で見た大きな力を
全てを凌駕する、お館様以上か

その風が消えた後、舞い降りた物がある…柄物の着物

「……消えたか」

“態勢を立て直し、またこの地に降り立つ、か”

モノノケが死ぬときは必ず赤く黒い血が流れる
その血を飲んだら永遠の生を手に入る。と伝説が言われたが、それはただの噂だった
俺の同僚はその血を啜り苦しみながら死んだ

モノノケが消えた時は太陽が昇るまで油断は出来ない
しかし、空が青くなり始めるのが分かる

油断出来ない事は初期に習うことだから大丈夫だろう。
現に空を眺めている
そして鳥の囀りも聞こえ初めた

「魍魎よ、共に次の時まで態勢を整えるか」

一安心した松之介は安堵の息を吐き出す

幸孝は刀を鞘に戻し、怪我をした相手の方へ向かい
その男の前に膝を付く
すると朝の風に乗って鼻先を掠める甘い麝香の匂い

「……初めてにしては良くやったな」

安らぐような興奮するような甘い匂い
その匂いは気のせいだと思う事にした

幸孝は懐から手ぬぐいを取り出して、応急処置として松之介の腕を縛る

『我は、汝らに負けることはない。』

二つの声が一つになったような声で言う

「何言って」

“心に、隙”

ふっ

「かはっ!…貴様は、魍魎ッ!」

心のオクの一突き。

“心に隙が有るものは簡単に取り付くことが出来る”

『この輩も例外では無かった。終わったと思う安堵感による隙
しかし、感謝をしておるぞ。』

意識が遠くなりつつ有る中での言葉……お前は何を言っているんだ

『この身体は我の身体の一部、よくぞ此処まで成長させたことを。早々に返してもらうぞ』

幸孝の姿をした魍魎が持つ柄を捩回しながら言葉を出す

『しかしじゃ、この身体は貴様何かに尊敬と愛情を持っていたようでの……最後に別れを告げてやろう』

そして魍魎は幸孝へと表情を変え優しく微笑むと

「松之介さん、貴方は幸せ者だ。僕から殺されるなんてね。」
“永遠にお休み”






「幸孝……ッ」




終わるっ。







2008/04/19
▲ 始めに戻る

作者のサイト
編集

 B A C K 



[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]