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 雑巾がけレース
© 早 
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 キーワード:高校 青春 雑巾がけレース ※サイトは18禁です
 あらすじ:年内最後の部活の日に掃除当番にあたってしまった陸上部キャプテンと別に掃除当番じゃない朋(とも)の話。
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廊下



 当番が回ってくるたびに思うのだが、この学園は清掃員とか雇ったりしないんだろうか。 金持ち学校なんだろ? お坊ちゃま方に薄汚れた箒や牛乳臭い雑巾を持たせていいのか? いや、別に俺はお坊ちゃまじゃねーんだけれど。
「犬養ぃゴメン、俺今日呼び出しくらってんだ、だから掃除いけね」
 同じ班の王が手を合わせてそう言った。普段は馬鹿だが掃除はマジメにやるやつだ、本当なんだろう。
「うん、いーよ」
「ありがと! じゃな!」
 すったかたー、と走り去る王。いいなぁと思う反面、それを見て思い出すことがあった。エナメルの鞄を提げて教室を出て行こうをする朋の後ろ姿に話しかける。
「朋、今日は先始めといてくれ」
「おけー、頑張れキャプテン」
 にたっと笑いながら去っていく朋。
 ああ……今年は今日で部活、おしまいなのに……なにやってんだ俺。掃除当番て。
 そうは思ってみても何も変わらない。
 自分も鞄を肩に引っ掛けて掃除場所の渡り廊下へ移動する。この時期は三年が受験勉強するため、とかいって普段三年が担当してる掃除場所までやらされるのだ。めんどくさいことこの上ない……もっとも、来年は自分達がその恩恵を授かるのだから文句は言えないが。


「…………」
 掃除場所の渡り廊下で、俺は箒を持ったまま突っ立っていた。
 ぴゅー、と木枯らしが通り過ぎている……のは、窓が開いてるから。窓が開いてるのは、掃除の時間だから。なのに何故に
「誰も来ねェんだ馬鹿野郎ォォォ!!」
 ガツーン! と箒を廊下に叩きつけてみても、通り過ぎる一年がびくっと身を震わすくらいで他に反応を返す者はいない。
 くっそ……! なんでだ! なんで皆してサボる! あてつけか!? 嫌がらせか!? 俺が何をしたってんだ30字以内で簡潔に述べやがれコノヤロー!!
 そう思いながらも、班の人間が遅れてやってくるのではないかと淡い期待を抱いてはいたが時間だけが過ぎる一方で何も変わりやしない。
 イライラを通り過ぎて泣きたくなってきた。
 畜生、俺は情けないよ。今日部活年内で最後の日なんだぜ? 俺これでもキャプテンなんだぜ? 最後の練習くらい俺がちゃっちゃと仕切りてーじゃねぇかよ。それ我慢して掃除当番しにきてんの、わかる? で、俺以外の人間は来やしねーんだよ、どーなってる。てめぇら何か、掃除当番より最後の部活より大事なことあんのかよ。掃除はちゃんとしなきゃ駄目だろがオイ。公共のモノはみんなで綺麗にしましょうよオイ。
 廊下を一通り掃き終わり、今度はバケツに水を汲む。
 だいたいこの掃除用具も変だよ。高校生にもなってみんなで並んで雑巾がけしろっての? いや今は俺しかいねぇけれどもだな。なんかあるだろ、箒の柄の部分だけのやつで先っぽに雑巾挟んでモップみたいにするやつ。名前は知らねぇけどさ、せめてアレ買えよ学園長。ここお坊ちゃま学校なんだろ? 疑わしくなるときが多々あるよ。
 ブレザーを脱いで、セーターを腕まくり。マフラーはつけたままでいいや、もう。
 バケツに汲んだ水に雑巾を浸す。……こんな状況でもちゃんと掃除する俺は、自分でもエライと思う。普段だったら絶対掃くだけで終わるし。けど今は俺ひとりしかいないし、この廊下も年内は今日が最後の掃除だ。足型がいっぱい残った状態で年を越すのもなんかアレだろ。
 固く雑巾を絞り、今から吹く長い廊下を見てため息が漏れた。
 長い……渡り廊下だし。
 雑巾がけ、っていうか、掃除自体は嫌いじゃない。なにかを綺麗にするって行動は、好きだ。
 けど、その……廊下を雑巾がけしてる自分の姿は嫌いだ。四つんばいになって、足だけ動かして、なんか自然と尻は上がるし、まっすぐ進めなくてどーしても拭いたあとがうねうね残るし、ソレを上から通行人に見られるってのが一番いやだ。しかも、今は……ひとり。
 横を一年だか二年だかが通り過ぎていく。
 別に通行人は雑巾がけする俺のことなんて気にも留めないんだろうけど、そんなことはわかってるんだけど、やっぱ気が引けるんだよ、わかるだろ。
 そう思ってる間にも、前から通行人はやってくる。拭いてる姿はひとに見られたくないけど、いつまでもじっとしてるわけにもいかない、授業が終わっても無駄にチョロチョロ学校を徘徊するやつは多いんだ。それより俺は早く部活に行かなければ……よし、今前からきてるあいつ、あいつが通り過ぎたら拭こう。よし決めた。
 じっとそいつの足元だけを見て、そいつが通り過ぎるのを待つ。
 ぺったんぺったん、間の抜けた足音……それが段々近くなり、大きくなる。
 あれ、どこかで見たことある足だ。と思ったのは、それが俺の前でぴたりと止まったときだった。
「あれ、……」
「おっすー。助っ人参上」
「朋!」
 さっき部活に行ったはずの朋だった。ただし制服はもう陸上部の黒のジャージに変わってる。
「やっぱね、キャプテンがいなきゃ部活始められないんだ、みんな。だから早く連れて来いって怒られちった」
 そう言いながら朋はバケツに引っ掛かっていた雑巾をとり、じゃぶじゃぶ水に浸す。
 始められないって……いや、それ駄目だろ。俺がいなくてもちゃんとやってくれよ、いつでも行けるわけじゃないんだから。
「な、早く終わらそ。みんな待ってる」
 既に固く絞った雑巾を廊下に広げて、朋が言った。
「……ウン」
「んじゃ競争な! よーい、」
「あっ待てよこら!」
「ドン!」
 ふたりで並んで、みっともない姿勢で廊下を駆ける。
 途中で肩がぶつかったり離れたり、きっと後ろには蛇が這ったようなうねうねしたあとが残ってるんだ。
「くぉおお陸上部短距離の星をナメんなぁぁああ!」
「キャプテンより前走んじゃねぇ馬鹿野郎ォォォぉ!」
 笑いがこみ上げてくる。
 なーにやってんだろな、俺ら。こんな情けないカッコで、高2にもなって並んで雑巾がけレースしてな。


 渡り廊下と普通の廊下のつなぎ目まで、あとちょっと。











2007/01/18
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