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 じりじり
© うた子 
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 R指定:有り
 キーワード:同級生/色白めがね攻め
 あらすじ:真夏の勉強合宿でやってきたホテルは冷房もない熱地獄。そんななか一心不乱に勉強する男と、そいつが気になってしょうがない男の、じりじりしたはなし。
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眼鏡がずり落ちそうになっているのを気付いているのかいないのか、あいつはただひたすらと一目散にいや一目散は違うか、とにかく一心不乱にシャープペンを握る手を動かしている。
見えていないんだ。
要するにあいつにはあいつを取り巻く最小限の世界しか見えていなくて、俺はその外からただただただただじっとあいつを見つめることしか出来ないとか言って見つめるとかだいぶやばいけど八割がた事実なんだから仕方がない。
あいつはとうとう汗をしたたらせ、その汗がしずくになって眼鏡にたれた時、初めてそのずり下がっていたフレームを押し上げた。
多少上を向いた瞬間のあいつはそれで俺と目が合ってしまった。
俺は無表情でただ瞳を見つめた。
あいつは濡れた額を見せ付けて少し口を開いて何かを言いかけて、言わなかった。
そのかわり瞬きを一つすると、汗が涙のように流れていった。
「おまえどんだけ汗かいてんだよ…」
あきれた俺の言葉に、あいつはシャーペンを置いて返事をした。
「暑いんだよ」
それはごくごく平凡な面白みのない受けこたえだった。
「扇風機じゃ足りねえ?」
俺の部屋に冷房はなかった。ていうか俺の部屋じゃなくて、綿密に言うと、合宿先の俺の部屋。向かいに位置するあいつの部屋の扇風機は悲惨なことに壊れていた。受験生のための勉強合宿というやつで避暑地にやってはきたものの、この暑さ。ふざけるな。
「生暖かい風しかこない」
しっかり俺の目を見つめて返答するあいつのシャツは、きっちり第一ボタンまで閉められている。そりゃあ暑いでしょが…。
「……」
さすがに脱げばとか脱げよとか脱がすけどとか言えない俺は、体感温度を下げるその唯一の対策を口にすることが出来ず、黙った。俺はそのとき何でか暑くなかった。
次の合同授業まで、あと1時間半もあった。
「脱いでもいいかな」
「だめ」
思わず即答した。
「…なんでだよ」
案の定あいつは怪訝な目で俺を見る。その視線から逃げて、俺は言い直した。
「…いいよ」
俺は特に予習も復習もやる気がなかったので、あいつを置いて布団に飛び込んだ。あいつがどっかいくまで、こうしていよう。
「この暑いなかよく寝れるな」
この部屋の中でよく脱げるな!と言ってやりたいが言ってやらない。俺はなんなんだ。変態か。大丈夫か。はやくどっかいけ。部屋から出てけ。しらねえぞしらねえぞしらねえぞ。
「……」
沈黙だった。多少の衣擦れの後、何の音もしなくなった。シャーペンの滑る音もしない。時計の音も聞こえない。するのは自分の心拍数と
「おい」
「!!!!」
唐突に背後で声がしてうつ伏せ状態の背を持ち上げかけた俺は、途中で何かにぶつかってそれ以上起き上がれなくなった。何かとか言ってるけど本当は分かる、この熱、この声気配、このにおい、ぜんぶあいつのもの。あいつに触ってる、近すぎる、だめだ、俺は、どうする、
「俺のこと放置する気だったの?」
頭の横にある手。俺より白いのに、すげえ骨ばってて自分が弱く見える。あいつの眼鏡のフレームが耳にあたる。熱気がにじり寄ってくる。
「………暑い」
隙間をすり抜けようとした俺の手首が強く掴まれる。四つんばいに近い俺の格好はかなり情けないだろうけどそれに覆いかぶさるあいつもかなりけだもの的だと思うけどわかんねえよ見えねえんだから!
「暑いなら脱げば?」
そんなことを飄々と言ってのけるあいつがにくくてたまらない。ああ脱ぐよ、じゃあ脱ぐよ、しらねえよ、どうにでもなれ。ああ。ああ。おまえにはどうやったってかなわないんだからな。




おわり。







2008/12/10
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