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 空
© 透流 
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「空…が…白い……」


このセリフを聞いた時、とうとう此処まで来たかと思った。
今日は雲一つ無い青空。
でもお前の目に映る空は色が無く、何処までも続く白。

お前の見る空はまるで……今のお前の肌の様に白いんだろう。


身体を起こす事も出来なくなり、窓から見える空を見る事だけが楽しみだった。




とうとう……その空も見る事が出来なくなった…。




ほんの半年前までの面影が無くなる程痩せ細り、俺の握る手を僅かに指を動かして応える。




『手遅れです』





半年前、無表情の医師が唯一肉親の俺に呟いた。
俺はただ、ジッとその医師を見詰め……小さく頷くしか無かった…。

別に知ってた訳じゃない。

納得した訳じゃない。

うなだれた頭が頷いた様になっただけ。




義理の兄、俺が愛した人。




親同士の再婚を機にたまたま血の繋がらない兄弟になって、お互いの親が仲良くこの世を去った時……お互いの悲しみと隙間を埋めるかの様に、お互いの存在を確かめるかの様に、抱き合った。



「なぁ…、お前も俺を置いてくの…?」



感情籠らない俺の問い掛けにお前は小さく笑う。

俺は……見送らなきゃダメなのか?

消え掛けた命の灯火を、どんどん小さくなって行くのを……見ていなきゃダメなのか?


次に眠りに落ちたら……二度と起きる事は無いお前を目の前にして、俺は小さく笑った。



「俺を…一人にするのか…?」



笑いながら問い掛けると唇が僅かに動く。



『ゴメンね…?』



既に何も映さない瞳を俺へと寄越し、困った様に眉を下げる。

謝る位なら………置いていくな。

俺を一人にするな。


キツく眉を寄せ、出そうになる言葉を唇噛み締め堪えた。


口の中に鉄の様な味が広がる。




掌に感じる段々と冷たくなっていく体温。

段々とゆっくりになっていく呼吸。

段々と消えていく…………命。




「いくなっ!」




怒鳴る様な俺の声を聞き、最後の力を振り絞り幸せそうに微笑んだ。










『好き』















二文字だ。

最期の言葉が……たったの二文字だった。






手を握り締めながら空を見上げた。






空は………













―――――青かった。



      -end-










2009/05/11
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