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 氷菓
© 湊 
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 あらすじ:真夏の部活帰りの日の出来事。
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暑い。

日が落ちたとはいえ、コンクリートの熱がじわじわと体力を奪っていく。
喉の渇きに耐えながら、額ににじむ汗を拭っていると、隣から悠樹のへばった声が聞こえる。

「あち〜」
「当たり前だろ。夏なんだから」

そう返事をして、悠樹を横目でにらむ。
こっちには一口もよこさずに、棒付きアイスをガリガリと齧っているくせに、そんなことを言っているのだから睨みたくもなる。

「分かってるけどさぁ‥‥あちいもんは、あちい」

悠樹は緩んだ制服のネクタイをさらに緩めて、ワイシャツの隙間からパタパタと風を送る。
その瞬間に、夏には似つかわしくない真白な首筋が目に入った。

そういえば、日に焼けない体質なんだと以前に聞いたことがあった。
そんなことを思い出しながらも、悠樹の真白な首筋から目を逸らすことができない。

もし‥‥この首筋に思い切り噛り付いて、滲んだ血を舐めたら、この喉の渇きは潤うだろうか。

ふと、そんなことを思った。
このことを悠樹に言ったら、どう思うだろうか。
そして、自分の思うままに、悠樹に今の考えを伝える。

お前って変わってるよな、と。

嫌悪するでもなく、そういって悠樹は密やかに微笑んだ。

「そんなの舐めるより、こっちのほうがいいだろ?」

彼は右手に持った棒付きアイスを振り、これ見よがしに齧る。

俺にくれるつもりもないくせに、と言い返すと、当たり前じゃん、とアイスを齧りながら答える。
少し悔しくなって、棒付きアイスを持った右手首を捕まえる。

「なんだよ?」
「俺も、もらう」

は?と怪訝そうな顔をした悠樹には構わず、その唇に齧りつく。

悠樹の口内は思っていたよりも冷たく、絡んだ舌に僅かに氷が残っている。
その冷たさを存分に味わった後、ゆっくりと唇を放した。

「‥‥ご馳走様」
「お前なぁ‥‥人が見てたら、どうするんだよ」
「別に」
「別に、って」
「アイスがそんなに欲しかったんなら、言えばよかっただろ?」
「違うよ」
「‥‥じゃあ、何?」

冷たい棒付きアイスが欲しかったんじゃなくて、本当に欲しかったのは悠樹だ、と。

齧りつきたいほど‥‥食べてしまいたいほど好きだったから、と。
肩を抱き寄せて‥‥俺はそっと、悠樹の耳元へと囁いた。



END









2009/05/20
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