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サニィサイド・アップ
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キーワード:超短編
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こんな朝は目覚めが…悪い。
ケンカの理由は些細なもの。コンパで帰宅が遅かった悠介に対し、ちらりと嫌味のひとことを添えて出迎えたら…炎上した。まあ、そんなとこ。
酒はいってたこともあり、互いに引くに引けない状態のまんま、昨夜はひとつのベッドで互いに背を向け、眠りに着いた。
それでも地球は回ってる、
それでも朝はやってくる、
それでもヒトは腹が減る。
これぞ自然の摂理だろう。
目玉焼きを作るべく、卵を二個、冷蔵庫から取り出しキッチンに置いた。
コツンと外殻に荷重を加え、熱したフライパンに中味を落とす。一個目、二個目と順番に、ふたつの目玉はじゅう…と音を立て、とろけた白身が変質する。
ようやく起き出してきた悠介は、居心地悪そうに部屋をうろついてる。視線があうけど、声をかけずに素知らぬフリしてたら…ばつが悪そうにキッチンに寄って来た。
「タクミ、なに作ってんの?」
「目玉焼き」
「…それ一個は、俺の分?」
悠介は、フライパンに並んだふたつの目玉を指し示し、俺の表情をのぞきこむ。
昨夜のケンカの炎は、俺の中で、まだくすぶってる。“悠介の分なんて、ないよね”と、即答してやろうかと思ったけれど。
「悠介はかためが好きだろ?今日のはサニィ・サイドアップ(片側焼き)だから半熟だし、きっと好みじゃないよ」
「かためでいい」
「だから、サニィサイドアップ!」
「だから、片目でいいから…」
互いの顔を見合わせて、どちらからともなく、ぷっと吹いた。“固め”と“片目”の勘違い、些細な言葉の掛け違いは、ケンカの理由の些細さと似たようなレベルだ。
ふたりの間でちりり…とくすぶっていた炎が、ほんの一瞬で鎮火する。
「昨日、すまなかった」
悠介は、キッチンに立つ俺の背中を、後ろからぎゅうと抱きしめた。俺の口から謝罪の言葉が出る前に、肩越しに悠介の顔が近づき、唇はふさがれる。
れる…と舌がはいりこむ、「俺もゴメン」と応えて、ちゅう…と軽く舌根を吸った。すぼめた舌先でツンと歯列の裏側をなぞられ、胸の奥がぞわりとする。痺れるようにあまい感触を味わい、うっとりと瞳を閉じた瞬間…
じゅう…と焼け焦げる音がした。
ああ、しまった、
調理中だった。
「だめ、かたくなっちゃうじゃんよ」
「何が?」
「キミが」
腕から逃れ、慌ててコンロの火を止める俺を、悠介はもいちどぎゅうと背中から抱きしめ直す。よろめいた俺の体を支えて、ぐいと腰を押し付けてきた。
「タクミのほうが、だろ?」
「黄身が!///」
「…ああ」
互いの顔を見合わせて、どちらからともなく、ぷっと吹いた。
「ったくもう、盛り付けるから皿出せよ、二枚な」
「ああ」
食卓に並べた二枚の皿、そのうえには片目ずつの目玉焼き。「いただきます」の言葉ともに、穏やかな休日の朝食がスタートする。
サニィ・サイドアップな半熟の目玉焼き、あんまり得意じゃないはずなのに「美味い」と笑顔を見せる悠介のこと、昨日の夜より愛おしく感じた。
食べ終わったら、もいちど寝室に逆戻りするのも…いいかも知れない。
(END)
2009/06/04
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