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 ユウダチ
© ふじちか 
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 キーワード:先輩後輩/濡れシャツ/kiss
 あらすじ:雨宿りのキミの傍…もしも叶うなら儚い願いは止まないで欲しい。
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 空に雷鳴と閃光が走る。

 あっという間に、雨の糸は束を重ね、視界を白くしていった。

 黙々と走り続ける脚に、濡れた学生服のズボンは纏わり付いてくる。前髪はしな垂れ、雫がとめどなく滴ってきた。

 既に、ずぶ濡れとはなっていたが、一休みに通りかかった公園の木陰へと、木戸(キド)は雨宿りを求めた。


『あー!そこ、オレも入れて!』


 瞼を持ち上げると、先に滑り込んだ木陰に、勢いよく背の高い男が飛び込んできた。傍らで、木に手をつき荒い息をこぼしている。

 見覚えのある背の高い人…。

 もう一度、顔を確認することが出来ずに俯くと、走った直後の息の乱れに、違うものが加わってきた。


『すっごい…雨……ですね』


 彼の荒い息の合間に、声を掛けられた。雨音が邪魔だが、沈黙されるよりはマシだった。何か返さなきゃ。


『勢いがあるのは一瞬だよ。少し待てば弱まると思う』


 ボクの素っ気ない言葉に、あからさまな溜め息が聞こえ、足元に鞄を投げ置く重い音がした。

 しっかりとした大木に凭れた彼の肩が触れると、気を遣って木戸は隙間の距離を空ける。


『あーぁ、下着まで濡れてそう。シャツは張り付いて冷たいし』


 顔の雫を払いながら、チラリと覗いてしまう。彼の濡れたシャツに、ぼんやりと肉質の良さそうな肌が映っていた。

 淫靡に見える光景に、また目を逸らしてしまう。

 また、自分の華奢な肌でも同じように映っているのかと思い、胸に腕をまわしさり気なく隠した。


『お互い、ツイてなかったね』

『ですね。でも、先輩と初めて会話ができた』


 彼は、鞄からスポーツタオルを取り出しながら笑って答えた。《新しいから使って下さい》と、自分はフェイスタオルで顔を拭きながら、それを差し出してくる。


『ありがとう……この前も』

『あっ!覚えてくれてました?! オレは先輩が、よく図書館に来るの知ってましたよ』


 そう、この人懐っこい笑顔が印象的だった。

 友達と集まって、楽しく笑っていたのを何度も見ていた。

 高い位置の本を取るのに、苦労していたのを取ってくれたから、肩に掛けられた手の感触も、背の高さも覚えていたのだ。


『オレ、町田(マチダ)。先輩の名前も教えてよ』

『……木戸』


 それだけ告げると、目のやり場に困り、背中を向けてタオルの端で軽く拭かせて貰った。柔軟剤の柔らかい香りがする。


『いいから頭も拭いて。風邪引いちゃうから』


 町田は、遠慮して使っているタオルを取り上げると、わざわざ木戸の前に回り込み、俯いたままの頭に黄色いタオルを被せた。

 そしてガシガシと髪を拭きだした。


『拭いても同じだから…』

『いいんです!ほら』


 機嫌を損ねてしまったかと、上目で表情を窺ってみた。

 だが、僅かだが口角は上がっているような気がする。それは、ボクが良いように見てるだけなのだろうか。

 間近で見れた、町田のどこか幼さの残った顔に魅了された。

 あまりの近さに、彼の存在の比重に、木戸の胸は早鐘が鳴り続けている。隠したい一心で、抱えるように包み込んだ。


『寒い?ですか?』

『えっ、大丈夫だよ』


 心が揺れ動き、目が泳ぐ。

 胸が息苦しくなり、二人の間に熱を感じる。手に手を重ねられると耳元に電撃が走った。


『唇だけ、紫になりかけてる』


 反射的に何度も瞬くと、町田の瞳に捕われてしまった。


『……なに?』

『ううん、どこまで近づいたら』


 町田は、木戸に被せたタオルを頬が隠れるように、前に引く。そして、息が掛かる程、顔を近付けた。


『逃げるのかな?…と思って』


 鼻先が当たる位置で問われているのに、ボクは町田の唇の行方にしか興味がなかった。

 タオルで隠された中で、暖かい唇が繋がる。撫でるように優しいくちづけを彼はくれた。

 ゆっくりと視界を広げると、赤くなった町田の顔が笑っている。

 雨の雑音も薄れていた。


『オレん家まだ近いから、着替え貸しますよ。今の内に走って帰りましょう』


 しっかりと握られた手を振りほどかず、ボクは黙って握り返していた。

 二人で水溜まりを飛び越え、走り出した。

 激しく雨が降り出す前に。




 ━END━







2009/08/07
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