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 或る雨の日
© 京元 緋呂 
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   バーテンの彼と暮らすDJの、ある雨の朝のヒトコマ。本編「ハレルヤ!」(18禁)全20話、完結しました。
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 冷たく水気を孕んだ空気と、僅かに窓を打つ雨粒の音に目を開ければ、時間は既に午後三時。ああ、今日は少し早く起きて、新しい音源を探そうと思っていたのに。もうこんな時間かと溜息が出た。
 寝ぼけ眼を擦りながら、取り敢えず何か音を流す。ベッドの中で聴く、スラング混じりのアンソニーの歌。そう言えばこれは、あの映画の挿入歌だったと気付く。劇場で観た後、アイツは良く判らねえとぼやいていたが、俺は結構面白かった。
 それにしても。
 意識が目覚めるにつれ、寒さが増してくる。二人で寝ると裸でも暑いのに、一人寝は何でこんなに寒いんだ。
 隣に寝てた筈のアイツは既に起き出して、居間をガタガタ掃除している。ついでに昨夜脱ぎ散らかした、脱皮したヘビの皮みたいな俺の服も、片してくれたら良いのに。
 そんな事を思いながら、薄い上掛けにくるまり惰眠を貪る。寒いから耳の上まですっぽり埋まると、一人でも少し暖かい気がした。
 隣ではようやと掃除が終わったらしい。聞こえていた機械のノイズが消えると、こちらの流す曲に気付いたんだろう。少しの間の後、部屋のドアがゆっくり開いた。

「起きたか?」

 何も答えずにベッドに埋まる俺を、そっと近づき探る気配。もうすぐ三時半だと声を掛けられ、初めて薄く目を開けた。

「…なあ」
「ん?」
「寒い」
「起きて服着ろよ」
「…抱っこ」
「ハァ?」

 子供みたいなおねだりだと言うように、アイツの鋭い目が呆れる。それでも起きない俺に、諦めたように大きな溜息を付いて。
 アイツは少し上掛けを捲ると、足からベッドの中へ入って来た。
 回される長い筋肉質の腕に、合わされる胸。アイツの腰に俺が足を絡めると、穿いているジーンズの固い感触が内腿に当たる。それからアイツは上掛けで俺をくるむと、額に啄むようなキスを落とした。

「ハイハイ、これで良いか?」
「ん。温かい…」
「寝るなよオイ。今夜も仕事あるんだろ?」
「ん」
「ったく…仕方無えな。雨の日はいっつもこうなんだから」

 そう困ったようにアイツは呟いて、俺の伸びかけた髪をゆっくり指で梳く。服ごしに伝わる体温が心地良くて、嗅ぎ慣れた匂いに目を閉じた。
 寒い雨の日には、こうして甘えたくなるんだ。だから温まるまで、このまま暫く居させて。

 せめて、この雨が止むまで。









2009/09/06
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