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 金平糖のしずく
© 悸戸 
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 R指定:無し
 キーワード:悲哀
 あらすじ:相手が僕の気持ちを受け止めてくれないなんて、わかってたんだ。なのに、なのに。
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 きっと跡形も無くフラれるのだと思っていた。だって僕、男だし。でも、あの人は何も言わなかった。それに苛立って離れようとした。


「…なんで?」

 寒い玄関に、声が小さく響いたのは押し倒された後だった。しかもキスされた。何、これ?
 相手も驚いた顔をしている。なに?やめてよ。

「いや、これは」
「どうしてそういうことするんですか」
「えっと、…退きます。」

 なんでそんな顔するの?彼のシャツの両端を持って立てなくした。目が合う。

「もう一度、して」
「……え?」

 必死に見つめた。ゴクリと本生唾を飲む音がして、縋る気持ちで首に腕を回した。それからスローモーションのように自分と相手の唇が重なる。温かい。

「ん…っふゃ…」


「ぁん……んふぁ、…」

 相手は突っ放す所か受け入れる様に口づけを続けた。でも息継ぎが追い付かないと思った時、急に離れていった。荒々しい呼吸を整える。まただ。さっきと同じ辛そうな顔。

「すまん、!」

 横にへたり込む彼。なぜ、謝るの?仰向けになったまま動けず、涙が出た。

「…どうして?」
「え」
「僕が好きなの?」
「それは、」

 目を泳がせ、口ごもる姿に苦笑した。そっか。そっか。

「好きでもないのに出来るんだ。大人は違いますね」


 静かに起き上がると腕を掴まれ、思わず相手を睨んだ。


「…離して、先生。」
「!」

 静かにそう言うと、先生は黙った。

 やっぱり真剣に見てくれないんだ。馬鹿だ。ガキだ。わかってたのに。


「…帰ります」

 カーディガンの裾で涙を拭き、立ち上がった。グレーの袖がダークグレーに変わっていた。
「…森田、俺」

 お願いだから、もう何も言わないで。彼の顔を見ずに早口になる。

「キスまでしてくれてありがとうございました。明日からは辛いので、僕に話し掛けないで下さい」

 それだけ言い残すと、僕は出て行った。バタン。響いた音はそれ以外の静けさを引き立てた。

 ほらみろ。追いかけてすら来ない。


 僕は玄関で立ちすくむ。開く事の無いドアを見つめた後、キスした時の彼の顔を思い出して左手で唇を触ると、また涙を流していることに気が付いた。

「…何やってんだろ、」

 曇った空を見上げて、明日なんて遠い過去の幸福に似た言葉だと思った。


END







2009/12/16
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