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© 七海 三咲 
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 キーワード:社会人/遠距離恋愛/電話
 あらすじ:遠距離恋愛二年目のミコトとリュウの物語。私サイトに掲載の遠恋シリーズの二人。※サイト自体はR-18です。
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 そろそろ電話が鳴る頃だ…。

 そう思ってベッドサイドの携帯に手を伸ばす。
 毛布から腕を出すと思いがけない寒さを感じた。
 寒さというより寒気。
 まだ熱があるらしい。

 数日前から体調は悪かった。
 それが今朝急激に悪化し、熱が出た。
 やむを得ず仕事を休み、ベッドに潜り込んで一日を過ごした。

 夜までには下がるだろう。

 そう思ってリュウには連絡しなかった。
 連絡したところで、何かが変わるわけではない。

 側にいられるわけではない。
 存在の遠さを思い知るだけ。
 要らない心配をかけるのは性に合わない。

 自分がもっと素直な性質なら。
 「具合が悪いから心配してくれ」と言わんばかりのメールをして。
 もしかしたら駆け付けてくれるかもしれないなどと期待して待っていたりするのだろうか。

 そんな想像をした自分に苦笑する。

 あいつがそんなことするはずはない。

 自分はそんな柄じゃない。
 そんなことは有り得ない。

 思わず声に出して笑って、肺を刺すような苦しさに咳き込む。
 喉ではなく肺が痛い。
 喉の奥に何かが詰まったような息苦しさがある。
 お陰で煙草が吸えない。
 ベッドサイドに置かれた煙草が目に入るが吸いたいという気さえ起こらない。
 重症だ。
 こんなに長時間煙草を吸わずにいられるなど、健康だったら不可能だ。

 溜息が漏れる。
 携帯を開いて時間を確認する。
 もうすぐだ。

 熱が下がらない。
 酷く具合が悪い。
 そのことに、電話で話したらあいつは気づくだろうか?
 気づいたら何て言うだろう?
 大丈夫か、なんて月並みな台詞を吐くだろうか?

 そう思いながらディスプレィを指でなぞる。
 電話が鳴るのをいつも以上に心待ちにしている自分に気づく。
 早く声が聞きたいと思う。

 今頃慌ててエレベーターに飛び乗った頃かもしれない。
 部屋に駆け込んだ頃だろうか。
 
 いつもいつも、ほとんど決まった時間に電話をしてくる。
 お互いの好きな酒を飲みながらくだらない話をするだけの。
 それでも貴重な時間。

 滅多に口に出さないお互いの気持ちを探るように。
 確かめるように言葉を交わす。

 電話を握る指に力がこもる。


 逢いたい。


 いつも以上に抑え難い感情がわく。
 熱があるせいだと呟いてみる。
 声を聞いたら、この感情は治まるだろうか?
 高まるだろうか?

 きっと……。

 ディスプレイが光る。
 一瞬遅れて着信音が鳴り出す。
 
 いつもなら留守電の寸前まで取らない電話を、今日は待ちきれずに通話ボタンを押す。
『……もしもし?』


 驚いたような、戸惑うような声が電話の向こうから静かに届く。
 
 感情が溢れ出す。
「リュウ…」
 掠れた声で名前を呼ぶ。
 何だよ、どうかしたのか、と驚いたままの声が言う。

 ヤバい、と自覚して息を飲み込む。
 言っても仕方ない台詞が喉に絡まっている気がする。

「リュウ…」
 名前を呼ぶだけで感情に自分が押しつぶされそうになる。

 言っても仕方ないのだからと自分に言い聞かせても止まらない。
 熱のせいだ、ともう一度心で呟く。


「逢いてぇんだ…」

 今すぐに。
 
 言って枕に顔を埋めると、電話の向こうの声が俺もだと囁くのが小さく聞こえた。








2007/01/29
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