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 甘いものはお好きですか?
© 湊 
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 R指定:無し
 キーワード:上司と部下
 あらすじ:深夜のコンビニでの遭遇。
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衝撃の事件は、突然にやって来た。
場所は深夜のコンビニエンスストア。

「いらっしゃいませ!こんばんは〜!」

深夜にもかかわらず、元気な顔なじみの店員に挨拶を返そうと目を向けた先。
レジの目の前にいたのは、俺よりも頭一つ分低いスーツ姿の男。

「あれ?主任?」

声をかけた瞬間、ビクリと大げさなほどに肩を揺らしたのは会社の上司。
うん、間違いない。

「そっ、染谷!?」
「はい。お疲れ様です」

首をかしげながら近寄ってみて、彼がレジに出そうとしていたものが目に入る。

「‥‥‥‥プリン?」
「いやっ、その‥‥これはっ!」

若いのに仕事が出来すぎるほどできて、男性社員には鬼と呼ばれている彼。
いつも、オーダーメイドの品のいいスーツに、クールな眼鏡がステキと女性社員に騒がれている彼。
そんな彼が‥‥プリン。

コーヒーばかり飲んで、バレンタインは甘いものが苦手だからといって断っていたのに。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

ピ〜ンポ〜ン
「いらっしゃいませ〜!」

「とりあえず、外にでましょうか」
「‥‥‥‥ああ」

店員の元気な声を背に、俺と主任はコンビニを後にした。
そして、ぽつぽつと街灯のついた薄暗い路地を並んで歩く。

コンビニのビニール袋のガサガサという音と、二人の靴音だけが響く。
ひたすら続く沈黙にとうとう我慢ができなくなって、そっと横目で隣を見やる。
暗くて表情は見えないけど、恐る恐る口を開く。

「あのぉ‥‥」
「言うな」

ピシャリと跳ね返された言葉に、ちょっとだけムッとしていたけど、ふとあることに気がつく。
街灯に僅かに照らされた耳が、赤い。

「‥‥言うな。このことは、絶対に誰にも言うな」

良く良く見てみれば目元も赤い。
恥ずかしさのせいか、少し潤んだ目が俺を睨みつけるようにして見上げてくる。

「わかったか?染谷」
「‥‥‥‥‥‥‥‥かっ」

可愛いじゃないか。
あの鬼がプリンを好きという事実も。
それが恥ずかしくて、一生懸命に俺を口止めしようとしたところとか。

「おい、染谷!わかったのか!?」
「‥‥っ、はいっ!言いません!俺、主任がプリンを好きなんてこと、誰にも言いませんから!」
「なっ‥‥おっ、お前はっ‥‥!」

言葉を失って、真っ赤になった主任にニッコリと笑いかける。
彼の手でカサカサと揺れる袋の中のプリンを思えば、ほんの少し胸が温かくなったような気がした。


END







2010/03/11
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