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嫌いじゃないよ[前編]
R指定:---
キーワード:ヘタレ×ツンデレ/リーマン/年齢差/甘/
あらすじ:社内で求婚してきた9歳年下の男が離婚した妻の浮気相手と同じような性格で―…!?歳の差ラブストーリー
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「安西(アンザイ)さーん」
うざい。
「今から飲み行きません?」
しつこい。
「俺、その後安西さんのウチ行きたいなぁ…ダメ?」
うざい…!!!
「あんざ…」
「いい加減にしろ!!しつこい!」
腕を絡ませてきた七五三木(シメギ)に怒声をおくり、その腕を払い落す。
「そんなぁ…」
眉尻を下げて俺を見るのはやめろ。
お前は俺より幾分背が高いんだから見下ろされてる気がして気分が悪い。
「疲れてるんだ。まっすぐ帰る」
「ちょ、待ってくださいよー」
足早に会社を出ると、後ろから余裕で俺の後ろをついてくるでかい男。
むかつく。
俺より足が長いからどんなに速足で歩いても余裕でついてきやがる。
「お前家こっちだろ」
「安西さんチ行きたいです」
ギロリト睨みつけてもニコニコと笑ったままの七五三木の顔は変わらない。
「帰れ」
「連れてって下さいよー」
「嫌だ」
「俺飯作るの上手いですよ?」
「そんなこと聞いてない」
いつまでついて来る気だ。
むかつく、うざい…うざいうざいうざい!
こいつは入社当時からおかしな奴だった。
勤務初日に俺の顔ばかりを見ていると思えば、いきなり「結婚してください」と求婚してきたのだ。
しかも皆がいる前で。
周りがドン引きしていたことにこいつは気付いていたのだろうか…。
その後もどれだけ冷たくあしらっても引っついてきやがる。
まったく…俺は今年でもう32だ。
こんなオヤジのどこがいいんだ…。
七五三木はまだ若い。確か今年で23だった気がする。
容姿だって良いし…しつこいところを除けば人懐っこくて愛想が良くて、どうせモテるだろうになんで俺なんか…。
「だって俺安西さん独身って聞きましたよ?ご飯作ってくれる人いないでしょ?」
「………だぞ…」
「え?」
「バツイチなんだよ!俺は!」
ホント、イライラする。
そうだよ。
俺はバツイチだ。
5年前に妻は浮気相手と出ていった。
「あんたみたいな冷たい男大っ嫌いよ!」
とヒステリックに叫んでいた声が今でも耳に残っている。
それに…その浮気相手はまさに七五三木のようなやつなのだ。
へらへらとしていて、愛嬌があって、だからこそこいつを見てるとイライラする。
冷たい男で悪かったな。
どうせ俺は愛想笑いが苦手だよ。
どうせ俺は可愛げない人間だよ。
「…じゃあ、俺にもチャンスはありますよね?」
「…は?」
「不謹慎かもしれませんけど、俺安西さんに奥さんがいないって知って今すごい嬉しいです」
こいつはバカか…。
おめでたい奴もここまでくると見ててイタい。
「…好き、です…安西さん。結婚してください」
「…帰れと言ってる」
「好きなんです」
「だから…っ…んっ…」
は…?
え…?
はぁ!?
「んっ…やめっ…、おまっ…」
唇に触れた感覚がなにかなど考える暇がなくねっとりと咥内を舐められ、一気に思考が乱される。
なんだ…なんだ…!なんなんだこいつは!!
「…っ…バカか!!ふざけんな!」
「…ぅー…す、すみません」
頭を思い切りグーで殴ると痛そうに七五三木はその場にうずくまり上目づかいで俺を見上げた。
「死ね!失せろ!……帰れ…帰れよ!!!」
精一杯の罵声を浴びせても尚後を追ってくる奴をキット睨み付ける。
「これ以上ついてきたら今後一切目も合わせない!分かったか!」
「……っ……」
その言葉に七五三木は足を止め、俺を切なげに見つめる。
まるで捨て犬みたいだ。
そんな目で見るなよ。
俺が悪いみたいじゃないか…。
「…ムカツク…っ」
小さくつぶやいて速足で帰路をたどる。
なんなんだよ…あいつ…。
男同士なんて良いことなんかなにもない。
あいつは知らないが、というか知る由もないが…俺はバイなのだ。
昔に男と付き合っていたときもあったが、男同士は面倒くさい。
結婚もできなければ町で少し意味深な行動をとれば周りからは冷ややかな視線を向けられる。
なのにあいつはそんなことお構いないし会社で俺に結婚してくれと言うし…なにもわかっちゃいない。
別に…七五三木のことが嫌いな訳じゃないんだ。
だけどもう俺は誰とも恋愛をする気はない。
疲れるんだよ…嫌われないよう自分を偽るのは…。
前の妻にだって…素顔が出た途端に浮気されたんだ。
「あ、すみません」
俯いて歩いていると不意に肩がぶつかり、小さく謝罪すると腕を掴まれた。
「…おいおいおっさん、ぶつかっといてごめんだけ?すげぇ痛いんだけど」
「……」
そこにいたのは3人の若者で、明らかに柄が悪い。
面倒なことに巻き込まれたくはない俺は大人しく財布を取り出す。
「…いくら出せばいいんだ…」
「物わかり良いねーそれにおっさんの割に案外美人だ」
その言葉にイライラしながら財布を広げる。
「いくら欲しい」
「えー100万くらい?」
「…は?」
俺をニタニタと笑いながら囲むように見る男たちの一人が腕を掴む。
その手の力が余りにも強すぎて一瞬冷や汗がでた。
「………離せ」
「100万くれたら離してあげる」
「………っ」
「…来いよ」
路地裏に連れてこられ、囲むように睨みつけられる。
これはさすがに…やばいんじゃないか…?
「…100万なんて大金…ないに決まってる」
「そうだろうねぇ」
一人がじりじりと距離を縮めてきて、後ずさろうにも後ろは壁だった。
「………なにがしたい…」
「ここで裸んなってよ」
「………ふざけんな!」
眼鏡をとられ、ぼやける視界で男の手を払いのける。
なんのつもりでこんなこと…。
「じゃぁ俺らが脱がしてやろっか?」
「…くっ…やめろ!離せ!」
両手首を押さえつけられネクタイに手がかかるとサァーッと青ざめていった。
なんなんだ…!なんなんだよ!
「やめろ!やめっ…ぃっ…」
叫んで暴れると頬を殴られ、ジンジンと痛む。
ボタンを一気に外され蒼白していくのが分かった。
「身ぐるみ全部売り飛ばせばいくらんなるかな」
「こんなクタクタのスーツ売れるわけないだろ!」
尚もバタバタと暴れる俺を無視しベルトが抜き取られる。
やばい…これは本気でやばい…。
ここに全裸で放置されたら俺はどうやって帰ればいいんだ…。
こっから家までまだ後10分はあるんだぞ!
「…っ…やめろっ…よ…!」
「うっさいよ」
そいつの手に握られていたのはメリケンサックで、本気でガクガクと膝が震えた。
あんなので殴られたら…想像するだけで恐ろしい。
「………っ」
その腕が振り上げられ、ギュッと目を瞑る。
「おい!なにやってんだよ!」
その声にうっすら目をあける。
低く良く通るその声の主は、メリケンサックを手に付けたその男の腕を捻じ曲げ、そいつは「ぅう」とつらそうな声を漏らす。
「このうす汚い手でなにしようとしてたんだ。答えろ」
「ひっ…っ…はなっ…離…して…っ」
その手を離し肩を軽く押すとそいつらは転げるようにしてバタバタとその場を走って行った。
「……………………し…めぎ…?」
「安西さん…」
そいつらを見ていたあの恐ろしいほどキツイ目はもうそこにはなくて、心配そうに俺を見つめる瞳はいつもの七五三木の目だった。
安心した俺はその場にへなへなと座り込む。
「…こ…怖かった……」
「…………っ」
俺を見る安西の目は辛そうに伏せられ、下唇を噛んだ。
「ついて来るなって言ったのに…すみません」
「…何言ってんだよ…っ、その…た…助かった…まじで怖かった…ホント…」
「……っ…安西さん…触っていい?」
俺に触れようとした手が目の前で止まり、躊躇したように俺に戸惑いの目を向ける。
「…七五三木…ありがと…な…ほんと…」
余りの安心感にギュッと抱きつくと七五三木は驚いたように体を強張らせた後すぐに俺を抱きしめた。
「良かった…安西さんが無事で良かった…っ」
なんでこんなこいつは優しいんだよ…。
あんなに邪険にしたのに。
あんなに無下にしたのに。
「ありがとう…」
もう一度小さくつぶやくと、再び安西は俺を抱きしめる力を強めた。
2011/01/06
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