返信する

 ママ、
© プー 
作者のサイト 
 R指定:無し
 キーワード:マザコン ぽちゃ ショタ
 あらすじ:ぼく(マザコン)と、ママ(親ばか)の中学時代奮闘記!
▼一番下へ飛ぶ


ブルン。


ブルン、ブルン。





一台の車が学校の敷地内に堂々と入ってくる。


ぼくは顔を赤くした。


「来た!」


「嘘!?どこどこ」


「あ、本当だ!」


クラスメイトたちは授業中なのに、ガヤガヤ騒がしくなって先生が怒鳴った。


それでも、生徒たちの騒ぎは治まらず、みんな一緒になって窓から首を出して外を見つめる。


ぼくは、席で顔を真っ赤にして俯いていた。ぼくの席は一番前の窓際の特等席で、先生の許可付きだ。


「うふふふ」


隣の席の女生徒達が互いに目配せし合って、ぼくの丸い横顔をちらちら見つめた。


「おい、降りたぞ」


「出た、女王降臨」











生徒が好き勝手言うので、先生が生徒達の頭を引っぱたいた。だが、どの生徒も気にせずに窓から顔を出している。もはや授業にならくなったのを確認すると、先生も諦めて外を見つめた。





そして、とうとう。ぼくも、視線を校門の方へと移してしまう。


そこには…。


「健太ちゃ〜〜〜〜〜ん」


豪勢な服を着て、ブランドもののバックを下げたママがぼくに向かって手を振っている。


ママの腕の金の腕時計はキラキラと光っている。


苦笑いするとまた大声でぼくの名前を呼んだ。


生徒が一斉に笑う。


ぼくの顔はますます赤くなった。


気づいてないと思っているのか…だとしたら最悪だ、このパターンは。


「健太ちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」


「はぁーーーーーーい!」


ぼくは手を振って大声を上げた。クラス中が大盛り上がりだ。


「やったやった」


「超ウケるーー!」


ママはぼくを見ると満足したように微笑んで、職員室に向かって歩き出した。





クラスからは笑い声が耐えない。





「静かにしろよ」と生徒に注意する先生も頭を掻いて苦笑いしている。





近くの席の女子生徒が、こう言った。














「やだぁ。………マザコン」




当時の頃を記すと、とても長くなりそうだ。


ぼくは、あの頃。特別で、お母さんはもっと特別だった。


でも、だから今のぼくがいると思う。


ちょっと、情けない話だと思うけどよく聞いてくれ。





ぼくは小学六年生ののぽっちゃり…いや太った体型の少年だった。


当時は小学生でも半ズボンを恥ずかしがる時代だったが、ぼくは毎日ピチピチの反ズボンを履いて、ムチムチの太い太ももを見せて学校へ通っていた。


名前は武藤健太。平凡な名前だ。


家族はパパの武藤平次、ママは武藤道子。あと、高校生の年の離れたお兄ちゃん、武藤敏だ。


数ヶ月後に春休みがあり、それが終わると直に中学生となるぼくだったけど、未だに甘えん坊な性格は直せなかった。


お父さんやお兄ちゃんの目を盗んで、お母さんにいつもベタベタしていた。お風呂に一緒に入ったり、食後のデザートは食べさせてもらったり。


もちろん寝る時はいつも一緒だ。





ぼくがママに甘えているのを見ると、お兄ちゃんはよく冷やかしてきたが、ぼくは気にせず、ママにベッタリしていた。


「健太は、甘えん坊だね」








ぼくの丸い頭を撫でて言うお母さんに、「ただのマザコンだし」とお兄ちゃんはそっぽを向いていた。


「自分だって甘えたいくせに」


と、ママの膝の上で舌を出すと頭を二、三発殴って泣かされた。


本当は小さい時のように腕に抱っこしてもらいたかったけど、ママは抱っこよりも膝に乗せる様が好きらしい。ソファに持たれてるままの膝に乗っかってぼくは一緒にテレビを見た。


「お前が、重いんだよ。デブ」


ぼくの足をつねって意地悪してくるお兄ちゃんは、いつもママに言いつけてやった。


でも、昔からよくお兄ちゃんにデブと言われ泣かされた。


「違う!デブじゃない!」


そう言うと、お兄ちゃんはある日、上半身裸のぼくを鏡の前に立たせ、ぼくの胸を寄せて上げた。


「男はな。ふつーこんな大きなオッパイないって」


「あるよ…ぼく」


「何でだろ〜なあ?」


「…そんなの…だって…だって」


言っている意味に気がついて、もじもじしているとお腹の垂れた脂肪を摘まれて笑われた。


「じゃあな、デブのおとーとくん」





その日、落ち込んでいるぼくにママは言ってくれた。


「デブってのは首がない人の事をいうんだよ」って。


お兄ちゃんは、そんなぼくに「マザコン」。さらにママにまで「親ばか」と暴言を吐いて頭を引っぱたかれていた。


マザコン。とお兄ちゃんにそう言われても始めはそんな意識なんて全然なかった。


人より、ちょっとだけ親に甘えているかもしれない。けれど、みんな家に帰ったらママに甘えているんだ、と抱きしめられながら言い聞かされた。


そう納得してママの胸に顔を埋めて、毎日一緒に寝ていた。


ぼくはいつもママが来るまではすぐに寝付けなかった。電気を消すのが怖かった。だけど、ママが来て布団の中で抱きしめてくれると、すごくいい匂いがして、とても温くて、ぼくはすぐに眠る事ができた。





けれど、時が経つにつれ。ぼくは人に裸を見られるのを嫌うようになっていったのだ。


今までは、裸で家の中を好きなだけ走り回ってママにパンツを履かせてもらっていたのに、パンツ姿さえ見られるのも恥ずかしくなってきていた。


さらに、風呂に入っている最中に洗面所に誰かが入ってくる事にさえ敏感にもなった。


ぼくが恥ずかしがるようになったのはお兄ちゃんにとって一番のネタの様で、風呂に入っている時に用事もないのにドアを開け閉めしてきたりした。


「シャンプーあった?」


「リンスって空だっけ?」


「湯加減どうだ〜?」


「閉めろよ!閉めろよ!」


「おい、健太〜。また胸大きくなったんじゃないか〜って、あっち!!お湯かけんな!」


泣きながらママに言うと、ぼくが顔を真っ赤にしている様子が可愛いんだよ、と笑って怒ってくれなかった。


風呂上がりに、数発蹴ると倍にして返され、やっとママはお兄ちゃんを怒ってくれた。


自分でも不思議な事に日に日に羞恥心は高まっていった。お兄ちゃんや友達には絶対。そしてあのお母さんにさえ、あまり裸の姿を見られたくなくなっていったのだ。けれど、ママのしてくれる行為だけは、どうしても断れないでいた。


お風呂最中も、ママだけは気にせずに堂々と素っ裸で一緒に入ってきて、ぼくをいつものように膝の上に乗せて歌を歌った。


内心、ぼくはすごく恥ずかしかったが、お母さんは仕方がないと、どうしても思ってしまうのだった。


実際、数週間前まではこうしていたのだから。


お風呂の中で、お母さんに抱きかかえられながら、さりげなく股間に手を置いてガードするくせもついてきた。


けれど、結局は体を洗うときは万歳と言われ、股間から手を放し最終的にはお母さんにお尻まで洗ってもらうこととなった。


「俺、中一の弟が、母さんと一緒に風呂入ってるなんて、恥ずかしくて友達に言えねーんだけど」


裸で万歳して、お母さんに体を拭いてもらっている最中。お兄ちゃんが、洗面所に入ってきて、冷たい目でぼくを見つめた。





だがそんなぼくも思春期にさしかかり、ちょくちょくぼくは自分の部屋でおちんちんを触るようになったいった。


お母さんにはいつも勉強をやっているかと見張っていたが、たいていは一階にいる。


足音が来たら、ズボンを上げればいいだけだ。


ただ、問題はお兄ちゃんだ。たまにズボンの上からモゾモゾと股間をいじくっているとお兄ちゃんが「何してんだ〜」とわざとらしく入ってきたりするのだ。


「勝手に入ってくるなよ!」


「いいだろ〜?俺は、お前のお兄ちゃんなんだぞ?」


と部屋に入ってくる。近寄ってきて肩を組んでくるので、ぼくは宿題の数学の問題を考えている振りをする。内心はバレているかバレてないかと不安で、心臓が破裂しそうなくらい跳ねていた。


だが、実際はぼくの行動はお兄ちゃんには筒抜けだったんだと思う。


「チャックから何か飛び出してるぞ」


小学校の頃に話を戻そう。


小学校の頃、ぼくはいじめられていた。


いつも一緒のクラスでクラスのトラブルメーカーの吉田くんに標的にされていた。


クラスで一番大人しいぼくをしょっちゅう標的にして、「デブ」「ブタ」と言ってぼくをよく泣かしていた。


もちろん、お母さんがぼくの手を引いて吉田くんの家に行ったのは何回もある。


その時その時は、吉田くんも謝るのだが、毎回ぼくへのちょっかいは止まなかった。


毎回、泣いた時に口にする「ママ〜〜〜」の口調をみんなの前で真似され、小学六年の時に、「マザコンデブ」とあだ名を付けられ広められた、六年の終わりにはクラス全員から虐められた。


だが、全て彼のせいだけでないのは先生も分かっているようだった。


学校にはよくママは車で迎えにきたし、みんなの前で平気でキスをしてきた。さすがに恥ずかしかったが、ママは平然と家でぼくを扱うようにぼくの手を引いて車に乗せ、学校を後にした。


「健太は母ちゃんのおっぱいまだ飲んどるぞ」


「お風呂は絶対母ちゃんと一緒だぞ」


「オネショするから、毎日寝る時はオムツ付けとるぞ」


一部事実もあったが、そんなことを広められたらぼくは黙って入られない。








「泣くぞ〜泣くぞ〜」


「っく…っくぅ…っぅ……」





机で歯を食いしばるぼくの横で、吉田くんは指で数字を作ってカウントを始める。


「5!」


「4!みんなもご一緒に!」


みんなに手拍子するように吉田くんが指示した。


「3!!」


男子生徒全員が混ざった。


「2!!!!」


女子生徒も声を揃える。


「……1!」


「…………………うぅわあああん」


カウントと同時に泣いてしまうぼくが可笑しいらしかった。そしてもう一つ。


「はい、言うよ〜言うよ〜……みんな聞いてよ〜…はい!!!」


「ママ〜〜〜〜〜〜」





友達がほんのたまに家に遊びにくる事もあった。


だが、ぼくの家に入るなりぼくがママに抱きしめられ、キスをされているのを見て不快な顔をするのは初めての子なら当然の反応だった。


「別に、今日だけだよ」と顔を真っ赤にして言うと。「そう」と言ってそっぽを向かれた。


友達の前だといくら優しいママでも、ほんの少しだけ鬱陶しく思えた。


さらに友達とゲームをやっている最中に、お菓子を運んできてママは、ぼくの口にケーキを運んでくれる。


「ゲームできないよぉ」


と駄々をこねるようにいうと、ハンカチでぼくの口をちょっと拭いてから友達に笑顔で頭を下げて出て行った。


もちろん、その友達は二度と家に来る事はなかった。そしてその事はクラス中に広められた。


「チューしとったろ?」


「俺が行ったときなんて、おしっこ手伝ってもらっとたぞ」


「そうそ、パンツ脱ぐ時なんてさ、全部ママに脱がしてもらってんの。下半身丸裸でトイレに入ってちんちん拭いてもらって、またパンツ履かせてもらうんだぜ」


「赤ちゃんじゃん」


ぼくは耳たぶを真っ赤にさせて席で座っていた。


「健太赤ちゃん〜」と声をかけられると反対方向を向いた。


「こっちだよ、バブバブ」


「いないないバ〜」


「あ〜笑った。キンモ〜〜〜〜」


そう言って胸を強く揉まれた。痛くて暴れると席から落ちてみんなに笑われた。





そんな小学時代があり、今のぼくがある。


ある日、お風呂上がりにお母さんに体を拭いてもらっている最中。


ぼくはお母さんに、いつまで一緒に風呂に入るのかを尋ねた。


「健太が、大きくなるまでね」


お母さんはいつものようにそう微笑んでぼくにパンツを広げた。ぼくは足を通す。


「大きいよ、ぼく」


「あ、またお兄ちゃんに何か言われたの?」





お母さんがパンツを膝のところで止めて、目の色を変える。


「ち、違うよ」


「ふふ」とお母さんは笑って、ぼくの小さな性器を指でトントンと撫でるように突いた。つい腰を引いてしまう。


「ここは、まだ小さいかな」


大きくだってなるよ。と言いたかったが、もちろんそんなこと言えない。ぷっくり膨れたお腹にキスをしてもらって、シャツを着せられ寝床に付いた。その日もお母さんが隣に来るまで寝付けなかった。


そして時は過ぎ、二月。


高校生の内山美咲というお姉ちゃんに市民プールに誘われた。


美咲さんは実は昔から仲がよく、小学生時代はお兄ちゃん、美咲姉ちゃん、ぼく、と三人でよく遊んでいて、三人でよくいろいろな悪さをしたのを覚えている。


最近はお兄ちゃん同様、お姉ちゃんも高校生に上がり、遊んでもらえる日はなかったが、こうやって誘ってもらえるのは嬉しい事のように感じた。


「健太くんがよければだけど」


半ば遠慮した姿勢で誘ってくれるお姉ちゃんが不思議に思えた。


「行く行く行く!」と子犬のように首をぴょこぴょこ振って頷いたら、「よかった、変わってないね」と言われた。


普通、中学生になったらちょっとは恥ずかしがるのだとか。


「健太くんは、まだそういう時期じゃないのかな」


お姉ちゃんがそう笑った言った顔は、もの凄く奇麗だった。


もちろん、お兄ちゃんは最後まで大反対していた。何でも、弟を連れて行くのが恥ずかしいらしい。


本当は、自分がお姉ちゃんと二人で行きたいだけなのに、それを知っててそう言う、お兄ちゃんをぼくはすごく腹立たしく感じた。


「行くもん!」








ぼくが怒ると、「お前みたいなデブが入るとプールが腐る」と言ってお尻を蹴ってきた。


ママに言うと、お兄ちゃんは泣くまで説教されることになった。


翌日の天気は最高だった。


室内プールだから実は関係ないのだが、ぼくの気持ちは天気以上に晴れていた。


帽子を被って、水着の入ったバッグを背負って、首から黄色のガマガエルのついた紐をぶら下げた。


「あら、可愛い」


ママはそう言ってぼくを抱きしめてくれた。


「水着ちゃんと持った?」


「うん」


昨日も、今日の朝も何度も確認した。水着のレンタルはないところだから忘れたら入れないのは知っていた。


「じゃあ、バス停まで着いて行くわね」


ママはさっそく靴に履き替える。


「バス停って、歩いてすぐそこだろ。化粧なんてして。ったくー」


お兄ちゃんがママを鬱陶しそうに見つめる。ちょっとムカついたので足に蹴りを入れて逃げた。


外はまだ肌寒かったが。ママはプールに入っていっぱい泳いだら温かくなると説明してくれた。手を繋いで二人で歩くと、女子高校生達がぼくを見て、「可愛い〜」と笑った。


当時のぼくはすごく嬉しかったが、実際は小学生に間違えられたと思う。





あんな幼稚園児の様な姿でママに手を繋いでもらっていたら、誰にだって中学生になんて見られないだろう。


「敏、健ちゃんが溺れないか見ときなよ」


駅が近くなるとママがお兄ちゃんにしつこく言う。実は昨日までママはぼくを子供用のプールで泳がせようとしていた。実際ぼくはママと一緒にいったプールでは大人用のプールで一度も泳がせてもらった事がなかった。


小学生の時、市民プールでぼくより年下の子どもが大人用のプールで追いかけっこをしているのを、ぼくは園児に紛れ、一人羨ましそうにそれを見つめていた。いつもは意地悪をするお兄ちゃんもその時はママに「健太が可哀想だ」と反抗してくれた。それは今でも忘れていない。


もちろん学校のプールにも当然被害が及んだ。


「うちの健太を水没させる気ですか!?」


とママが校長に詰め寄った事がある。


一年生から三年生までママの勝手な意見でぼくはプールを休ませられた。四年になると若い体育の先生が担任となり、ママに説得してやっと許可が下りたのだ。


けれど、四年で初めてプールに入るように言われたぼくは、当初、顔に水を付ける練習から始まり、体全部を水に入れる事ができなかった。


そんなおどおどしたぼくの水泳帽子を生徒達が取りあげ、プールの真ん中でひらひらさせた。


ぼくは泣きながらプールに飛び込み、死にものぐるいで彼らを追いかけた。








それは、手足をバタバタさせるぐちゃぐちゃな泳ぎ方だったが、いつの間にかぼくはプールの端から端まで泳ぎ切っていたのだ。


その時は凄く嬉しかった。


先生や生徒から一斉に拍手が聞こえて、生徒が帽子を返しにきた。


先生の巧妙なアイディアでわざと帽子を取り上げ、ぼくに自信をつけさせたらしい。


それをきっかけでぼくは泳げるようになったのだが、その事をママに嬉しそうに話したら、ママは顔を真っ青にしてぼくの手を引いて校長室に向かったと言う訳だ。


その先生はその年以降、学校にくる事はなかった。





ともあれ、あれだけぼくを庇ってくれたお兄ちゃんも、今はぼくの敵だった。どうしてもお姉ちゃんと二人きりになりたい様子で。


「やっぱり健太は、赤ちゃんプールがお似合いだ」と、意見を180度裏返してママに賛成する。


だが、普段滅多にママのやる事に何も口を挟まないパパが、「さすがに中学生なのだから」と意見を言ってくれて浮き輪ありで許可が下りた。


それでもぼくは浮き輪わざと持ってこなかった。


持って行けばお兄ちゃんにわざと付けられて仲間はずれにされるし、忘れたと嘘をつけば浮き輪なしで泳ぐしかない。


ママは最後までぼくの心配をしていたが、バス停が見えると立ち止まって「喧嘩しちゃダメよ」とだけぼくらに付け加えた。





バス停には美咲お姉ちゃんが立っていた。遠くから見ても一発で分かるくらいとびきりの美人だ。


兄ちゃんはちょっと機嫌を良くしたのかぼくを置いてさっさと、走って行ってしまう。


「じゃあ、ママは行くからね」


ママはぼくをぎゅっと抱きしめた。


外だったのでちょっと恥ずかしかった。お姉ちゃんの方を片目で見ると、お兄ちゃんと楽しそうに話しいる。そしてぼくに気づいて、こちらに向かって大きく手を振った。


見られたと思い、顔が赤くなった。


「ママぁ…」


弱々しく言って、ぼくはママの胸から離れた。


「何?チューしたいの?」


「ん〜〜〜ん〜〜」


嫌とも言えず首を振れず、気持ちを伝えたくて、甘えた声で地団駄を踏んでモジモジする。


「わかった、わかった」とママは頷いて、道の真ん中で思い切り唇にキスをされた。


ママと手を振って別れると、ぼくは小走りでお姉ちゃん達の方へ駆けて行った。


お姉ちゃんが元気よく「おはよー!」と言ってぼくの頭を撫でてくれた。


「この甘えん坊〜〜」





お姉ちゃんは悪戯っぽい顔で、早速ぼくの耳たぶを軽く横に引っ張って笑いかけてくる。


「え?」と顔をすると、「見てたわよ〜」と言って、ニッコリした。


「えへへ」と苦笑いしてぼくは頭を掻く。


「もー、ほんと健太くんは昔から変わらないわねー」


「そうそう。家でも母さんに甘えてばっか。見ててこっちが頭痛くなるよ。ママー、ママーの繰り返し」


お兄ちゃんがそう付け加えると、お姉ちゃんはクスッと笑った。途端に胸が焼けるくらい恥ずかしくなる。


「まだ、中学一年生だからいいじゃんね〜」


それでもお姉ちゃんはそう言って笑ってくれた。ぼくは嬉しくなってニッコリと微笑む。


「もうすぐ中二だぜ」


ぼそっとお兄ちゃんが呟く。


「いいじゃ〜ん、健太くん可愛いんだし」


お姉ちゃんはそう言って後ろからぼくの肩を軽く抱いた。あまりの嬉しさで頭がボーッとした。


お兄ちゃんだけ詰まらなそうに、そんなぼくとお姉ちゃんの楽しそうな姿を見つめていた。


三人でバスに乗ると、三人で一番奥の席へ座った。


もちろんお姉ちゃんの隣に座りたかったが、わざとお兄ちゃんはぼくとお姉ちゃんの真ん中に座った。お姉ちゃんはもちろんそんなこと全く気にしなかったが、ぼくは大反発だった。


「やあだあああ」


ぼくが高い声を上げてお兄ちゃんの方を両手で押す。


お兄ちゃんは「ヤダねー」と、子どものように舌を出してぼくに挑発した。


お姉ちゃんはぼくらのいつもの兄弟喧嘩を楽しそうに眺めていたが、ぼくは本気だった。


しつこくお兄ちゃんの服を引っ張っていると、お兄ちゃんがぼくの頭を小突いた。


「嫌なら、前に行けブタ!」


「あ!酷い!」


お姉ちゃんはお兄ちゃんは唇を突きつけて立ち上がると、反対側のぼくの隣に来る。


つまり、ぼくが今度は真ん中だ。


「これで、健太くんと話せるね〜」


「うん」


ぼくは白い歯を見せてにっこりする。


「チェッ」とお兄ちゃんは舌を鳴らして、前の席へ移動してしまった。


プールに着くと、お兄ちゃんはお姉ちゃんの分もチケットを買って上げていた。


「ありがと…」とちょっと顔を赤くして照れくさそうに言うお姉ちゃんは、まるでぼくがお姉ちゃんを見つめるようにお兄ちゃんを見つめていた。


かっこいい服を着て、スラッと足の長いお兄ちゃんは、短足でお腹をぽこっと出して、黄色いガマガエルの財布をぶら下げているぼくととても異なって見えた。


「お前は、自分で払え」


とお兄ちゃんがぼくに言うので、財布から500円玉を取り出すとお姉ちゃんが財布を出そうとする。


結局お兄ちゃんが全額払う事となった。


「ありがと」と、素直に言うと案の定無視された。


「それじゃあ、また後でね〜」


「うん」


お姉ちゃんと手を振ってぼくも更衣室に向かった。


プール独特の臭いが鼻を突いた。昔はよくここに来たっけ。と急に懐かしくなった。


それにしてもロッカーには誰一人としていない。もう着替えたのか、お兄ちゃんの姿さえいなかった。


昔はもっと人気があった。子ども同士で来たり、親子連れ、カップル…。朝からいろいろな人たちの泳いでいるのを見る事ができた。


そこではっとぼくは思い出す。今日は泳げるんだ。市民プールで自由に泳ぐのは初めて。


胸の鼓動が高まった。四年生から始めた分、泳ぎはずっと人より遅いけれど、それでも一人で泳げるようにはなった。


ぼくはもう一度人がいないのを確認して、たちまち全裸になった。和明くんとは対照的なツルツルで小さな性器がまたの間に付いていた。


もう一度辺りを見回した。去年はぼくも小学生の終わり、まだ六年生だ。


中学一年生になりたての時期ににぼくはこう思ったものだ。


どうして最近、裸を見られると恥ずかしいのだろう。


好きなママにさえ、いつもと同じ裸を見られるのに抵抗を感じるのだろうと。


けれど今は逆だ。


どうして去年までずっと裸を見られるのがへっちゃらだったのだろう、と。


友達のにエッチな事を教わったからかもしれない。けれど、女の人の裸を見て興奮するのは人間の本能だと和明くんから、そして性教育の時間でも教わった。


性教育の時間はクラスの男子生徒はぎゃーぎゃー嬉しそうに騒いでいたが、プロに教わっているぼくにはどうってことなかったのだけれど。








それでも、思春期とは不思議なものだと思い直した。今までは素直に受け止めれてきた事が、なんだか照れくさくなってしまうことがまちまちあるのだから。


ふと、鏡でぼくのお尻が映っていた。人より数倍大きかった。手足もムチムチで太くて、胸もあって、お腹もぼこっと膨らんでいる。ちょっとお姉ちゃんに見せるのが恥ずかしくなった。


昨日ご飯を食べなかったら、もうちょっと体格も変わっていたかなとお腹を擦る。





ぼくはさっそくバッグを開けて、水着を取り出した。


だが、それは昨日買ってもらった水着と違うった。明らかに小さい。


不思議に思って鞄の中を弄る。だが、水着は見つからない。。


不安になりながらその水着を見つめる。内側にペンで、〈四年一組・武藤健太〉と書かれていた。ママがぼくが四年生の時に書いてくれた字だった。


顔から血の気が引く。もう一度鞄をあさった。


水中眼鏡。


「違う」


バスタオル


「違う!」


帽子。


「…違う!!!」


最後に紙切れが出てきた。ぼくは涙目になりながら、それを摘まみ上げる。





〈お姉ちゃんに、大きいお尻見てもらえ〉


汚い字でそこにそう殴り書きがしてあった。


うわああああ。


ぼくは紙を地面に投げ捨てて、裸のまま泣きわめいた。


「ママーーーーー」


一人で叫んでも誰も来なかった。ロッカーはシンとして誰もいない。


五分程して、ぼくはもう一度、小学生用の水着を手に取り、太い足を通した。


思い切り腰まで上げるとピチピチのパンツの横からチョロっと小さなおちんちんがはみ出している。またじわっと目に涙がたまった。


手でおちんちんをパンツにぎゅっと押し込むとお尻にパンツが食い込んでいる事が分かった。キツくてお尻が締め付けられて痛かった。全て手で直してから、鏡で再度チェックした。


前は、ほとんど股間を覆える様なだけの役割をしている。後ろは太もも上のお尻の肉が垂れ下がりまるでTバックみたいだ。背中下からはお尻の割れ目が半分程見えている。


お兄ちゃんが書いた紙の意味がやっとわかった気がした。


またぼくは、わあああ。と泣き出した。昨日ママにせっかっく買ってもらった水着を履けなかった事と、こんな恥ずかしい格好でお姉ちゃんと遊ぶのが悲しくて、悔しくてたまらなかった。








その日の夜、お兄ちゃんの悪さはママにバレて、お兄ちゃんに罰として夕食抜き食らった。


ぼくは叱られてシュンとしているお兄ちゃんを鼻で笑ってやると、ママに抱きかかえられた。抱っこだと思ったが、膝の上でうつ伏せにされズボンとパンツを一気に剥ぎ取られた。


「ま、マ…マ???」


顔を上げるとママのつり上がった目が合った。ぼくはさっと表情を蒼くした。


次の瞬間。ピシャッ。ピシャッ。と平手でお尻たたきをされた。


たちまちぼくは訳も分からず泣き出した。


「健太!何で浮き輪、置いてったの!??」


「うぅっ……っぐぅ…ごめんな…ざ…うぁあ」


さらにお尻を叩かれてぼくは泣き声を上げる。


「どうして、ママの言う事が聞けないの?忘れてたじゃ済まないでしょ?もし溺れたらどうするの!?」


「うわぁあ…ごめんな…さいいぃい」





ぼくはその後、泣きじゃくりながら夕食を食べた。





すぐに、三月が来て。春休みが来てすぐ終わり。新学期が来た。


二年生になってもママは相変わらずぼくの身の回りの世話を全部やってくれた。


一年生の時に裸を見られるのを恥ずかしがっていたぼくだったが、二年になると不思議とぼくは再び羞恥心をなくしていった。


おちんちんにも毛はまだ生えなかったし、ぼくは平気でママとお風呂に入って体の隅々まで拭いてもらい、パンツを履かせてもらっていた。


「ママー」


カレーを口の周りにべっとり付けて上手く食べれない時は、駄々をこねたこともあった。デザート以外は自分で食べるように言われていたぼくだったが、夕食でさえもママに食べさせてもらいたくてわざとスプーンを後ろに放り投げた。


「健太!中二なんだから自分で食べなさい」


ママに任せ主義のパパもぼくの甘えっぷりに怒って、ぼくを怖い目で睨みつけた。


口の周りを汚して涎掛けを付けているぼくは家の中では赤ん坊同然のようだったと今更ながら恥ずかしく思う。


「ママーっ!」


食器の片付けをしていたママは手が空いていなく、「甘えん坊にはなし」と言ってぼくのカレーを取り上げてしまった。


大泣きしていると、「テレビが聞こえん」とお兄ちゃんが文句を言って、ぼくはリビングから蹴飛ばされた。


夜中にお腹がすいたとママに泣きつくと、「今日だけだよ」と言い、取っておいたカレーを全部食べさせてくれた。


カレーの話の後に悪いが、先よりはマシだろう。うんちの時もママが隣にいてくれたときはお尻を拭いてもらった。中一のときは一時顔から火が出る程


恥ずかしくなりうんち中は鍵をかけてするようになっていたが、最近はまた小学六年生の時のように、ズボンとパンツを全部トイレの前で脱いでからトイレに入った。そうするとママはぼくがトイレに入っている事に気づいてお尻を拭いてくれることがあるからだ。





二年生になって一つ気になる事があった。新しいクラスで、吉田くんと一緒になったのである。


小学校の頃とは大分雰囲気も違う吉田くんだったが、小学校の頃虐められていたぼくは、吉田くんを毎日警戒していた。


「何、気にしてんだよ」


そう言って吉田くんはぼくの肩に手を置いてくれた。


ぼくは嬉しくなって、その日、ママにその事を話した。


小学校の時友達だった吉田くんと今は仲が良くて、今日は一緒に安全な遊びをしたと話した。ママの言う安全な遊びはモノを使わない遊びの事だ。サッカーボール、ましてや野球のボールは子どもにとって凶器そのものだと、何も言わないパパの横でいつもママは力説していた。





「ねー明日、吉田くん、うち呼んでいいでしょ?」


ぼくはママにそう尋ねた。聞かなくてもわかっていた。家が一番安全な場所と思っているママは微笑んで頷いてくれた。


最初に家に来たいと言ったのは吉田くんだった。小学校の時一度来て、ぼくを泣かせたのを激怒したままが吉田くんの出入りを禁止したのを覚えている。


吉 田くんは次の日ママの悪口を学校でたくさん言って、クラスの連中をぼくから遠ざけさせた。ついでにぼくが帰ったら、ママのおっぱいをまだ吸っていると嘘ま で広めて、ぼくは数日間みんなから無視され続けた。先生が数日後に気づいて学級会を開いて、なんとか口は利いてもらえるようになったのだ。


ママは、今はあまり吉田くんの事を覚えていないようだった。ただ、ぼくに良くしてくれているというだけで喜んでくれたので嬉しかった。








次の日、ぼくは吉田くんを連れて家に上がった。ママは吉田くんに満面の笑みを見せて、吉田くんは礼儀ただしくお辞儀をした。ママは礼儀正しい子が大好きなのでさっそく吉田くんを気に入った。


「いい友達ができたわね」とぼくの頬にキスをした。


後ろに吉田くんがいたのでぼくはママからすぐ離れた。ママに最近甘えっぱなしのぼくだが、さすがに小学校同様、友達の前でママに甘やかされるのは火にあぶられるくらい恥ずかしさを感じた。


それでも、吉田くんは何も言わなかった。


二人でぼくの部屋に入ると、吉田くんは驚いて声を上げていた。


それもそのはず、当時のぼくはゲームを山ほど持っていた。ほぼ全種類のゲーム機が揃い、たまにゲーム機本体からカセットまで同じものが二つ揃っている事だってあった。


お兄ちゃんにやらせてもらえないと泣きつくぼくに、ママがお兄ちゃんと同じゲーム機を全部買い揃えてくれたためだ。


「超親ばか」と呟くお兄ちゃんは3日間ゲーム禁止になって泣いていた。


最 近はお兄ちゃんはパソコンゲームにハマっているようで、ついこの前、ほとんどのゲームをぼくに譲ってくれた。あまりの嬉しさに足をバタバタさせながら理由 を聞くと、パソコンゲームはもっとエロいゲームがたくさんあるのだとか。「やりたい?」と聞かれて首を小さく振ると「また今度な」と言って部屋に戻って 行った。


そんな訳で100種類以上のゲームカセットが揃う中、二人で端っこから選んで一緒にゲームを始めた。初めてやるゲームが多かったので二人で訳が分





からず適当にボタンをいじくってたりして「意味わかんねー」と言い合って笑った。それだけで楽しかった。





数十分経つとママがおやつのケーキを持って部屋に入ってきた。


右手にはお盆と一緒に涎掛けを持っている。ぼくはそれを見るだけで想像がついて顔を赤くした。


「吉田くんだっけ?食べてね〜」


ケーキを吉田くんの前に置いてママは微笑んだ。


「ありがとうございます」と丁寧に言って吉田くんは崩したを、正座に直した。


そしてぼくの方をちらっと横目で見つめた。ぼくはママに涎掛けを付けてもらい、真っ赤な顔をしながら吉田くんの顔を見ようとしなかった。


「はい、じゃあ。健太ちゃん、あ〜〜〜ん」


視線を感じてぼくは吉田くんをちらっと見つめる。吉田くんはさっと視線を反らした。


「ほらー。健太ちゃん、ケーキ落ちちゃうわよ」


ママの声がしてぼくは口を開けた。口の周りにケーキが付いて、ママは持っていた布巾でぼくの口を丁寧に拭いた。


吉田くんの目を気にしてぼくはママに早く行ってほしいと思う反面、なかなかケーキは減らなかった。


三口目が終わった頃。吉田くんが信じられない台詞を吐いた。


「ぼくが、やるからいいですよ」


ママが驚いて顔を上げた。そして当然、ぼくも。





「え??」ぼくが涎掛けをかけながら、口の周りにケーキをいっぱい付けて吉田くんをボーット見つめていると、ママは急に恥ずかしそうに布巾でぼくの口をごしごし拭いて、「じゃあ吉田くんに頼んじゃおかしら」と言った。


信じられなかった。まるで、夢でも見ているようで、転がっているゲームのように展開が分からない方向へぼくは進んで行くようにすら感じた。ぼくのケーキを受け取った吉田くんは「あーーーん」と言いながらぼくに微笑んでケーキをぼくの口の方へと持って行く。


ぼくは戸惑って口も開けれないでいると、ママがぼくの頭を軽く叩いた。


「健太ちゃん、ケーキ!」


「う、うん!」慌てて返事してぼくは口を開ける。ケーキを食べると吉田くんの口元がニヤリと笑った気がした。一瞬の事で、気のせいだと思った。


「吉田くんが健太ちゃんの面倒見てくれるとと、私も助かるわ」


ママは吉田くんの頭を撫でて、すごく嬉しそうに微笑んだ。


「学校でも健太ちゃんの事、ちゃんと見てあげてね」


「もちろんです。健太くんはぼくの弟みたいな存在ですから」


(弟??)


わけもわからずオロオロしていると次のケーキの欠片がぼくの口元に寄せられる。


去って行くママを横目にぼくは、吉田くんの持っているフォークにパクついた。





「…自分で食べる」


ママが言ったのを確認して、ぼくは吉田くんからケーキをとろうとすると、吉田くんは手を引っ込めた。


「何でさ」


「何でって…当たり前じゃん」


「だって、健太。一人じゃ食べれないんだろ?」


「……な、何言ってんの!?」


「じゃあ何だよ、それ」


フォークでぼくの涎掛けを指して吉田くんは言う。急な吉田くんの変わりようにぼくは慌てるばかりだ。


「違うよ……いいよ。じゃあ、いらない」


「ダメだよ。ママがせっかく持ってきてくれたもん。それにおやつは栄養のバランスにいいんだ」


まるで子どもに向かって説明するように吉田くんはそう言ってケーキの端をフォークで挿て掬った。


「ほら、口開けて。健太ちゃん」


「やだ…やめてよ…」


「はい、あーーーーん」


「ちょっと、吉田くん!!」


思わず声を上げる。すると吉田くんは怒ってコップに入ったオレンジジュースをぼくのTシャツとズボンにかけた。





「………わっ!!!…ああああ」


泣きそうな声を上げると吉田くんは急に立ち上がって部屋から出て行った。少しするとママを連れて部屋に戻ってきた。


「健太ちゃん!」


ママが濡れたぼくに怒鳴る。もう、何がなんだか訳が分からない。


「ごめんなさい」と代わりに謝る吉田くん。


「ぼくが飲ましてあげようとしたら、急に暴れ出して……」


ママは奇麗好きだ。部屋をちょっと汚しただけでよくお尻をぶたれた。今回もママはつり上がった目をぼくに向けていた。



その次の日、ついに吉田くんは昨日の事をクラスに打ちまけた。


最初は誰も信じなかった。クラス全員が吉田くんに「馬鹿言うな」「そんな中学生なんているか」と毒を吐いた。


だが、そこでクラスメイトの女子生徒の土井さんが一人、吉田くんの話を肯定した。


一緒の小学校から来た生徒だった。今ではクラスメイトでも一度もしゃべらなかった。小学校時代のことは忘れてくれてるとばかり思っていた。


「この話、本当よ。武藤くん、超マザコンだもん」


「うっそ?」


「マジで?」


その日は雨だったので、運悪く生徒たちは全員教室内にいた。全員がぼくと、吉田くん、土井さんを交互に見つめる。


「母ちゃんにいつも迎えにきてもらってたしね」


「泣くとね、絶対ママーっていうの」


「いつもママと寝てるんだぜ?」


二人に思い出話をされるように、次々とぼくの過去は暴かれて行く。


ぼくが言い返さない事と生徒たちは改めてぼくをまじまじと見つめた。


それが中学時代のイジメの始まりだった。





その日をさかえに、ぼくの家に遊びにくる生徒は数を増した。


五人くらいで大勢で生徒が来るときだってあった。


ママはいつもみんなを優しく迎えた後、ぼくに抱きついて、キスをした。


「今日も、友達いっぱい連れてきたのね」と嬉しそうに笑った。


けれど、もちろんぼくは全然嬉しくなかった。隣でぼくの恥ずかしそうな顔を見て笑っている吉田くんと、引いた顔で見ている連中らに向き直り部屋を案内した。


誰もが別にぼくと遊びたい訳じゃなかった。みんなぼくのマザコンぶりが本当なのか確かめたく家にきて、翌日にそれを学校で発表された。


「昨日、このデブさー」


「はは、ママーママーって言っとった。俺見たもんマジで」


「私も今度行ってみようかな〜」


「じゃあ、吉田くん。あたしたちも連れてって〜」


社会見学のようにぼくの家は数多くの友達に訪問され、ぼくのママにされている行為はクラス中、もはや学校中に広められていった。


中学ではママに甘えている事は内緒にしたかったぼくは、みんなに知られて、「隠れマザコンデブ」とも言われた。








春休みの終わりの頃、お兄ちゃんは就職が決まったからと言って家を出る準備をしていた。


大学に行けと言うママの反対を押し切って、お兄ちゃんは家を出ていくと言った。


ママは最後まで怒っていたがお兄ちゃんはちっとも気にしていない様子だった。


「大学行け!」


ママが泣いているのを見て、ぼくはお兄ちゃんをよく蹴跳ばした。お兄ちゃんは蹴り返してこなかった。熱心に東京で済む家を探していた。


「大学行け馬鹿!」


しつこく蹴ると、お兄ちゃんはチッと舌打ちしてぼくを泣かした。


「ママーっ!」とぼくが言って泣くと、あと三発ほど殴られた。


「ママーはもう止めろ」


「うわああ、ママー!」


また五発追加された。ぼくは階段を走って降りて、ママに泣きついた。


ママはずっと怒っていたが、お兄ちゃんが出て行く前日、凄く豪華な夕食を作ってくれた。よくママは記念日に豪華な食事を作るのだが、その日が一番凄かったと思う。


そして最後の夜、ママはお兄ちゃんと久しぶりに一緒に寝た。


「今日はごめんね」


ママはそう言ってぼくの額にキスをしてぼくを先に寝かした。ぼくは寝た振りをして、たまにお兄ちゃんの部屋の前に行って様子を見に行った。ママがお兄ちゃんにキスをする音が聞こえて恥ずかしくなって部屋に戻った。





お兄ちゃんが出発する朝、ぼくとママと美咲お姉ちゃん三人でバス停まで送りに行った。


お姉ちゃんはお兄ちゃんに何かプレゼントを渡していた。お兄ちゃんは照れくさそうな顔をして「ありがと」とお姉ちゃんと握手した。


ママは泣きながらお兄ちゃんを抱きしめ、頬にキスをした。お兄ちゃんは恥ずかしがる様子はちっともなくママをぎゅっと抱きしめていた。


ぼくはこっそりハンカチをお兄ちゃんに買ってあげていたが、なかなか渡せないでいた。


バスが止まって、お兄ちゃんはママとお姉ちゃんに別れを告げた。ぼくは結局恥ずかしくて一言も話せれないでいた。ポケットの中でハンカチを強く握った。


とうとうお兄ちゃんは背中を見せて、バスに乗る。


「……あ、忘れた」


お兄ちゃんは一言、そう言ってぼくの傍へ来た。キョトンとしているとお兄ちゃんはさっと屈んで、ぼくのズボンとパンツを同時に下ろした。


「え………ぁああ!」








ママもお姉ちゃんもぼくの股にちょろっと付いたおちんちんを見て大笑いしていた。バスの運転手さんも、そしてお客さんも窓からぼくの姿を見てくすくす笑っている。


「こんなんじゃ、美咲姉ちゃん満足させれねーぞ」


慌ててズボンとパンツを上げて、顔を真っ赤にしてお姉ちゃんを見上げた。お姉ちゃんは何も言わずクスクス笑っている。


涙目になりながらハンカチをお兄ちゃんに投げつけると「ああ、くれんの?」と、お兄ちゃんはニッと笑って、バスに乗った。





帰り道、ママと手を繋いで帰るぼくのもう片手をお姉ちゃんがぎゅっと握った。


二人に手を繋いでもらって嬉しくて、何度もはしゃいで馬鹿をやって、ママに怒られた。お姉ちゃんはずっと笑っていた。


「健太くん」


お姉ちゃんの家に先に着くと、お姉ちゃんはぼくのおでこにキスをして「また今度ね」と告げて家に走って行った。


頬が赤くなって、ぼくはママの前でちょっと恥ずかしかった。ママはちょっとニタッと笑ってお姉ちゃんのキスをしてくれた額の上にもう一度キスをした。


「まだ、渡さないわよ」と言って笑っていた。意味を聞いたが教えてくれなかった。








ぼくは中学三年生になると、美咲お姉ちゃんの家で、大学生のお姉ちゃんと一緒に勉強する毎日を過ごしていた。


お姉ちゃんは勉強には厳しく、ぼくが勉強をサボるとすぐに頭をすぐ引っぱたいた。泣いて、「ママー」と口癖を言ってしまうと家から摘み出された。


学校の事を聞かれて、ついぼくは虐められてる事を話してしまった。何をされてるのかは言えなかったが、そこまで聞いてこなかった。


ただ、どうしてやりかえさないのかとしつこく尋ねてきた。何も言わないでいると「弱虫は嫌い」と言われその日も家に帰って勉強するように言われた。





そして、その夏。一番酷く心に残る出来事が起こった。


吉田くんは帰り道、ぼくをママの前で射精させてやると言い出したのだ。


まだママには勃起さえ見られた事がないぼくは必死で断ったが、吉田くんは無理矢理僕の家に押し掛けた。


吉田くんが来ると、いつものようにママは喜んで吉田くんを温かく出迎えた。


吉田くんとママにケーキを口に運んでもらった後、ぼくは吉田くんに体を押さえつけられ、ズボンの上からおちんちんを強く揉まれた。


ぼくのおちんちんが完全に硬くなると、吉田くんは「ママを呼ぶからちんちん見てもらうように言えよ」と言って、ニヤニヤしながらママを呼びに行った。


ぼくはママが来た時は今にも泣きそうで、ママを大いに驚かせた。


部屋に入ってきたママはぼくにすぐ駆け寄った。


ぼくは顔を真っ赤に染めながら、吉田くんに言われた通り、ママに小さな声でぼそっと呟いた。


「ちん……ユい」


「え?」


ママは聞き返してくる。ぼくは俯いた。


そして、股間に両手を置きながら「ちんちんカユい」と少し声を張り上げて唸った。





ママは無邪気に笑って、「見せてみて」と優しくぼくに頷きかけた。


ぼくはゆっくり立ち上がる。ぼくのズボンの股間はぽこっと膨らんでいる。


ママはまだ気づいていなかったけれど、吉田くんはママがどんな反応をするのかじっくり伺っていた。


心臓をばくばくさせながらママに背を向けてズボンを脱いだ。ブリーフ一丁になると、前がテントを張っているのがよくわかる。横で吉田くんが吹き出しそうになるのを堪えているように見えた。なかなかママの方を向けなかった。ママにテントを見せるのだけはどうしても嫌だった。


「どうしたの?」


ママがそう聞いてきた。ぼくは股間を押さえながらママの方へゆっくりと振り向く。ぼくの両手の中では吉田くんにいじくられて、硬く熱くなったものがある。


「やっぱ…だめ…」


ぼくは泣きそうな声でママにせがんだ。「やっぱり、いい」


「何恥ずかしがってんの。見せなさい」


ママはぼくの腰の前で屈む。ママの目と鼻の先にぼくの硬いものがある。ママはぼくの重なった右手を放した。


「や…だ」


もう可愛がってもらえなくなるかもしれない。


吉田くんが息をひそめる。ぼくは唾を飲み込んだ。


『お母さんに見せるな。もう可愛がってもらえなくなるぞ』


いつしかのお兄ちゃんの言葉が頭をよぎった。泣きたくなった。





そして、ママはついにぼくの左手に手をかけた。








その日、ぼくはママと少し距離を置いて寝た。


窓の方をじっと見つめて、今日の事をもう一度思い返していた。


そして素直に疑問を感じた。ママはどうして何も言わないのだろうと。


少しするとママはベッドの隅で丸まっているぼくを後ろからそっと抱きしめてくれた。


「健ちゃん」


ぼくは何も答えなかった。ママの方を振り向きもしなかった。もしかして、今日の事を聞かれるんじゃないかと怖くなったのだ。


それに…。もう一つの理由は自分でも分からない。ただママに抱きつきたくなかった。


「もう…………かな」


ママはボソっと何か呟いた。小さいな声で聞こえなかった。ぼくは振り返らずに目を閉じた。少しするとママの寝息が聞こえ、ぼくも安心して眠りについた。


学校でのぼくへのイジメはもちろん容赦なかった、裸で廊下を四つん這いで這わせたり、ママー出るぅと言わせられて、射精してしまう日も中にはあった。


けれど、ぼくはだんだんと一人で身の回りの事をこなすようになっていた。歯も自分で磨いて、自分でデザートも食べた。寝るときは…ほんのたまにママと寝た。


ママに勃起を見られた、あの日の夜。ベッドの端で眠るぼくに、ママは寂しそうな声でぼくに向かって何か呟いたのを覚えている。


あの時は聞こえなかったが、今じゃ、本当はこう言ったんじゃないかとぼくは思っている。





もう…卒業かな。





と。



それからぼくは無事中学を卒業をして、高校へ進学した。


高校でもママは相変わらずだったけど、ぼくはできるだけ自分の事は自分でやった。





そして大学へ進学する頃。ママは他界した。


ママが亡くなる数日前、お医者さんに癌だと告知され。目の前が真っ暗になった。








「何で言ってくれなかったの??」








何度も聞いたが、ママはボロボロの体でベッドに横たわりながらニコッと笑った。でも、お互い様なのかもしれない。


ぼくも中学生だった時、いじめられいたことを一度もママに話さなかった。


「ママ…」


「……声も低くなっちゃって」


ママは横たわったままぼくの顔を撫で、そのままぼくの顔を引き寄せておでこにキスをした。


「…ママの健太ちゃん…ママの…大好きな、健太ちゃん……」


弱々しく微笑みながらママはそう呟く。ぼくはただ目を潤ませた。


「ママ…ママ…ママ、ぼくも大好き」


そして、ママは突然表情を変えた。


「…健太ちゃ……あの頃はごめんね」


「え?」


「ママのせいで、辛かったでしょ」


ママの枯れた声が聞こえる。涙だけが頬を伝って止まらなかった。


マザコンと呼ばれクラスで虐められた小学校時代、そして中学時代の記憶が蘇る。


(知ってたの…?…ママ……)


「ママのこと…許して…」


「ママぁ。言わないでよ!ぼくはそんなこと、ちっとも……!!????」








気がつくと、ママは満面の笑みをぼくに向けていた。いつも苦しそうな顔をして、弱々しい笑顔を向けていたママの最後の笑顔だった。


そして、ママは目を静かに閉じていった。





もう二度と、ママは目を開けることはなかった。








「健太は覚えてないがな。敏もお前みたいだったぞ」


葬式の日、パパが静かに言った。お兄ちゃんはママの棺の中をじっと見つめていた。


「敏もママに随分可愛がられてたからな。それでもお前が産まれたら、あいつは、自分にべったりくっ付くまママに怒るんだよ。…小学校に入る前くらいの甘え盛りの子どもが言ったんだ。自分なんかより弟の面倒を見ろってな」


パパはそれだけ言って席を外した。ぼくは畳の上で正座したまま動かなかった。





大学を卒業すると、ぼくはすぐに美咲お姉ちゃんと結婚した。


「いつまでも、お姉ちゃんはやめてよ」


式場で笑いながらぼくらはキスをして拍手を浴びる。ぼくは大きな腕にお姉ちゃんをお姫様抱っこして赤い絨毯の上を堂々と歩いた。知人が大勢見守る中、お姉ちゃんはキャーキャー言いながら子どものように笑って、そして泣いていた。


式場から出ると、外でママの大きな写真を掲げたパパと、お兄ちゃんが立っていた。


「おめでとう!」


ぼくはお姉ちゃんを下ろして、パパと握手して抱き合った。


だが、その横のお兄ちゃんは詰まらなさそうな感じだった。


ぼくを見るなり口を尖らせる。


「よかったな、美咲姉ちゃんと結婚できて」


「うん」


ぼくは笑顔を崩さずに頷く。お兄ちゃんは口調を変えない。


「でも、おめーのちっさいチンコでお姉ちゃん満足させれんのか?」


大きな声で言ったので周りの人が笑った。


ぼくは恥ずかしくなって慌てた。


「お兄ちゃん!言うなよ!」


「みなさーーーん、知ってます〜?こいつ、チン毛生えたの高校生になってからなんですよ〜〜」


「違うよ、中学三年!」


「あんなん、生えたって言わねーよ!」


「ちょっと、二人とも!」


ぼくとお兄ちゃんの言い合いに、お姉ちゃんは横で頭を抱える。


ギャラリーは多少驚きながら直に笑い出す。パパも腕を組んで楽しそうだ。


「ったく、詰まんねー。デブガキのくせに、俺より先に結婚しやがって」


お兄ちゃんはそう言って、背を向けた。


そして、くるっと振り向いてこう言った。





「この、マザコン!」


「なにおお」





ぼくはお兄ちゃんに飛びかかる。


どっとお客さんが笑う。お姉ちゃんはそれと同時に、ブーケをに宙に放り投げた。


高く、高く。














これで、ぼくのお話はおしまいだ。





確かにぼくは、みんなが言う「マザコン」だったのかもしれない。


どの生徒から見ても、キモイただのデブの中学生だったのかもしれない。


でも、ぼくはそんなママに甘えた時期を大人になっても一度たりとも後悔していない。


誰にも、ママはいて。そして、いつかママはいなくなる。


ママに甘えられる事のできる時間は、ほとんどみんな小学生のうちだけ。


ぼくはちょっと長かったけど…。それでもみんなより欲張っちゃったって気分でいる。


そのせいで酷く虐められたけど…。それでも、ぼくは呼ぶ。


またいつの日か、生まれ変わってからでもいい。それでもいつか、きっとあの温もりと優しさを感じれる日が来ると信じて。





ママ、と。







2011/04/03
▲ 始めに戻る

作者のサイト
編集

 B A C K 



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove