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感情的
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あらすじ:自覚あるヤミ×無口(温いです)
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約束の時間から、2時間が過ぎた。
初夏の夜のまとわりつくような温い気温だけが俺の味方のように思えた。
雨なんか降って来たらドラマチックで良かったのに。
そもそも本当に約束だったのだろうか。
「あ」
開き続けたせいで携帯の充電が無くなり、瞬く間に画面が真っ暗になってしまった。
しばらく無言でその画面を見つめる。
店から漏れてきた光りもあり、いつも通りの平凡な顔が俺を見つめ返してきた。
帰ろう。
パチン、携帯を閉じてポケットにねじりこむ。
カナシイなんて感情は無かった。
むしろ嬉しくさえあった。
前々から疑問だったのだ。
本当にあいつは、俺の事が好きで一緒にいてくれるのか。
同情とか使命感だけが理由なら、いっそ突き放してくれた方がありがたかった。
友だちが少ない俺は、どう対処していいか分からなくて変にエネルギーを消費してしまう。
こんな時、どうするのが良いんだろうか。
俺はちゃかし方も、歩みより方も知らなかった。
感傷的になってきた俺の視界に入ったコンビニの明かりに、はっと現実を思い出す。
「お腹すいた、な」
いつもは無理に口につっこまれねば食べないほどに食に無頓着なのだが、今日は無性に何かを口に放りこみたかった。
その衝動のままに、かごに食べ物を次々と入れていく。
結構な重さになったそれをレジへ持っていき、会計を済ませるとパーティーでも開けそうなその量に我ながら感心する。
しかしコンビニから出て、生ぬるい空気の中へ再び飛び込むと先ほどまではあれほど食べたかった衝動はしょぼしょぼとしぼんでしまっていた。
どうしようか、これ。
しかしその重さはだいぶ気を反らしてくれたようで、気がついたらアパートの前まで着いていた。
寝よう。
今日はもう寝よう。
そう固く決意しながら一度ビニール袋を地面に置き、ドアノブを捻った。
ただいま、と返事が無い事がわかりながらも帰宅を告げる。
「おかえり」
「は…?」
ガサリとビニール袋が持ち上げる音と共に後ろから聞こえた声に振り返る。
ツンツンに尖った黒い髪、人懐っこそうな目。
「なんでここにいるんだよ、ヤス」
あれだけ人を待たせたくせに、なんでそんなに飄々と俺の目の前に現れるんだよ。
「あはは、ヒロは相変わらず冷たいなぁ」
失礼しまーすといいながら、さりげなくドアの内側に体を滑りこませてきたヤスに心のなかで舌打ちをした。
なんでそこにいたのかという根本的な疑問が浮かんだ。
しかしこの状況は友情経験が浅い俺にとっては未知数で、脳がオーバーヒート寸前だった。
こういう時は、怒ってもいいんだろうか。それとも、俺の一方的な勘違いだったんだろうか。
「ヒロー、ここに置いとくよ」
「…おう」
「こんなお菓子買ってなに、パーティーでもすんの?」
色々と面倒になってきて、いつも通りにペットボトルのお茶を「これ俺専用のねー?」なんて言って置いていったマグカップに注ぎ、目の前に置いた。
カラン、と氷が側面に当たる音が心地いい。
「ポッキーあるーもらっても良い?」
「…どーぞ」
小首を傾げるヤスにいいながら、俺は同じ部屋の側面にあるベッドへ体を預けた。
ドアノブを握った時の決意がじわじわと脳を汚染していく。
眠い。
ヤスが居ようが居まいが関係ない、ここは俺の部屋だ。
そうひっそりと言い訳をして目を閉じた。
目覚めたら、何もかもが夢だったーなんてオチに期待をこめて。
「ヒローヒロー?」
フラフラとした足どりでベッドへ倒れこんだヒロの横顔をこっそり覗きみる。
寝た…のか。
シンとした室内ではヒロの寝息が十分に聞き取れた。
「なんでこんなに無防備なの…」
いつもはシワがよっている眉間に和みながら呟く。
こんなに無防備だと逆に手ェだせないじゃないか。
タバコを求めてポケットへ突っ込んだ手をハッととめる。
いけね、ヒロの部屋は禁煙だった。
はじめて見た時のヒロのイメージは一匹狼だった。
酒もタバコも女も十分に経験してます、って感じの。
それが、酒も駄目タバコも吸わない彼女もいないのギャップづくし。
気づけば、話しかける度に困ったように眉間に寄せるシワがたまらなくいとおしくなっていた。
好きだ。
好きだよヒロ。
そう自覚してから、俺はちょっとおかしくなってしまった。
もっと感情的なヒロが見てみたい。
その欲求が抑えられなくなってしまった。
今日二時間も外で待たせてしまったのは申し訳無かったと思っているのだが、その後の対応がいつも通りでがっかりしたのも本当だった。
怒ってもいいんだよ、こういう時はさ。
少し色素の薄いヒロの髪へ手を伸ばす。
どうやったら、もっとヒロを感情的に出来るんだろうね?
好きだと照れながら言って欲しい、嫌いだと突き放して欲しい。
「ねぇ、ヒロ」
ごめんね。
やさしい額にそっと唇を落とした。
2011/04/07
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