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 好きなんだもん
© 利人 
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携帯の着信が流れる度、冬馬は恐怖に肩を震わせる。
名前の表示画面を見れば、いつも同じだ。

【柏木 勝】

冬馬の大学のひとつ上の先輩で、一昨日に合コンをやったときに偶然知り合ったのだ。
彼女を作るために合コンに行った。冬馬は当たり前だ、と再三度頷く。
だが、釣れたのは女ではなく、男だった。
合コンが終わり、結局彼女一人できなかった、と項垂れていた冬馬に、勝はさらりと告白してきた。

「僕じゃダメかな?」

ダメに決まってるだろ!と、冬馬は内心で思ったが、やんわりと、友達のままでいたいと言った。傷つけないように、優しく。それがいけなかった。
それからというものの、こうして勝は毎日のように電話を掛けてくる。

“友達”として。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「冬馬」
「…っ?!」

昼食をとっていると、突然肩を叩かれて冬馬は肩を揺らした。
反射的に振り向けば、そこにはいつもと変わらぬ笑顔を見せる柏木がいた。
この前の告白といい、それからの電話攻撃の件もあり、素直な冬馬は変によそよそしくなってしまう。
合わせることの出来ない視線を地面に泳がせる冬馬を、柏木が笑った。

「そこまであからさまだと、傷つくなあ」
「あ、す、すみません…っ」
「いいのいいの。それよりもさ、今日僕の家に美味しい茶菓子が来たんだ。冬馬、和菓子好きだろ?僕だけじゃ食べきれないから、手伝ってくれないかな?」
「え……」

突然の誘いに、冬馬は言葉を濁した。
断るのは恐縮だが、ホイホイついていくのはあまりにも危険だと思ったのだ。
仮にも、今目の前にいる男は自分に告白してきた人間なのだ。
好きな人と二人きり。その状況で何もない方が考えづらいだろう。
何も言わずに黙りこくった冬馬を、また勝が笑った。

「心配しなくても、何もしないよ。冬馬が嫌がることを、僕はしたくないからね」
「………、いや、そんなつもりじゃ…、あ、い、いき、ます…」

図星をダイレクトに突かれ、パニックになった冬馬は思わず頷いてしまった。
頷いてからあっ、と思ったが、すでに時遅く。
柏木がにこりと笑い、放課後に待ってるから、と言って踵を返してしまった。
引き留めることも出来ないまま、冬馬は大きくため息を吐いた。

「うー、俺のバカ…、ま、まあ平気、だよな…?」

何かあったら殴り倒せばいい。そう冬馬は半ば強引に自分を納得させると、再び昼食を食べた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「口に合うかな?」
「あ、は、はい…っ、とっても美味しいです…」

緊張をやわらげようともくもくとまんじゅうを平らげていた冬馬は、突然の質問に危うく咳き込みそうになった。
温かいお茶で飲み下す。
柏木は、そんな冬馬を見て目を細めた。

「よかった。ねえ、冬馬。最近、僕の電話に全然でてくれないよね?」
「…っ?!」

突然に一番触れられたくない話題を振られ、冬馬はビクリと肩を震わせる。
上目使いに柏木を盗み見れば、いつもと変わらない笑顔と柏木がいる。だが、その笑顔が逆に怖くて、冬馬は柏木の顔を直視できない。

「冬馬は、僕のことが嫌いになっちゃったの?」
「え……ッ?!」

直球に聞かれて、冬馬は慌てて頭を振る。
毎日のように電話がかかってきて、少し怖いとは思うが嫌いと言うわけではなかった。
先輩としては慕っているし、優しい柏木が冬馬は好きだった。
それを伝えると、よかった、と笑った柏木に口端を拭われる。
本当に、拭われただけだ。口の汚れを掬われただけ。それなのに。

「ふ、ぅん…ッ?!」

鼻から抜けたような、甘えたような声が飛び出して、冬馬は慌てて口を押さえ込んだ。
こんなときに、なんて声を出しているのか。
羞恥にかぁあっと頬を赤らめた冬馬の体が、突然に床に押し倒された。
そしてそれは、他の誰でもない柏木によって。
床に叩きつけられた刺激にさえも肩を揺らしてしまい、冬馬をただ口許を押さえることしか出来ない。
そしてそんな冬馬を見て、柏木が満足そうにほくそ笑んだ。

「よかった、冬馬に嫌われてなくて…、嬉しい。媚薬なんて、いらなかったな…」
「び、ゃく…?」
「そう、冬馬が飲んだお茶に溶かしておいたんだ。ねえ、とーま?」
「ふ…ぅや…、ぁ!」

首筋に舌を這わされ、冬馬は柏木の服を握りしめた。
ぞくぞくとまるで背中を何かが這っているような感覚と比例するように、重くなる下半身。
唇から出る高い声は、まるで女のようで、ひどく冬馬のプライドを傷つけた。

「ゃ、ひ、ぁん…っ、うそ、つき…っ、何もしないって…っ」
「言ったかな、そんなこと?でも、いまやめたら困るのは冬馬でしょ?乳首、立ってるよ…」
「ぁッ!ゃ、う…んん!」

服の下から押し上げていた胸の突起を、唐突に吸い付かれて冬馬は体をくねらせる。
痛いくらいに張り詰めたそれを、無意識のうちに柏木に擦り付けてしまう。
柏木は、そんな冬馬の額に小さなキスを落とすと、力任せに冬馬の下肢から衣服をずり下ろした。
熱を持ったそれが、冷たい外気に晒される。
熱く猛ったそれに、柏木の長い指が絡み付く。

「ぬるぬる。可愛い、冬馬」
「うぅ、ゃあ、触らない、で…っ」
「触らなきゃ可愛がれない。ほら、聞かせて、冬馬の可愛い声」

言われると同時に蠢き出す柏木の指。
敏感な先端を刺激されながら、裏筋を擦りあげられるとたまらなかった。
立てた足がガタガタと震え、喉が反り返る。

「あ、ぁあっ!ゃ、ぁ、ひぁん…ッ、ダメ、ゃあぁっ」
「ふふ、可愛い。ねえ、きもちい?俺の手で、きもちいんだよね?答えろよ」
「ふ、ぅうんっ!」

強い力で握りしめられて、圧迫感に息が止まる。
素直に首を縦に振れば、柏木は場違いなほど楽しそうに笑った。
恐怖に涙が視界を遮った。

「ゃ、せん、ぱ…」
「冬馬、大好き。電話に出てくれなくて寂しくてたまらなかった。愛してるんだよ、冬馬。俺だけを見ていて?ねえ、とーま…」
「ふ、ぁあっん!」

耳元で囁かれながら、ラストスパートをかけて愛撫され、冬馬は呆気なく柏木の手の中で吐精した。
呼吸を荒げながらも、冬馬はなぜこんなことを、と小さく呟いた。
すると、柏木は、謝罪するわけでも、悪びれる様子すら見せずにいった。

「だって、好きなんだもん」

異様なほど、言い切った瞳は楽しそうで、満たされていた。
怖い、と冬馬は改めて思った。
狂喜にまとわれた柏木が、いまの冬馬はただ怖かった。
動けない冬馬は、柏木にそっと抱き込まれる。
鼻腔をくすぐる匂いも、体温も何もかもが怖くて、動けない。
だがそんなことなどまるで構わないで、柏木はそっと耳元で囁いた。

「毎日、電話してあげる。出なかったら、家まで迎えに言ってあげるから…」



好きだから、ね。





end







2011/07/23
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