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 伸ばした手は空には届かない
© 虚空塁 
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 キラキラ、キラキラ。

 出会えば皆がてめぇを好きだって言う。
 馬鹿馬鹿しい限りだ。
 俺は絶対、てめぇなんか好きにならない。
 好きになってたまるかよ。

 むしろ一番嫌いな奴になってやる。


 染めたことのない黒髪、精悍な顔は野生的でありながら笑えば途端に甘いマスクへと変わる。
 ずっと見詰めたくなる眼は綺麗な空色をしていた。

 童話に出てくる王子様みたいなてめぇに見つめられた奴が瞬時に顔を赤らめるのを、俺は間近で何度も見た。
 にっこり笑うだけで周りは我先にと電灯の光に集る蛾のようになる。光に焼かれても後悔しないくらい、てめぇの側に皆居たがるのが俺には不思議でならない。


 寮の自室、ベッドに寝転んで雑誌を捲っていると扉の先から艶やかな喘ぎ声が聞こえてきた。
 同室になってから何度目になるのか、片手を超えてからはもう数えなくなった。

「あっ…ああ!! そこもっとこすってぇえええ」
「ここ?」
「ひぁああっ!!…イっちゃう精液出ちゃうッ……あっ、あああん」
「うん、イった顔みせて」

 男とは思えない高い声と連動するように鳴る肉音、グチュグチュと聞こえる淫音は互いの先走りによるものだろう。
 俺が苛立ちのまま雑誌を乱暴に閉じ扉を蹴りとばすのと、相手の男が名前を口にしたのは同時だった。

「王子ッ王……壱矢!!!」

 壱矢と名前を呼んだ途端、全ての律動が止まった。

「なっ、なんで?!」

 イキそうだったところで止められて相手の男が抗議の声を上げる。

「んー…冷めちゃった」

 壱矢は先程までの情事が嘘のように平然と相手に言ってのけた。そうして、壱矢が俺に振り向いた。
 綺麗な綺麗な笑顔で。

「詩、うるさかった?」
「いっぺん死ねよ」

 吐き捨てるように壱矢に言う。視界の隅で相手の男が覚束ない手で乱れた服を整えている。
 壱矢は男に興味がないのか立ち上がり、俺に近づいてきた。いまだ屹立する肉棒に自然と目がいった。

「欲しいならあげるよ?」

 唇が触れそうな距離での言葉に俺はカッと眼を見開いて、壱矢を突き飛ばした。

「ふざけんなッ」
「ふざけてないし割と本気のつもり」

 打てば響くように壱矢が言う。

「俺はてめぇと絶対どうにかなんてなんねぇよ!!!」
「詩のそういうとこが好きだな」
「俺は大ッ嫌いだ!!!」

 俺はそのまま自室を飛び出した。


-END-









2011/10/09
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