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勝敗
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あらすじ:元彼と再会したら、連れの相手が自分よりイケメンだった。
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偶然の再会を喜ぶべきか、否か。
俺は正直、負けたと思った。
元彼と会ったのは、奇遇にも近所のスーパーだ。俺と健介は夕飯のすき焼き用のタレを買いに来ていた。
元彼は俺を認めると、一目散に駆けてきた。
「正宗っ。久しぶり」
「ああ」
友人の結婚式来だから数年ぶりだ。
「近所だっけ」
「転職して引っ越したんだよ」
元彼は輸入菓子を買いに来たのだとか。スルーされた健介は舌打ちした。
「俺の顔忘れたのかよ。デレデレすんなっ」
「覚えてるよ、健介」
ビスケットを振りながら元彼は無邪気に笑う。俺を挟んで喧嘩するのも相変わらずだ。
健介とは、元彼と別れてからずっと付き合っており、もう10年になる。学生だった時分はよく3人で遊んだものだ。
「あれ、正宗痩せた?」
元彼が俺に擦り寄れば、健介が目を三角に釣り上げる。
「他人の彼氏に気安く触んな」
モテる男はつらいものだ。仲裁しようとしたところ、元彼の背後からすらっとした長身男が現れた。
「知り合い?」
健介が黄色い悲鳴を上げている。それもそのはず、元彼の連れは超有名アイドルだった。
「僕の恋人」
はにかんだ元彼の目に、勝利の色が覗いている。健介はちゃっかりサインをもらってから、羨望の眼差しで去っていく元彼とアイドルを見送っていた。
かつては俺を中心に揉めていたものだが、アイドルには勝てないらしい。健介の目がハートになっている。
「あいつと俺、どっちが格好いい?」
「あっち」
健介は迷わず彼方を指した。いやいや、嘘でも俺って言えよ、恋人だろ。
並んで帰路に着きながら俺はうちひしがれていた。初めて負けたな、と。
俺は自慢できるほどイケメンだ。鍛えてるから体型も維持しているし、流行のIT関連で働いているから稼ぎもいい。
けど、アイドルの放つ華やかオーラは格が違う。俺みたいに浅くない。
しょぼくれてる俺に、健介が追い打ちをかける。
「いいなぁ、あいつ」
妬いたのも初めてだ。屈辱を味わっていると、健介がちらっと俺を横目で見てきた。
「彼氏と手つなげて」
「は?」
「俺だってたまにはいちゃいちゃしたいんだっ」
そっちか。可愛いすぎる健介の発言に、荒れていた心が穏やかに凪いでいく。
指をつないで帰りながら、俺は一応聞いてみる。
「アイドル好きなのか」
「普通程度に」
「俺とどっちが」
始めからこう聞けばよかったな。健介は当たり前のように俺の名前を呼んだ。
恋愛は勝ち負けじゃないけどさ。
健介が飽きもせず側にいてくれることは、もしかしたら勝利と名付けていいかもしれないなと思う。
奇跡に感謝しつつ、帰ったら早速アイドルの曲を覚えて、健介に聞かせてやることにした。
2012/05/14
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