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 朝の挨拶
© 朱色 
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 キーワード:我儘 ラブコメ
 あらすじ:想い人を手篭めにしようと堂々と画策する王子
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 朝から二人は喧嘩に突入していた。
「いやだ!」
「なんだと!」
「だから、おかしいんだってばそれは!」
「何がおかしいのだ。朝の挨拶は当然の日課だ」
「挨拶ならしただろ、”キーラおはよ〜”って」
「それは挨拶の内に入らない」
「あーもう‥‥頼むよ‥‥ホントに‥‥‥。いいかげんベッドから出てきてくれよ」
 伸ばした手は邪険にはね除けられる。
「だから、挨拶をすれば起きると言っている」
「そんなこと言われても、無理なんだって‥‥‥」
 どう言ったらわかってもらえるのか、この男に。
 神官である自分は<接触>すると弱ってしまうということを。
 いや、わかっていてキーラはやっているのだ。
 キーラがオレのことを‥‥神官という存在の意味を調べていないはずがない。
 確信犯では手の打ちようがない。
 ココは片手で顔を覆って弱々しく懇願した。
「とにかくなあ、‥‥‥挨拶がキスっていうのは、オレにはできないんだって。あきらめてくれよ」
「神官が接触厳禁だということぐらい知っている。しかし、弱まったところで、これくらいで死にはしないだろう」
 命に関わる問題を一瞥に伏される。
「いいか、お前は私の親衛隊になったのだ。つまり私のものだ。だから私がどう扱おうが私の勝手だ」
 ココはあまりの傲慢な台詞に泣きそうになった。
「なんだよ、じゃあ、オレが死んじゃったっていいっていうのかよ」
「死にはしないから良いではないか」
「よくない! キスとか‥‥”体内”の接触ってのは、オレはけっこーつらいんだぞ」
 つらいどころか劇薬を飲んでいるようなものである。
「それくらい主人のために我慢するのは当然だ」
 キーラはまともに取り合わない。
 ココは腕を上げて抗議の視線を投げかけるが、キーラはそっぽを向いて完全無視を決め込む。
 コノヤロー‥‥。
 冷静になるんだ、冷静に。
 ココは上げかけた腕を下ろして組み、ちらりと横目でキーラを見た。
「じゃーさ、ご主人さま。ちょっと聞くけどさ」
 不貞腐れた口調で口を尖らせてココは聞いた。
「他の親衛隊にもその”挨拶”させてんのかよ」
 一瞬の間があった。
「してほしいならするが?」
「やっぱりしてないんじゃないか。オレだけそんな命令受けるなんて理不尽だろ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 キーラは考え込んだ後、一言言った。
「わかった」
「へ?」
「全ての親衛隊と朝”挨拶”する。それならいいのだな?」
「へ? いや、あの‥‥‥」
 意外な展開にココは慌てた。
「主人である私の方からわざわざ譲歩してやったのだ。拒否は許さん」
「そ、そんなのずりーぞ! 親衛隊なんて、今はオレとイシスしかいないじゃんか!」
「だから、イシスにも平等に朝の挨拶をすると言っている」
「オレが言いたいのはそんなんじゃなくて‥‥‥‥」
「黙れ! お前は私の親衛隊なのだぞ。だったら黙って命令を聞け」
「なんだよそれ!結局ただの脅しじゃねーか!‥‥‥自由にしていいっていったのお前なのに!」
 キーラは顔をそむけて再び無視を決め込む。
 どうやら不機嫌な王子さまは1日もたたない内に約束を反故にするつもりらしい。
 しかしココも黙ってはいられない。
 全て言われるがままりに動いていたら、もっと無理難題を吹っかけられて、最後にはベッドに引きずり込まれるのは目に見えている。
 考えるのも億劫なことだが、相手の最終目的はどうやらそれのようだ。
「はぁ‥‥‥‥」
 ココは、そっぽを向いているキーラの横顔を眺め、ため息をついた。
 こうなるとキーラはてこでも動かなくなる。
 そして、結局ココはキーラに弱かった。
「‥‥‥‥わかったよ」
 キーラに構えられない内にココはキーラの腕を引いた。
 体勢を崩した一瞬の隙に、そっと唇を掠め取る。
 乾いた唇に、かすかな感触が残った。
「‥‥‥‥おはよ、キーラ」
 ココは、おでこをこつんとあてて、声になるかならないかの小さな声で囁いた。
 触れるだけなら、大丈夫だ。
 キーラはご不満かもしれないけど、ココにはこれが精一杯の譲歩だった。
 あまりに一瞬で去っていった感触に作戦が敗れたキーラは苦々しい表情を残しながらもココの笑顔に折れて、軽く頷いた。
(まあいい、明日がある。このような淡白な挨拶など私が認めると思うな‥‥‥)
(あ〜あ、明日からも毎日かわさないといけないのかよ‥‥るるる)

 二人の戦いは続く。

================
END







2007/02/12
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