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 落ちてみた。
© しずと 
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   あらすじ:なんで恋に落ちるって言うんでしょう。
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「いつまでビクビクしている」

真っ白な髪。
真っ赤な目。
髪は年齢の為に白いわけでは無いと思う。
彼の見た目は二十代、多く見積もっても三十代だ。
彼に理由を聞いたことは無い。
聞いたところで、まともに答えてくれないことは分かっている。
真っ赤な目についても同様で理由を聞いたことは無いが、こちらは何となく察しがついている。

「だってさ、毎回うまく行くとは限らないだろ」

「だからお前はいつまでたっても虫けらレベルなのだ。必ず成功するものなどありはしない!仮にあってもつまらないだろう!」

風もない空間で白衣がはためく。
こいつは無駄に一挙一動が大きすぎるのだ。

「100%とは言い切れない、だが大丈夫だ」

さぁ一気に飲め、と試験管に入った怪しげな液体を差し出される。
このシチュエーションは初めてではない。
初めの頃は死に物狂いで拒否していたが、結局は何だかんだ飲まされてしまうのだ。
諦めているわけでは無いが、どうせ飲むことになるのだと最近は拒否することが面倒になってしまった。

素直に試験管を受けとる。
前回は蛍光ピンクの液体だったが、今回は蛍光ミドリの液体である。
ピンクより毒々しさは無いとはいえ、明らかに自然界にそのまま存在することは無い色だ。

「このミドリはホウレン草やわかめなどから抽出したものから来る色だ」

本当か?
ホウレン草もわかめも元々光らないのに?

「いいから早く飲め!虫けら程度の知性しかないお前がいくら考えたところで無駄なのだからな」

試験管を持つ俺の右手を上から握ると無理矢理口元へ持っていかれる。

握ってきた手の冷たさに驚いているうちに、俺はゴクリとそれを飲み込んでいた。

甘い。

とろりと僅かに粘性があるらしい液体が喉の中を伝っていく。

とろり、とろりと思考も下へ下へと沈んで行くような感覚がする。
頭が重い。
なんだろう、何かに似ている。

ああそうだ。
眠りに落ちるときにとても近い……、

「……!」

高い位置から名前を呼ばれた気がした。
顔をあげることは出来ない。
だから上へ向けて手を伸ばした。

「……!……!」

聞こえない。
俺が伸ばした手は伸びたまま、誰に引っ張られることもなくそのまま上へ向けられている。

今回は、手を伸ばすのが遅かったみたいだ。

俺は落ち続けた。
何も考えられなかったし、何も考える必要は無かった。

固い。
不意に地面に体を横たえていることに気付いた。

上体を起こして周囲を確認すると、ここは草原で、俺はその中で一人ぼっちであることを知った。
雨が降ったのだろうか、ほほに水滴がついている。
手で拭うと、それはあっという間に乾いてしまった。
落ちたのだ。
と俺は悟った。

本質的な意味でも抽象的な意味でも。

しかし、俺はどこかで安心する。

これでもう、俺はあいつと同じ場所にいる。
もうあいつが泣く必要は無いんだと。

(落ちてみた)







2013/05/08
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