返信する

 カモは矢に射止められる
© 虚空塁 
作者のサイト 
 R指定:無し
 キーワード:美形と不細工
 あらすじ:不細工な鴨川譲に告白してきたのは美形で名高い松崎遠矢でした。
▼一番下へ飛ぶ





 極端な話、家族以外から明確な好意を注がれたことのない俺はそういった類いの感情を向けられたらどうしていいか分からない。


 俺は自分が不細工だと理解している。世の中は大抵、不細工には冷たいものだ。しかも美形は何をしても許される現実が目の前に横たわっている。溜め息が出るよ本当に。
 別にちょっと顔のつくりが他の奴らより目立たないのと歯が2本前に出てるだけだし。まあ子供時代はこの歯のおかげでイジメるまではいかなくともいい笑い者だった。
 時がたつにつれ表だって言うものはいなくなっていたが歯は2本出たままで。多分、そいつも悪気はなかったんだろうな。


『なぁ、それだと缶のジュース飲めなくね?』


 相手が何を言わんとしてるか理解出来た残念なことに。とりあえず笑ってごまかしたが俺の心は血みどろだった。
 この一件から俺の隣に居座るようになったこいつから告白されるとは誰も思わないだろう。






「カモ好きだ、僕と付き合え」

 カモ、というのはカモシカのカモではなく俺の愛称だ。俺の名前が鴨川譲だからカモということらしい。まあ俺のことをカモというのは目の前にいる残念な美形、松崎遠矢だけだ。

「俺は好きじゃない」

 即答すると遠矢が目を見開いた。自分が断られるとは思ってなかったというのがありありと伝わってくる。現に遠矢は一度も振られたことがないというか、相手が寄ってきて告白して付き合うのがほとんどだった。
 俺も初めて遠矢を見た時はびっくりした。貴公子然とした見た目はそれだけで周りの人を魅了していたし、頭もいいうえになにより育ちも良かった。手に入れようと思えばなんでも手に入れられる。
 それが松崎遠矢という男だ。

「カモ…なんで?」
「俺が不細工で遠矢が美形だから」

 分かるだろと遠矢を見れば、なぜだか怒ったように俺を見てくる。別に本当のことを言っただけだ。俺が居心地の悪さを感じて逃げ出そうと足を半歩後ろへ下げた瞬間、両腕をがしっと掴まれた。

「関係ないよ」

 すごく近くに遠矢の整った顔があると思ったら唇に触れる柔らかい感触。何が起きたのか考える前に前歯を舐められていた。

「んぁ……ッ!」

 口の中に捩じ込まれた遠矢の舌が逃げる俺の舌を追いかけ優しく愛撫する。キスなんて初めてだからどうやって息をするか分からない。もう駄目だってとこで唇が離れた。
 くったりと力が抜けた俺を遠矢が支えてくれている。ボサボサの髪の毛をとく手が馬鹿だろってくらい優しくて。

「カモ可愛いすごく可愛い…」

 なにが可愛いだ!
 突然の遠矢の行為から立ち直った俺は慌て離れたが足に力が入らなくて尻餅をつくはめになった。情けなさすぎる。遠矢は仕方ないなぁというように俺を見ていた。

「なんで、キスなんかすんだよ!」
「カモが好きだからだろ」

 遠矢は濡れた唇を舐めて足に力が入らない俺に覆い被さってきた。

「可愛い…涙目になっちゃって。もう一回させて?」
「やだ! くんなよッ」
「カモ…好きだ」
「嘘ばっか、俺なんかで起たないだろ」

 遠矢が今まで付き合ってたのは皆が皆、見目麗しい人ばかりなのを知ってるんだ。俺のことはからかっているとしか思えない。遠矢の前で泣くなんてしたくないのに、気付いたら涙がポロリと落ちていた。不細工がさらに不細工になってるのかと思うと俺は下を向くしかない。

「バッカだなぁー…カモは。自分がどれだけ可愛いか分からないなんて」

 遠矢に無理矢理、顔を上げさせられた。泣いてぐちゃぐちゃの顔を遠矢は眩しいものを見るみたいに見ていた。そんなはずないのに勘違いだって思うのに俺は言葉が出ない。
 そのまま遠矢に抱き締められた。

「カモ…すごく好きなんだ、だから僕と付き合ってよ」

 遠矢は美形で俺なんか選ばなくても周りには遠矢に似合う子はたくさんいる。俺みたいなのを選ぶなんて遠矢は馬鹿だ。

「なんで…俺なんだよ?」

 ぐずぐずの声で聞くと遠矢はニッと笑って、俺の顔を乱暴に拭った。それから俺の頬っぺたを両手で引っ張りながら、

「カモが僕を見つけてくれたからだよ。僕はカモがいればいいんだ」
そう言って笑う遠矢はびっくりするほど子供に見えた。

「遠矢は変わってる! 絶対絶対変わってる! 俺なんか好きと…ッ」
「なんか、じゃないよカモ」

 俺の言葉を遮るように遠矢が指先で口元をふさいだ。視線が絡まる。好きだ好きだって眼が恋に不慣れな俺を容赦なく貫いていく。貫かれた穴からじわじわとよく分からないものが広がっていく気がする。
 駄目だ。これ以上は耐えられない。

 熱い視線から逃れるように俺は立ち上がって、遠矢から逃げるように走り出していた。脱兎の如く走り出す俺に遠矢は大きな声で笑っている。

「カモ! 明日、返事を聞かせてもらうよ」

 遠矢のよく通る声、内容を理解した途端、身体中が燃えるように熱くなっていた。









2013/06/03
▲ 始めに戻る

作者のサイト
編集

 B A C K 



[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]