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 光と闇のラプソディー
© つぐみ 
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 R指定:---
 キーワード:極道×ガテン系
 あらすじ:何事にも冷めている響哉が熱くなったのは可愛いという形容詞の似合わないガテン系でした……
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 車の窓に叩きつけるような雨音が最近多いゲリラ豪雨を思わせる。遠くで光っていた雷も徐々に近づいているようで、光と音の差が小さくなっている。

「これは、落ちそうだな」

 ぼんやりと呟いた声は運転手には聞こえなかったようで、いつもより緊張している顔がルームミラー越しに見える。

 久々に比較的早く仕事が切り上げられたから、たまにはさっさと帰ろうかと思ったのはやはり自分を待っていてくれる人が家にいるからだろうか。一人の家に帰っても事務所にいても大して変りないと思っていたのはつい最近のことだというのに、今では遠い昔の話のように思う。もっとも待っているというような愁傷な態度とは甚だほど遠いだろうが……

 最近同居し始めた花房鋭嗣はガテン系の、お世辞にも可愛いとは言えないような風貌をしている。今まで付き合ってきた男も女も、まるで年表のように並べても鋭嗣のようなタイプはいない。恋愛に熱くなったことは今までなかったがそれなりに綺麗系も可愛い系も付き合ってきた。まさかそんな自分の心を鷲掴みにするのが鋭嗣のような奴だとは思いもしなかった。

 ばりばりと大きな音が空から落ちてくる。どこかに雷が落ちたようだ。

「停電のようですね」

 運転手は突然消えた信号機にスピードを落としながら告げた。

「大きかったみたいだな」

 不意に鋭嗣を思い出す。

 出会ったころに何故今の仕事に就いたのか、酔っぱらいの勢いで語られたことがある。理由は深くは延べなかったが、暗いところが嫌いだから空に近づける仕事に就きたかったのだと言う。紆余曲折の末に付き合い始めて、暗いところが嫌いな理由は結局聞くこともなく今まで来たが、これは怖がってるかもしれないなと思いを馳せる。いや、まさかな、と思いながら。

 感情というものは欠落しているのだ、うちの組長代理は。と誰かが言っていたことを思い出す。その当人がその言葉を聞いていたと知った時のそいつの顔はあたふたとしながら明らかに怯えていた。横目に見ながら、確かに何も感じなかった。それが今はどうだ。少しでも早く帰ってやりたいと思う。

 ヘッドライトだけが頼りの暗闇の中。まるで自分のようだ。その先に見えた光が鋭嗣だった。自分よりも大切だと思えるもので、自分のすべてを賭けて守り通したいと思った。そんな激しい思いを自分が持つなど夢にも思わなかった。

「明日、何時に迎えに来ましょう?」

「昼に会合の予定があったな。 朝、10時に来てくれ、いったん事務所に顔を出す」

「わかりました。 お疲れ様です」

 丁寧なお辞儀をする運転手に、そういえばこいつも鋭嗣と同じ年だったなと思いだす。

「おい、これ持って行け」

 無造作に出した数枚の万札を握らせ、こんな世界に生きている自分と、光満ちた世界に生きる鋭嗣がどこで重なったのか考える。どちらにしても闇というのは同じように持っているのだろう。だからその闇が、闇に浸食される。偶然は必然。そして、必然は偶然。

 ガチャリと玄関を開ける。相変わらず停電は続いていて暗い。

「鋭嗣」

「……響哉さん……」

 リビングに向かって呼びかけたつもりだったが間近で声がする。薄暗い中に、ぽつんとまるで身を守るように小さく三角座りになっている鋭嗣を見つける。

「……暗いところは嫌いだったな」

「ん」

 いつもは生意気で覇気のある口調だが、今日はそういうわけにはいかないらしい。そっと頭を撫でると珍しく甘えるように腕を伸ばしてくる。

「何も怖いものはない、俺がいる」

「ん」

 抱きしめた華奢ではない体躯。その体に残るのはやんちゃをしてできたとは思えない傷痕。何も言わない鋭嗣の代わりにすべてを語っているような気がする。

 ただ、黙って抱きしめる。ただ黙って頭を撫でる。光が戻ってくるまでの少しの時間。ただ二人きりの時間。







2013/09/03
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