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静寂の空間で
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キーワード:敬語包容力?溺愛ヤクザ年上×被虐待児トラウマ年下
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「どうしました? 眠れないのですか?」
びっくと体を一瞬竦ませたパジャマ姿の星羅に、出来る限り優しく問いかける。少しの間があり、俺の顔色を伺うように見てからこくりと頷く。その仕草は小動物のように愛らしいが、それが虐待されていた結果の行動であるから好ましくない。
俺は、貝橋友延。仕事柄帰宅時間は不規則だが、ここ数ヶ月は星羅の為に出来るだけ早く帰るように心がけている。それでも今日のように夜も白み始めた頃に戻ると星羅は不安に押しつぶされるかのように部屋の隅で小さく丸まっていることがある。
「大丈夫ですよ、きちんと帰ってきます」
そっと頭を撫でると強張っていた体が徐々に解れていくのが分かる。
「おやすみなさい」
「……」
寝るように促すが何かを訴えるかのように俺の顔を少し見る。言いたいことはほぼわかっている。が、星羅が思いを口に出すまで根気よく待つ。
「……ともくん、は?」
それが精一杯。俺はにっこり笑い、
「シャワー浴びたら寝ますよ。 もしまだ星羅が起きていたら昨日の続きのお話をしましょう」
と言うとこくりと頷き、ちらりちらりと俺の方を見ながら寝室へ向かった。
星羅は俺の実の姉の子供である。もっともその姉は今はどうしているのか知らない。昔から姉は真面目なくせにどこか突拍子もない人だった。大学入学と共に家を出た姉が帰ってきたのは俺が中学生、姉が20歳の時だった。その腕の中で星羅はすやすやと眠っていた。
「不倫の末だけど、幸せだから気にしていないの」
と言った瞬間、親父は血管が切れるのではないかと言うくらいに怒り、母親は卒倒した。姉は突拍子もないところがあっただけで真面目だったのだ。親父も母親も日々俺の生活態度の悪さに辟易していたし、俺が捕まろうがやくざになろうが多分諦めるだろうと思う節はあった。しかし元来真面目なだけに、姉のことは許せなかったようだ。
それから15年。俺は結局極道になり、そこそこ若い衆を使える立場にはなった。両親は極道になると言った時やはり諦めていたが、姉の時の心労が原因か、追い打ちをかけた俺が原因か立て続けに亡くした。今になって悪かったとは思う。
星羅のことを知ったのは児童相談所からの電話だった。姉が蒸発したこと。虐待をしていたこと。父親は結局誰だかわからないこと。唯一の親族の俺に連絡が来たわけだが、正直引き取れるかどうか疑問だった。一度会ってみて、と濁した言葉にも希望を見出したような嬉しげな声を聞かされて、しょうがなく星羅にあった。
15年前、すやすやと安心しきったかのように寝ていた面影は全くなかった。
唐突に、自分の血縁はこいつだけなのだと感じた。姉はもう見つからないだろうと。
星羅との生活は思ったより居心地がよく、思っていた以上に大変だった。それでも少しづつ心を開いてくれていると感じれば嬉しいし、頼られているとわかれば自分が守らなければと思う。
シャワーを浴びながら、あまり遅くなるとまた星羅が不安がることを思い出してさっさと出る。冷酷無比と言われている俺のこんな姿を舎弟らが見れば、それこそ卒倒するのではないかと思う。それでも、恐る恐る、だけど確実に名を呼んでくれる存在に、俺は溺れていった。
2013/09/10
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