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 暁-AKATUKI
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 俺は佐倉漸。自分で言うのも痛い話だが、残念ながらこの界隈ではかなり名を馳せた不良である。自分で売った喧嘩も買った喧嘩も数知れず、我が身を省みない刹那的な生き方をしていた。無くす物のない人間の命なんて軽いものだ。それでも同じような目をした仲間もいれば極少数と言えど親友……悪友か? もいる普通の怠惰な18歳だった。

 俺が如月暁と出会ったのは、そんな足元の危うい生活をしている時だった。その頃には少々の不良から喧嘩を売られる事も無くなっていて、ある種面白くない日々を送っていた。路地から怒声や震えた声が入り混じって聞こえた時、俺は迷わずその路地を中に入って言った。喧嘩が出来る。ただそれだけを思って。本当にあの時は手負いの獣のようだった。そこで見たものは、凛とした一人の少年。俺よりはずいぶんと小さく優しげな雰囲気を漂わせ、だけど怖いだろうに後ろにいる更に小さい少年を守ろうとするかのように立ちはだかってはっきりと物事を言う。なんだ、あいつ、面白い。

 一発触発の雰囲気の中でおもむろに少年に近づき後ろから抱きつくと、その体はびくりと大きく震えた。周りには呆然とした顔が並ぶ。

「なあ、俺のテリトリーで何やってんの?」

 まずいといった表情を貼りつけて蜘蛛の子散らすように逃げて行ったその後ろ姿に、少し残念だと思った。

「大丈夫か?」

「あ、ありがとう、ございます……」

 暁の顔が後ろを振り返った時、そのお礼の言葉はしりつぼみで消えて行った。その時はもちろん名前も知らなかったから、その反応にああ、やっぱりこいつも変わんねえ
と思った。

「じゃあな、気をつけろよ、後ろのチビも」

 立ち去る俺に、

「あの、俺、暁です。 如月暁っ」

叫ぶように叫んだ暁に俺は自然と顔を綻ばせ、心に温かい何かを感じた。

 それから少しして俺は暁のことが好きだと気が付いた。もっとも初めはそれが好きと言う気持ちだとわからずにイライラしてまわりにあたっていたのだが、偶然再会した暁を見て唐突に好きだと理解した。

 それからはなるべく喧嘩に明け暮れる日々を減らし、暁を誘うようになった。初めはどこかに怯えたような態度を残していた暁だったが、少しづつ少しづつ慣れてきてくれたようで、最近は良く笑うようになった。

「暁、俺と付き合え」

「いいよ。 今日はどこへ行くの?」

 今日もかみ合わない会話に少しため息をつきたくなるが、そこも暁らしくて可愛いと思うのだから俺も大概末期である。

「俺のとこ」

「家?」

「いや、俺の横。 今日も明日もこれからもずっと」

 ぶわっと赤くなった顔に、俺は急に恥ずかしくなってそっぽを向いた。

「とりあえず行くぞ」

 こくりと頷いた暁がそっと俺の手を握った。







2013/09/21
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