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 おいで
© みと 
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 R指定:無し
 キーワード:幼馴染 わんこ攻め
 あらすじ:イケメンわんこ×ちびっ子平凡。幼馴染な二人の恋愛未満話
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何と無く面白そうだな、試してみようだなんて思ってしまった。

それが悪かった……



ーー今から数十分前のこと。

「奏、ちょっと本屋寄っていい?」
地元の駅の改札口を出てすぐ、愁が俺の腕を掴んでたずねた。
『いい?』って聞いておきながら、腕掴んで連行されてる俺には初めから拒否権なんて無いだろ。

しばらくして、駅を出てすぐのところにある大型の書店に着いた。
腕を掴んでいたあいつの手は、いつの間にか俺の手を握っている。
ブンブンと力強く振り払おうにも、俺とあいつの体格差ではそんなことが出来るはずも無く……されるがまま。

ふと、あいつを見上げればキョロキョロと何かを探してるのに気付いた。

「何か探してんの?」

「ペットの本」

へ?こいつん家、何か飼ってたっけ?
確か何にも飼って無かったはず。
んじゃあ、これから飼い始めんのかな?

「猫を預かるんだ。
母さんの友達が旅行に行くらしくって、その間だけ」

「へー…。けど、今ってペットのホテルとかもあるのにな」

「初めはペットホテルに預ける予定だったみたいだけど、色々あって預かる事になったみたい」
苦笑しながら言うあいつに、おばさんの性格から何となく『お金がもったいない!私が預かるわよ!』とか何とか言ったんだろな…なんて想像してしまう。

「少しの間預かるだけなのに本買って来いって、どうせ俺が面倒見る羽目になるのにさ…」
少し拗ねて見せるあいつは、小さい頃からおばさんには弱い。
俺もあの人には勝てる気がしないな…。

ペット関連の動物の本が置かれたコーナーにたどり着くと、俺の手はやっとあいつから解放された。

あいつは猫の本を何かしら見つけると手に取り、パラパラと見始める。
ボーッと突っ立ってるのもなんだから、俺も目の前に並んでいる本を手にした。
ちょうど手にした物は猫の色んな行動が事細かく載った本。読み易いように絵と砕けた書き方で解説されている。
当たり前だけど、猫にも色んな性格がいてこれを読んでると飼いたくなってくる。
……飼えないんだけど。うちは両親揃って犬猫アレルギーだし。

ちょっぴり悔しい思いをしながら本を棚に戻した。

戻しついでに隣の棚を見れば、犬の本が目についた。
適当に一冊抜き出して読んでみると、これまたなかなか面白かったりする。

へー…躾って、ただルールとか教えるだけじゃないんだ。
ものによっては命を守るために必要なのもあるんだ…。
ふーん。

ふと、なぜだかあいつに視線を移す。
やっぱり犬つながりだからかな?

すると、珍しい光景が……
あいつが、愁が数名の女子高生に囲まれていた。
いつもならうざったそうな顔をするあいつが、表情を少しも変えないでされるがまま囲まれているだけ。

……たぶん気づいてないんだろうな。
ものすごく真剣に本を読んでいるから。

てか、ただ、本を立ち読みしてるだけなのに女子が寄ってくるとかどんなんだよ。
めちゃ羨ましいし。

「しゅ…」
あいつの名前を口にしようとしてすぐに止めた。
ふと、名前を呼ぶだけじゃ、何だか味気ない気がした。

ーー今思えば、どうしてそんな気になったのか不思議で仕方ない。
さらに、さっきまで読んでいた犬の躾の本が突然ポンっと頭に浮かんで「面白そう」だなんて、少しでも思ってしまった自分に深く後悔している。

だって、俺が口にしたのはあいつの名前じゃなくて……

「おいで」

だったのだから。
しかも、両手を広げるというオプション付き。

あいつは本から顔を上げると、目をパチクリとさせて驚いた表情を見せた。
けれどそれはほんの一瞬で、すぐに口元が綻んだ。いや、にやけてるって方が正しいのかもしれない。
その顔を見てハッとするものの、広げた両手をしまう間もなく、俺の腕の中にあいつが飛び込んできた。
これも正しくは、俺の方があいつの腕の中にすっぽり収まっているのだと思う。


「何?退屈だった?」
頭の真上で話しかけてくるから、低くもなく高くもない心地良いあいつの声が頭の中で響いてる。
そっと上を見上げれば、まるで愛しむように微笑むイケメン顔がある。
その顔は女だったらイチコロだぞ。

「別に。……とりあえず、離れろ」
背中に回した手であいつの制服を引っ張って引き剥がしにかかるも、ビクともしない。
ただシャツだけが伸びている。

「奏が呼んだのに?」
何で?と不思議そうに首を傾げるあいつ。

『ちょっと試してみただけ』なんてことは言えるはずも無く、黙ったままシャツを掴む手の力を緩めた。

やたらと嬉しそうなあいつに「何?」と不機嫌に尋ねると、ぎゅうっと力強く抱きしめてきた。
「こういうこと、めったに無いから嬉しい」

さらにぎゅうっと抱きしめられて苦しくなり、思わず「ぐぇっ」と奇妙な声が口から漏れた。

「痛い!苦しい!離せ!」

俺の悲痛な声はしばらくの間、あいつの耳には一切届かなかった。




本当、言うんじゃなかった……。

end.







2013/12/03
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