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春夏秋冬
R指定:---
キーワード:不良×平凡(おチビ)
あらすじ:微かにあった接点が繋がるまで
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僕が霧島真幸と知り合ったのは、満開の桜が心を癒してくれる春だった。
僕と真幸の接点なんてただ学校が同じって言うだけのすごくあやふやなもので、しかも僕は真幸のことを一方的に知っているけれど、真幸は多分僕のことは知らないだろうというくらいの曖昧さ。そんな細い細い接点がピンと繋がったのはある意味奇跡と言っていいのではないかと思う。それとも、桜の見せた幻だったのだろうか。
霧島真幸は僕の通う学校ではとても有名な人だった。去年入学してまず何を覚えたかと問われれば誰しもが霧島真幸と言うだろう。進学校でもなければ不良校でもない極々普通の学校。そんな中に獰猛で界隈で有名な不良がいればそれは明らかに異質で、だからこそ僕らはその名前を頭に叩き込んだのだ。それでも一年平穏無事に過ごし、二年に上がり、忘れた頃に細い細い接点が繋がったのだ。
僕は子供の頃に大病を患ったせいで、発育が同年代の人よりも若干悪い。身長も低ければ筋肉もつきにくいせいで比較的華奢。正直絡まれやすい容姿をしていることは否めまい。お察しの通り、真幸との接点は不良に絡まれた僕が助けられるというどこにでもありそうなシチュエーションだった。何人かの不良を一人で蹴散らかした真幸は、僕にとって大きくて頼もしいヒーローに見えた。
「おい、チビすけ、大丈夫か?」
と問われるまでは。結構小さいことを気にしていた僕は、怖いとかお礼を言わなきゃとかいろんな感情を置き去りに
「僕はチビすけじゃない!!」
て声を高々に宣言して走り去った。もちろん後ろで呆気にとられた真幸が一瞬後には大笑いしていたなどまったく知らない。
きちんとお礼が言えなかったことも手伝って、真幸の姿を捉えると目で追うのが僕の日課となった頃、じりじりと灼けつくような激しい夏がそこまで近づいていた。細い細い接点はもう切れそうなくらい細くなっていて、お礼を伝える勇気すら出せない僕を嘲笑うかのように時はどんどんと過ぎて行った。
その接点が不意に繋がったのはいつかのセリフ、
「おい、チビすけ、大丈夫か?」
だった。今度は不良に絡まれて助けられたわけではない。ただ暑くて、体力がない僕が眩暈に道端に蹲ってしまっただけのことだ。
「だから僕はチビすけじゃないって」
げっそりと覇気のない声で答えれば、
「ほらよ」
と、首の後ろに冷たいペットボトルが添えられた。なかなか気持ちいい。
「熱中症になる前に飲んでおけよ」
そう言いながら真幸はまだ立てない僕の横にしゃがんで煙草に火をつけた。せっかくだから有難く飲み一息ついたころ、自分が自分の身に何とかかかる程度の小さい影の中にいることに気が付いた。隣にはあちぃと先程から煩い不良が襟元をパタパタとしていた。
ああ、この人、好きだなあ。
不意に意識して、顔が赤くなるのを感じた僕は俯いたまま
「ありがとう」
と呟いた。この間言いそびれていた言葉と、今日はまた助けてくれた事と、言葉に込めながら。
それから僕らの接点がかっちりとくっついたかと言うと、やはり細く長くと言った感じでこれと言って何かが進展したわけでもなくかといって離れてしまうわけでもなく、つかず離れずの不思議な関係が続いた。
だからクラスメートは僕と真幸が知り合いだなんて想像もしていなかったに違いない。秋の体育祭の借り物競争で、僕は何ともべたな『憧れの先輩』という紙をひいた。部活もしていない、特別社交的でもない僕に先輩と言う知り合いなんているはずもなく、一瞬うーんと唸りかけたが、ふと真幸のことを思い出した。真幸のさりげない優しさが好きだ。これって憧れ? わからないけど知っている先輩なんて真幸しかいないわけだし、と自分のクラスのテントで寝そべっていた真幸の手を掴んだ。
「おい、チビすけ」
「チビすけじゃないって」
「で、なんだ?」
「これ」
ずいっと『憧れの先輩』と書いた紙を見せて
「先輩だよね、一応」
と言えば何が面白かったのかしばらく笑ったかと思えば、行くぞ、と僕をまるで荷物か何かのように掲げてゴールに走り出した。自分ではありえない風の流れにちょっとばかり感動したのは内緒だ。
いろんな意味で湧いた秋が過ぎた頃、僕と真幸の距離は少し縮まった。
そして冬。
年を越してしまえば自由登校の真幸が学校に来ることはほとんどなくなる。卒業式も迫っている。僕と真幸の接点もとうとう完全に切れちゃうんだなあと思うと寂しいような苦しいような切なさを感じた。
出会った頃のように桜が咲けば真幸は大学生で、僕は3年になる。真幸との出会いはもしかしたら神様が見せてくれた淡い夢、なんてロマンティックな現実逃避をして寂しさを紛らわせていた。
「おい、チビすけ、これ、やるよ」
「だから僕はチビすけじゃないってば、て、えっ? 鍵?」
「接点、いるだろ?」
「なんで?」
「好きだから?」
細い細い接点が、途切れることなく続くことに僕は泣きそうになった。手にしたそれは確かな重さで僕に存在を訴える。いつかの時みたいに煙草を吸いながら、真幸は笑った。
春夏秋冬、巡る季節を真幸と感じたい。
2013/12/25
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