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 星彩
© albh 
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 キーワード:切ない 学生 ファンタジー 異世界
 あらすじ:風紀委員の志基はある日、美しい生徒と出会う。声をかけたのはたぶん…泣きたくなるほど穏やかな、澄んだ翡翠。その瞳が見たかったから…
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木々の合間から光が射し込んでいる

緑に色付いた光

歩みを進めればさくさくと草が鳴った


講堂へ続く道

桜並木が続いている

視界を掠める薄桃色の欠片

溢れる光まで薄桃色に色付いて

ふと 人影が

上向く背に長い銀の髪

風に揺れるシルクのような


「遅れるぞ」


 声を掛けたのは 多分


ゆっくりと振り返る研ぎ澄まされた美貌の

泣きたくなる程に穏やかな 澄んだ翡翠


 多分 その瞳を見たかったから


まるで全てを知ってるような顔をした彼


「君は?」


「風紀委員だ」


彼は穏やかな眼差しのまま


「星慈。君の名前は?」


「…志基」


薄い唇が弧を描く


「よろしく。志基」



‡‡‡



中庭のベンチに見知った顔


「これから昼ご飯?」


親しげに細められる瞳


「ああ…」


「どうぞ」


少し右へずれた星慈

穏やかな瞳に促されるように隣へ腰掛けた


「風紀委員とは、何をする人?」


「…最近は、敷地内に入った魔物の対処が主だ」


生徒同士のいさかいにまで手が回らない

不意に伸ばされた長い指が目許を撫ぞる


「だいぶ疲れているようだ」


冷たい指先

穏やかな瞳


「…これだけ追い詰められればな」


肩をすくめて見せる

今は 心に余裕のある人の方が少ないだろう


「いつまで経っても終わりが見えない」


魔物の脅威がなくならない

天候は激しさを増し

人々の希望はいつしか 終わりが来る事になっていた


「終わって欲しいのか?」


「…それ以外に、何を望めばいいのか分からない」


星慈の翡翠はひたすら澄んでいる

出会った時から変わらずに



‡‡‡



「辛い?」


吹き抜ける心地好い風

屋上 柵ギリギリに立つ星慈は

問い掛けて 蒼穹から視線を寄越す


「…うん」


穏やかな眼差しに虚勢が張れない


「もうじき世界が終わるとしたら?」


澄んだ翡翠


 世界が終わるなら…


「ほっとする」


立ち上がって眼下を眺めた

砂埃に沈んだ街

絶望が充満する

地平線は日々曖昧に

蒼穹が 灰に 呑まれて行く

影が射して顔を上げた先

美しい翡翠


「君が望むなら」


伸びた手が心臓の上に触れようとして止まった


「星慈…?」


握られた拳

微かに眉根が寄る


「もう少しだけ」


ふわりと腕に抱かれた


「もう少しだけ…」


切望するような声だった



‡‡‡



ふわふわと夢現を漂う



「志基」


優しい声

包み込むように穏やかな瞳

安らぎをくれる腕

崩れ行く世界で

心は凪いでいた


「もう昼だ」


隣から小さく笑う声


「…ぅん…」


「仕方ないな」


髪をすく優しい感触

きっと穏やかな眼差しをしているんだろう

美しい翡翠を細めて


「せぇじ」


「なに?志基」


「せーじ…」


くすくす笑う声


 もう少しだけ…―――



‡‡‡



ハイテク装置がやって来た

魔物の場所が正確に地図に現れるという装置を起動させる

赤く光る点が幾つか

その中に


「…音楽室…?」


風紀室に溢れた声

全力で駆けた


そこは

そこは最近 たまに行く場所

だって そこには

微かに響いてくるチェンバロの音色

切ないながら優美な響き

扉を開け放つ

途切れる旋律

白磁の椅子で振り返ったのは


 やっぱり


「星慈…」


穏やかな眼差しで


「どうかした?志基」


まるで全てを知ってるような顔をして


「…なんで…」


再びチェンバロに向き直る

紡ぐ曲はレクイエム


「星慈…。あんたは、一体…」


「君の思う通りさ」


繊細な音を生み出す長い指


「人じゃ、ないのか」


「ああ」


揺れる銀の髪


「でも」


弧を描いた薄い唇


「俺は終わりを担うもの」


指が止まる

最後の和音が消えた

交わる視線

穏やかな眼差し

澄んだ翡翠


「終わり…?」


「君の心臓は世界の心臓」


縮む距離


「君は原始の血を継ぐ者。世界を紡ぐ者」


頬を滑る白い指


「終わらせたいか?志基」


いつの間にか 即答できなくなっていた


「あんたはどうなる」


美しい翡翠は穏やかなまま


「役目が終われば消える」


「…俺の心臓を取って消えるのか」


「君が終わりを望まないのなら、心臓を奪ったりしないさ」


微笑を湛えて優しい声で


「そしたらあんたは?」


「役目がなくなれば消える」


「…どっち道、変わらないじゃないか」

吐き出すように


 苦い気分だ


澄んだ翡翠を睨み付ける


「あんたはッ、勝手にやって来て心を奪って、」


視界が歪んだ


「終わって欲しくないと思った。あんたに会えたからッ」


目許を拭う長い指


「でも、あんたは、」


 どの道消えるという


 星慈のいない世界はもう考えられないのに

 星慈が希望をくれたのに


「…ごめん」


包み込むように抱き締められる


「ほんの気紛れだったんだ。君と話してみたかった」


ぎゅっと力が籠った


「後悔はしていない。君の事を知れて良かったと思っている」


仲間が駆けつけて来る足音が近付く


「志基、選んでくれ」


首を振る


 まだ一緒にいたい


 選べない

 望むものは どちらにもない


「志基…」


「志基!!」


委員会の仲間たちが一斉に魔法を放つ


「待っ」


ハッと見上げた先

変わらぬ微笑

氷に貫かれる腕

穏やかな瞳

美しい翡翠の

視界いっぱいに

唇に触れた柔らかな感触


「    」


耳許で囁かれた言葉

光に包まれる躯

後に残るものは何もない


確かに触れていた感触以外



「せい…じ……」


「志基!無事か!?」


心配そうな顔が幾つか


「…星慈…」


奪われなかった

心臓の上に手を置く

とくとく 脈打つ 生の証

崩折れた


仲間の声が遠く聞こえる





 あんたは 確かに終わりだった


 俺の世界を終わらせた

 俺の希望だった







2014/09/29
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