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 喫茶店
© 早 
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 あらすじ:杉山のバイト先の喫茶店に来た高村の話。少し季節がズレてますが…
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「お客さま、コーヒーのおかわりはいかがですか?」
「ああ、頂きます、ありがとう」

 ……。

「お客さまコーヒーのおかわりはいかがですか」
「うんもらうね」

 ……。

「お客サマおコーヒーのおおかわりはおイカガデゴザイマショウカ」
「ああ淹れといて」

 ……。

「お客さまてめぇいつまで居座るつもりだバカヤロー」
「あと2、3時間かな」
「フザケンナ! ……ッ痛ぇー!!」
 店員杉山の頭を、店長の須藤さんがぼんの裏で引っぱたいた。
「ごめんねぇ高村くん、いつまでもいてくれていいからね。あ、コーヒーおかわり、いる?」
 須藤さんはもう70も近いというのに、驚くほど元気なおじいさんだ。灰色になった髪も髭もきれいに整えられていて紳士的な印象を受ける。その須藤さんがにこやかに微笑みながらそう言ったので、俺も笑顔で返す。
「頂きます。ありがとうございます須藤さん」
「いいんだよ、当たり前のことだもんねぇ」
 そそくさと杉山の首根っこを掴みながらカウンターへ戻っていく須藤さん。いいなぁ、ジェントルマンだなぁ。俺もああゆう風に、歳を重ねたいものだ。
 しばらくして、「失礼します!」と全然申し訳なさそうに言ってコーヒーを注いだのは店員杉山だった。派手な金髪に赤いメッシュを入れて、大量のピアスはもちろんのこと、眉毛のあたりにも銀色のピアスがくっついている。見てるだけで痛い。こんな社会に対しての挑発としか取れないような格好をしておいて、俺と同じ大学でしかも法学部というのだから驚きだ。初めて会ったときはここまでひどくなかったんだけどなぁ……ちなみに俺は理工学部だが。
「ごゆっくり」
 杉山は嫌味ったらしく下唇を突き出して言うと、用は済んだとばかりにカウンターへ戻っていった。

 俺が杉山に構う理由は特にない。
 まぁ強いていうのなら、暇つぶし、だ。
 今は学校の試験期間なので、みんな課題に追われて遊びに誘うこともできない。俺はまぁ普段要領よくやってるおかげで、今はこうしてのんびりノートパソコンを開き、最後のレポートを仕上げているのだが。
 これが終わったらもう今期はすることがないな……春に入学したばかりなのに、もう2回生になるのか。
「てめー勉強ならそこの図書館でやれよ」
 声につられて画面から顔を上げると、カウンターに引っ込んだはずの杉山が向かいの席に腰掛けていた。こいつもたいがい暇らしい。
「図書館じゃコーヒー飲めないだろ」
「じゃあ家でやれよ」
「家は煩くて集中できないから」
「ここもうるさいだろがよ!」
「お前が暇そうだから」
「……っは?」
 杉山が一瞬止まった。
「な、なに言ってんだよ、ひ、ひとの所為にすんなバカ」
「……」
 しどろもどろになって答える杉山。明らかに動揺してる……正直なやつだ。
 おもしろいので、趣向を変えてみることにした。
「そうだな、ひとの所為はいけないな」
「……」
 居心地悪そうに目線を下げる杉山。……居心地悪いならさっさと仕事に戻ればいいのに……じゃあ、こういうのはどうだ?
 頬杖をしてノートパソコンの画面を少しだけ下げて、顔がよく見えるようにした。
「杉山」
 それから名前を呼んで顔を上げさせる。一度目を伏せてから、次の瞬間にはしっかり合わせて、言う。女を落とす時みたいに真剣な目と、短くて直接的な言葉。
「俺がお前に会いたいから来た」
 ……これを言った瞬間の俺は横の窓から差すひかりでキラキラしてて、自分で言うのもアレだけど、マジかっこよかったと思う。シャラリラリ〜ン♪ って効果音が聞こえてきそうなくらいに。こいつが女だったら惚れるまでとは言わないけどそれなりにときめいたはずだ……まぁ、女だったらの話なんだけど……
 と思ってたら、いきなり杉山が立ち上がってスゴイ剣幕で言った。
「ふっふふざけんなテメー二度と来んなバカ! 死ね! カス! 暇人!!」
「……え、……お前、顔赤……」
「とっとと帰れっつってんだバカヤロー!!」
「え!? え、ちょ、おいっ」
 杉山は俺の腕を掴んで無理矢理立たせると、まっすぐに店の外へ押し出す。
「おいっ、ちょ、杉や……」
「てめーなんか女に刺されちまえばいんだっ二度と来んじゃねーぞ!!」
 ぽいぽい、とコートと鞄とノートパソコンを乱暴に放り投げられて慌てて抱える。ノートを落とすのはさすがにまずい。
「杉山……!」
 ばたん! と勢いよくドアが閉まり、ドアについたカウベルがけたたましくガランガランとらしからぬ音をたてた。
「……え、……」
 店の外へ放り出された俺は半ば放心状態だったが、やがてそろそろ家路に着いた。



 いや……まさか、あそこまでリアクションくれるとは思わなかったなぁ……
 家に帰ってからそう思ってちょっと笑ったけど、コートを拾うのを忘れて店の前に置きっぱなしにしてきた俺も、そうとう笑えると思う。












2007/03/10
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