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謎ヶ丘 殺意の旅(仮)
[1]SS
わい雑でのコピーからの始まりですが、自己満足的に続けてみます。誤字脱字、文章の繋がりの悪さご容赦下さい。

よろしくお願い致します!

※全てフィクションです。
:V904SH
:11/02 13:22

[2]SS
『ギャギャギャギャッ!』
突如耳に飛び込んできた不自然で不愉快極まりない爆音に、せっかくの休みの大事な昼寝タイムを邪魔された津田山は、寝ぼけ眼で虚ろな思考の中、不快音が聞こえて来たと思われる方向の窓に向かおうと体を起こそうとした。

『グググッ』
あれ?と思った津田山は、自分が思い通りに体を起こせていない状況に驚愕した。

ロープで体を乱雑にぐるぐる巻きにされているのだ。

そして醒めてきた眼でよく周りを見渡すと、全く見慣れない景色が広がっていた。
いや、景色というより、単なるコンクリート打ちっぱなしの壁と曇り硝子の窓に裸電球しかない。

津田山は自分の現況を落ち着いて観察した。身動きのとれない状態、見知らぬ部屋に監禁されていることを理解するのには、たいして数秒もかからなかった。

最新の記憶から整理してみる。

昨日仕事から帰宅した津田山は、明日は久しぶりの休みだからと、いつもより2本多く缶ビールを飲み干し、ほろ酔い気分で床に就いた。

翌日もゆっくり寝ていたいところだったが、嫁と娘が買い物に出掛けるとのことで無理矢理起こされ、運転手と荷物持ちの重要任務を授かり、見事その任務を完遂したところで嫁と娘は美味しい甘味を食べると言い出し、甘いものが苦手な津田山は、だったら俺は先に帰ってるぞと腹立たしげに言及し、無事帰宅後に鬼の居ぬ間の、しばしの昼寝をしていた・・・

ここまでは記憶がハッキリしているのである。

それが何故、一切何も気付きもせずにこの状態になってしまっているのか、いくら頭の中を回しに回しても、あの不快音と共に、今の津田山の思考の中からは、何の答えも出ては来なかった・・・
:V904SH
:11/02 13:24

[3]SS
津田山が見知らぬ場所でまだ眠りに就いていた頃、部下の三上は入署依頼初めての出来事に戸惑っていた。

「津田山警部がまだ出勤されていないんですよ!連絡もないし、携帯も繋がらないし、ご自宅も電話に出ない。
仲の良い田口警部にお聞きしたら、津田山警部が無断欠勤なんて初めてだと言っていたし・・・心配ですよ・・・」

と、刑事課長の渡来にまくし立てていた。

自ずと騒然となってきてしまった捜査一課室の時計は、既に正午を過ぎている。

渡来の前から下がった三上は、前科者カードから四日前に起こったひったくり事件の指紋照合をしなければならず、モニター画面を凝視していたが、視覚からの指紋情報は全く脳に電気信号が伝達されず、意識は津田山の心配だけをしていた。


渡来課長は捜査三課の田口警部を呼び、三上からの報告の件について話し合ったが、これといった情報交換も出来ずに唸った。

「俺の記憶だと、三上が言うように津田山は遅刻欠勤なんてなかったはずだよ。同期のお前から見て、津田山はどう思う?」

「私から見ても、課長もお分かりの通り、津田山は真似の出来ないくらい几帳面な奴です。まさかいささかの理由もなく無断で仕事を休むことなんて有り得ません。奴の家族とも親交はありますが、奥さんは確か専業主婦ですので自宅にいるはずです。この時間に奥さんが電話に出ないはずもないので、もしかしたら、何か事件に巻き込まれたのではないかとも考えられます。」

「もし事件に巻き込まれたとすると、こっちから騒ぎ立てるのはあまり得策じゃないな。手掛かりも何もないんじゃ話にならない。取り敢えず署員には騒がないよう伝えてくれ。奴の部下の三上には特にな。
幸い、今は手のかかる事件は特にない。俺は奴の自宅に行ってみよう。」

「了解しました。何か解りましたら連絡下さい。」

渡来と田口は多少肩を落としながら散会した。
:V904SH
:11/02 17:26

[4]SS
渡来はその日の就業後、津田山の自宅を尋ねようと駅に向かって歩を進めた。

もう初秋のはずだったがまだまだ陽射しは強烈で、この時間帯も容赦無く渡来を照り付ける。
なるべく汗を出さないよう心掛けていても、ほぼ徒労に終わる。渡来はあちらこちらから吹き出る体液を意に介さずに駅を目指した。

・・・と、不意に後方から、走りながら渡来の名を連呼する男が近づいてきた。三上だった。

「渡来課長!ちょっと待って下さい!私もお供させていただきます!」

無遠慮に叫びながらやってきた三上は、滝のような汗を目に染みさせて息を切らしながら、ゼィゼィと膝を押さえた。

「お前なぁ・・・携帯かなんかで連絡くれればいいだろ。市民の方達を不要にびっくりさせてどうするんだ。」

と皮肉る渡来に、三上は目をキラリと光らせた。

「津田山警部のご自宅に行かれるんですよね。水臭いじゃないですか。抜け駆けは無しですよ。私が一番心配しているんですからね。もし何かの事件だったら、お一人では危ないかもしれませんしね。ですので、なんと言われようともお供しますよ!」

(田口の差し金か・・・)

渡来が津田山の自宅に行こうとしていたのは田口しかしらない。オレも甘く見られたもんだと、柔道二段の腕っ節がひそかに落ち込んでいた。

「これは非番での行為だ。手帳と拳銃は置いてきたな?」

覚悟を決めていた三上は渡来の目をグッと睨んで、そして無言で頷いた。
:V904SH
:11/06 12:02

[5]SS
慌てて渡来を追い掛けていった三上の骨太な後ろ姿を見届けたあと、田口はデスクの電話器ではなく自分の携帯電話を取り出した。

そして携帯の電話帳からではなく頭の中の記憶から、ある10桁の番号を入力した。

「おう、柳川か。こないだの事件、もうだいぶ落ち着いたろ。ちょっと話したいことがあるんだが、出て来てもらえるか?」

「田口さんからのお願いなんて珍しいですね。だいたいいつもは津田山さんからのお願いが多いのに。」

「相変わらずだな。では一時間後に例の喫茶店でな。」

一時間後、これから色彩豊かになってくる繁華街にある割には静かな喫茶店で、田口と柳川は一番右奥の四人席に二人で座った。

「津田山が行方不明になった。」

と切り出した田口は、事の首尾を柳川に話した。

「で、私にどうしろと?」

「お前も元上司の津田山に似て、本当に嫌な奴になったな。俺がお前に直接話していることで、だいたいの察しはつくだろ。渡来課長の意向もあり、今のところはあまり騒ぎたくないんだよ。」

「そうですか。了解しました。ではこれは田口さんからの依頼ということでよろしいですね。」

「勝手にしろ。」

コーヒーが何杯も飲めるのではないかと思われる額をテーブルにドンと置き、田口は立ち去った。

柳川は以前津田山の下で働いていたが、恋人のストーカーをしていた男を自力で見つけた時に、あまりにも過剰な暴行をしてしまい、署に迷惑はかけられないと、自ら津田山の下から去ったのである。
今は一人で私立探偵を営んでいる。

その探偵の男は、テーブルの上にある数枚の札を手に取り一人で少々ニヤリとしながら、でも宙に向けられていった視線の奥には、署を退職する時に一番自分を留意させようとしてくれ、その後も何かと世話をしてくれた津田山の姿が浮かんでいた。
:V904SH
:11/06 15:51

[6]SS
津田山の自宅へ向かう途中、癖のようなものでふと振り返ると、柳川は道路の反対側で信号待ちをしている、見覚えのある二人組に目が止まった。

渡来さんと三上だ。

そういえば渡来さんは刑事課長に昇進した、と風の噂で聞いていた。三上は相変わらずのようだが。

(やりにくいな・・・)

本音が出た。田口からこの二人も津田山宅に向かっているとは聞いていたが、もう一時間以上時間はずれているから大丈夫だろ、とも聞いていた。なのに何故柳川と同じ時間になっているのか・・・

いくら考えてもわからないので考えるのを止めて、現職二人組と合流するかどうか悩むことにした。

だが、そんな悩みは次の瞬間消し飛んだ。

「おーい柳川!柳川だよな!ちょっと待ってくれよ!」

なんとも聞き覚えのある無遠慮な叫び声。
同期だった三上だ・・・そういえば視力が恐ろしく良かったな・・・こりゃ探偵失格だな・・・と柳川は心の中で嘆いた。

屈託のない笑顔で勢い良く懐に飛び込んできた三上は、でも次の瞬間には刑事の目付きになっていた。

「どこに行こうとしてたんだ?」

三上とも退職後、内密に裏で何度も一緒に仕事をしている。かまをかけられているのは容易に理解できたが、田口に二人とは別に仕事をしてくれとも言われていない。

柳川は渡来と三上に事情を説明し、まずは三人で津田山の自宅を訪問することにした。
:V904SH
:11/06 16:57

[7]SS
津田山宅への道すがら、柳川は先程疑問に思っていたことを口にした。

渡来と三上からの返答はこうだった。

津田山の自宅へ向かう途中、たいして遠くない津田山の実家に先に寄っていたと言うのだ。
お年寄りの家にあまり遅くにお邪魔するのも悪いと。

結局はご両親は在宅だったが津田山はいなかったらしい。当たり前と言えば当たり前なのだが・・・

(普通、先にこっちに来るだろ)

柳川は意味の無い腹立たしさを覚えていた。

閑静な住宅街を歩き、程なくして津田山宅に到着した津田山捜索小隊は、三者同意に心の中で予想していたことが案の定実現していることに落胆した。

誰もいないのである。

三人で協議した結果、責任は渡来が持つとなり、津田山宅に乗り込もうとなった。汚れ役はもちろん現職公務員ではない柳川が買って出た。

そしてどこでいつ覚えたのか、柳川はピッキング技術を渡来と三上に披露した。

真面目な渡来は、一応見ない振りをしている。

ガチャンと鍵が開いたと同時に三上からポンと肩を叩かれた渡来は、かきたくない種類の汗をかきながら、ジロっと柳川を見た。柳川は人差し指を口の前に配置し、声に出さない笑みも披露した。

「そろそろ日も落ちる。電気を付ける訳にはいかない。早いとこ見てこよう。」

渡来隊長のGOサインと共に、小隊は隊長を先頭に津田山宅に侵入した。
:V904SH
:11/06 17:17

[8]SS
津田山宅の中は整然としていた。
争った形跡もなく、片付け等もしっかりしてある。異様な部屋はなかった。

口の端から赤い血を流す女性の死体が横たわるリビング以外は・・・

「この甘い臭いは青酸カリか・・・この仏さんは奥さんや娘さんではないよな?」

渡来は三上に聞いた。

「違うと思います。昨年、津田山警部主催のバーベキュー以来奥さんとも娘さんともお会いしていませんが、この女性とは違うと思います。」

渡来は直ぐさま初動捜査課と鑑識課に、三上は田口警部に連絡した。

「やはり津田山警部は事件に巻き込まれていたんですね・・・」

三上は怒りとも悲しみとも取れる声で、独り言のように捻り出した。

ふと気付くと柳川がいない。

(奴め、気を効かせて出ていったか)

渡来は思った。

そして10分もたたないうちに、けたたましいサイレンと共にわらわらと警官達がやってきた。

渡来と三上は一通りの事を初動捜査課の刑事達に話した。ただ、柳川のことは伏せておいた。

程なく田口も蒼い顔で駆け付けた。

「取り敢えずこれを・・・」

田口は渡来と三上に警察手帳と拳銃を手渡し、再度職務中の現職刑事となった三人は、複雑な心境の中、津田山の自宅を見守っていた。
:V904SH
:11/06 18:34

[9]SS
津田山は明らかに衰弱していた。

窓の明るさが落ちてきたことから、世間は夜に差し掛かってきていることは判別出来る。

でも詳しい時間はもちろん解らないし、助けを叫びすぎて声も枯れてきている。

乱雑に巻かれたロープは、意外にも全く緩まない。

小説や映画なら、ここで縄抜けの技や袖からナイフを出してロープを切ったりするところだろうが、実際には成す術がなかった。

犯人でも誰でもいいから、とにかく誰か来てくれと願い続けていると、その願いが神に通じたのか、重厚な鉄の扉がギギィと開かれた。

現れたのは黒ずくめの服装にフルフェイスのヘルメットを被った、男とも女とも取れない体型の人間だった。

「何故こんなことをするんだ?キミは誰なんだ?」

かすれた声を絞り出して津田山はその黒ずくめの人間に問うた。

案の定その黒ずくめは何も喋らず、持っていたトレーを床に置き水を注ぎ、パンを乱雑に放り投げた。

それはまだ監禁されなければならない現実を受け入れなければならない、犯人からの答えでもあった。

「トイレに行かせてくれ。さすがにこの年でおもらしは勘弁してくれ。」

黒ずくめは無言で足のロープを解いた。

次の瞬間、津田山の左足が黒ずくめの人間のみぞおちを的確に貫いた。

黒ずくめの人間はその場に無言で倒れた。気を失ったようだ。

いくら頑張ろうとも、上半身のロープは解けなかったため、まずはここから脱出しなければならないと決心したが、やれることはやっておこうと、犯人の体を足でまさぐった。

女性であった。
でもそれ以上は解らない。

仕方なく津田山は足を器用に使って扉を開き、部屋の外に転がり出た。
:V904SH
:11/06 19:59

[10]SS
そこはガランとした真っ暗な倉庫のようだった。

明かりのスィッチを、とも思ったがもし共犯者がいたら今の状態では太刀打ち出来ない。

津田山は忍び足で出口を見つけ、また足を使い、慎重に外に出た。

そこはどこかの港のようだった。
昼間に聞いたあの不快音はクレーンを使ってのコンテナの積み降ろし等の音だったのだろうと予想された。

でも今はそんなことはどうでも良かった。とにかく人のいるところに行かなければならない。先程の黒ずくめの女が目を醒ます前に戻りたい。

津田山は上半身ぐるぐる巻きの異様な出で立ちで、人がいるのではないかと思われるほうに、とにかく走りまくった。

程なく工事現場を見付け、津田山は身分を明かし現場の人達に事情を話してロープを切ってもらい、警察に通報するように伝えてから、携帯電話を借りて、急いで監禁されていた倉庫に戻った。

だが既にもぬけの空だった。犯人が戻ってくることも、もう考えられない。

チッと舌打ちした津田山は監禁現場から借りていた携帯で署に電話した。

「渡来課長はいるか?」

電話に出た受付員から捜査一課に繋いでもらい、居残りをしていた新人刑事から一連の事情を聞いた津田山は、蒼い顔で言葉を失っていた。
:V904SH
:11/06 20:18

[11]SS
監禁されていた倉庫に鑑識官等が到着し、捜査を始めた。

津田山は鑑識官に再度事情を説明したあとその場を任せ、署に急行した。

「おい、もう一度一から説明してくれ。」

津田山は居残りの新人刑事から再度現況を聞き、刑事の装備に身を固めたのち、三上達がいる我が家へ向かった。

途中、新しく配備された携帯から妻と娘の携帯に何度も何度も電話をかけたが、聞こえてくるのは、こちらの気持ちを知る由も無い冷たさを含む、何度も聞いた事務的な返答だけだった。

「私としたことが・・・情けないです・・・ご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありません・・・」

我が家への帰路が地球一周の距離に匹敵するような錯覚に陥りながら、騒然とした自宅に到着した津田山は、渡来の顔を見るなり頭を下げた。

「お前のデスクに引き出しに忍ばせてあった奥さんと娘さんの写真を勝手に拝借したぞ。」

田口の言葉に、津田山は深い感謝を表す意味で睨み返し、頷いた。

三上は何とも言えない安堵の表情を数秒間続けたが、津田山が三上を見た時には何かの覚悟を決めた表情へと変化していた。

「必ず妻と娘を見つけ出し、必ず犯人を逮捕したいと思います。」

津田山は三人に、いや、自分へ言い聞かせるように、小声ながらも確固たる決意のこもった言葉を発した。
:V904SH
:11/07 16:40

[12]SS
翌日、捜査本部の設けられた会議室の白板には、現在判明している昨日の事件の詳細が書かれていた。


司法解剖の結果、亡くなった謎の女性の死因は青酸カリによる中毒死、身元の解るものは何もなく、捜索願いに出ている写真からも照合はなかった。

死亡推定時間は昨日の夜半未明。
発見された時には、すでに20時間以上が経過していた。

津田山宅のリビングには争った形跡はなく、青酸カリを服用した物証形跡も無し。

ただ、死後硬直の時間とリビングの床にあった血痕を調べた結果、その場で青酸カリを服用したのは間違いないと思われる。

また彼女の指紋は津田山宅のどこからも出てはいない。

津田山宅周辺での一昨日、昨日の不審車両・不審人物の目撃情報は現在までは無し。


津田山は港の倉庫の一室に丸一日監禁されている。津田山を監禁した犯人の一人は女性。共犯者がいるかどうかと、津田山宅での変死事件との繋がりがあるかどうかはまだ不明。

監禁場所は空き倉庫で、現在使用業者は無し。現在までの指紋・物的証拠・不審車両・不審人物の情報もない。

津田山の妻と娘は依然行方不明。一昨日昼過ぎ、甘味屋で食事をしたところまでは確証が取れている。

津田山・妻・娘の携帯使用履歴は一昨日昼以降無し。


現状では、ほとんどの事柄が不明な状況であった。

指揮を執ることになった渡来は、会議室に集まった20人程の捜査員達の顔を見回した。

「何か質問はあるか?」

会議室は重苦しい空気が支配していた。
:V904SH
:11/08 12:55

[13]SS
「高橋のチームは再度津田山警部宅とその周辺の聞き込みを。
谷のチームは倉庫とその周辺の聞き込みをしてくれ。
小笠原班は二手に別れ、死亡した女性の身元の調査と、津田山警部の奥さん、娘さんの足取りを追ってくれ。」

そして渡来はひと呼吸置いたあとに言った。

「津田山警部と三上は残ってくれ。」


一斉に立ち上がった刑事達は、会議室を蜘蛛の子を散らすように飛び出していった。渡来・津田山・三上を残して。

「津田山。解っているとは思うが、オレはこの山からお前を外そうと思っている。」

「何故ですか!?警部が一番悔しがっているのは、課長だって解ってらっしゃるじゃないですか!」

隣で俯き加減になっている津田山を尻目に、三上が獣の如く渡来に噛み付いた。

「落ち着け三上。そして冷静に刑事として考えてみろ。」

渡来から諭された三上の目が、数秒の後、カッと見開いた。

「ま、まさか課長は津田山警部を疑っているんですか!?」

「その通りだ。」

間髪入れずに突き刺さった渡来の言葉に、三上は絶句した。

そして津田山が静かに口を開いた。

「三上。ありがとうな。だが課長のおっしゃることは私も理解している。私の話した事に対しての裏付けはまだないのだし、監禁されていたことだって、証拠はないんだ。
私に容疑を向けようとしている犯人の幼稚な罠には課長も気付かれているとは思うが、だからと言って、何の確証も無しに、安易に私を容疑者から外す訳にはいかないんだよ。」

「で、でも・・・!それじゃあんまりに・・・!」

三上の叫びは、言葉にはならない雄叫びと化して会議室にこだました。
:V904SH
:11/10 18:46

[14]SS
しばらくの沈黙が三人の時を支配した。

「津田山。お前にはしばらく休暇を与える。そして三上の監視を付ける。三上。容疑者津田山をしっかり見張っておけ!」

突如放たれた渡来の言葉に、三上は不謹慎にも笑みをこぼした。

「課長!ありがとうございます!」

「指示を出されて感謝なんかするな。早く行け!」

「では準備してきます!」

三上の足音が軽やかに遠退くのが聞こえた。

「柳川によろしくな。」

津田山は渡来のこの一言で全てを察し、これ以上下がらないほどに深々と頭を下げ退室した。


署を出る時、津田山は同期の田口とバッタリ出くわした。

「必ず!・・・な。」

ドンと叩かれた津田山の肩には、田口の魂が込められていたような重みがあった。

そして別れ際に一枚の紙切れを握らされた。

そこには津田山の知らない、柳川の新しい携帯番号が記されていた。


津田山は近くのビジネスホテルで長期滞在する旨の要請を出し、ツインの部屋に案内された。

「三上。お前には貧乏くじを引かせてしまったな。申し訳なく思っている。」

「何を水臭いこと言ってるんですか!津田山塾の一番弟子、この三上がいれば大丈夫ですよ!」

「ああ。頼りにさせてもらうよ。」

渡来・田口・三上・柳川達の好意に甘えさせてもらう上は、絶対に犯人を取り逃がしてはならないと、津田山は決意を新たに誓った。
:V904SH
:11/10 19:05

[15]SS
昨日から気丈に振る舞っていた津田山だが、内心は生きた心地がしなかった。

愛妻と愛娘が未だに行方不明なのである。

まさか彼女達が犯人の訳はないと自分に言い聞かせながらも、公安の職に就いている以上、私情は極力排除しなければならない立場にある。自分を敢えて自由に動けるよう手配してくれた渡来の恩に報いるためにも、最悪の事態も視野に入れて動かなければならなかった。

そんな心中を察した三上は、無言で部屋に据置の安物珈琲を煎れてくれた。

「警部、大丈夫ですよ。必ず奥さんも娘さんも無事保護されます。警部が弱気になってしまってはいけません。お二人の無事を信じて、犯人を追い詰めていきましょう!」

(こいつも大人になったな)

ちょっと熱めの珈琲を啜りながら、気がつかなかった愛弟子の成長に、津田山はここ何日か味わってなかったつかの間の安らぎを感じていた。

「まずは亡くなった女性の身元を早く知りたいな。」

「そうですね。倉庫にも警部のご自宅にも手掛かりはなさそうですし、今の所目撃情報もありません。亡くなった女性には申し訳ないのですが、彼女が唯一の手掛かりでもあることには代わりありませんからね。」

数多の重大事件に於いて、最初からこれほど手の打ちようがないことも珍しい。
津田山達は困惑していた。
:V904SH
:11/10 23:22

[16]SS
津田山は柳川に電話をした。

「やあ、久し振りだな。何故キミに電話したかはもう解っていると思う。すまないが○×ホテルまで来てくれないか。」

「解りました。後ほど伺います。声はお元気そうで良かったですよ。」

一時間ほど経った頃柳川はやってきた。ホテルの一室が第二の捜査本部に変容した。

「やはりまだ死亡した女性の身元は解りませんか。」

経過を説明した津田山に対し、たいした落胆の色も見せずに柳川は答えた。

「なあ、勿体振らずに教えろよ。お前が今の今まで、何もせずに警部からの電話を待っていたなんてことは言わせないぞ。」

柳川は目を光らせた。

「さすがだな、鋭いじゃないか三上。ちっとは成長したようだな。」

三上の鬼の形相を受け流した柳川は、津田山に話始めた。

「実はテレビ局に扮して独自に聞き込みをしてみたんです。最近はアンチ警察の方も多いと伺いましてね・・・」

三上の二度目のきつい視線を更に流して続けた。

「警部のご自宅の近所にあるコンビニにたむろっていた、いわゆる不良って奴らから聞いた話ですが、一昨日もやはりたむろっていたらしいんです。
奴らは車に物凄い興味を示していまして、警部宅の近くの目立つ車はだいたい把握しているとのことなんですが、あの日は見慣れない大型高級外車が二回もそのコンビニの前を往復したらしいんですよ。」

「ほう、面白いな。」

津田山は不適な笑みをこぼした。
:V904SH
:11/26 18:36

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