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掌の温度、確かな物
by 山甲  
R指定:無し
キーワード:ONEPIECE ブルックの原作沿い話
あらすじ:骨だけブルックの回想→現実への想い
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(何故、二度と手に入らない一瞬という物は、こんなにもキラキラと輝くのでしょう)

月の見えない深い深い霧の海、舵の利かない朽ちた船
自分と同じ姿だが、もう二度と動く事は無い彼らに囲まれて五十年生きて来た
なのに、まるで昨日の事の様に頭の中に蘇る

五十年間バイオリンを手に音を鳴らし続けた
何の感情も無く、唯弦を弾くだけ
誰に届ける訳でも無く、唯弓を引くだけ
何故こんなにも胸を掴み上げられる様な気がするのか
聞かせたい者が居ない事が、こんなにも虚しいものとは
聞いてくれる者が居ない事が、こんなにも寂しいものとは
涙を流し寂しさを、毛布に包まり虚しさを紛らわせたいが、生憎それは叶わない願いで
涙を流す目も、温もりを感じる皮膚も自分には残ってない


もう、確かな物は何一つ残っては、いない


この手に残る物は皆不確かで、本当に自分なのか自分でさえ分からない外観と、遠い記憶に置いて来た約束と、弦の伸びたバイオリン、ブルックと言う名前
それだけ
もっとも、その約束を相手が見限っていない保証は無いしんその名を呼ぶ者は、もう誰一人として居ないのだけれど
かつての仲間を想う
迎えに行くと、待って居て欲しいと告げた者を
待って居てくれていると思う事など自分のエゴでしか無い訳で。かと言って、自分達の事を忘れて幸せに生きていて欲しいと願う事も、自分のエゴでしか無い
それを確かめる術も無く、約束を果たす為だけに、唯この海を五十年彷徨い続ける
五十年という歳月、どんなに謝っても、どんなに願っても、このバイオリンの様に

届く事は、無い

押し潰されそうな孤独の中

唯、音を鳴らす






「おーい!ブルック何か弾いてくれ!!」
ルフィの呼ぶ声に一気に現実に引き戻されハッと周りを見回すと、懐かしい気がする光景が繰り広げられていて
つい昨日の事だった気がするかつての仲間達と彼らをダブらせた
(もう独りでは‥‥‥)
あんなに永い様に思えた五十年も、あっという間だった気にさえなる
「ブルック早く来いよ!!」
不意にルフィがブルックの手を引いた
もはや人間にはとてもでないが言えない、その手を
躊躇いも無くギュウと握り締めて
(ルフィさん‥‥‥)

もう温度を感じる皮膚など既に残っていない筈なのに
その手は温かい気がした
頬の肉などとうに朽ち果てた筈なのに
そこを何かが流れる気がした



今夜は、とても月の綺麗な夜、だ


2008/04/21
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