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玉音
by textimage  
R指定:無し
キーワード:鋼の錬金術師、ロイ、ハボック
あらすじ:致命傷だろうか。動かなくなったハボックを助けようと、マスタングは人造人間の体内から核・賢者の石を奪取する。しかし一旦消滅したかに見えた敵は驚異の再生力で蘇り…。腹部を刺し貫かれ、マスタングは成す術なく瓦礫の中に崩折れた。
▼一番下へ飛ぶ


煩い黙れ目で殺せるものならとうに貴様は事切れている。

「目の前で部下が冷たくなって行くのを見ながら、あなたも逝きなさい…」

抑揚のない声で人の死をさらりと予言して、ソラリス…は口元に薄く笑みを貼った。

舐めるな化け物が。
喉元まで出た言葉は形を成さず、結局弱々しい呻き声が漏れたのみ。
屈辱だが正直、意識を保つのがやっとだ。

人造人間の予言に示された、受け入れ難い未来。
意思に反して受け入れようとする身体への戒めに、私は唇を強く噛んだ。

くそ、忌々しい…

霞む目にぐっと力を込める。
ざりざりとこめかみを地べたに擦り付け、流れた涎を辛うじて袖口で拭って。
この痛み、もはや生きていることすら疎ましい。
自分を見上げるニンゲンの不様な姿を鼻で笑って、ホムンクルスは踵を返す。

「ハボック少尉…」

敵の姿が見えなくなったところで、精一杯彼の近くへと鈍った体を転がした。
彼は生きている。
こちら側に引き留めなければならない。

「おい、ハボック!」

ピクリとも動かない。
咳き込んで口元を拭う。

「返事をしろ、ハボック!」

力の限り声を絞り出す。
喋る元気があるのが有難い…否。
喋り続けるしか能がないと言うべきか。
傷口を押さえて闇雲に声を張り上げた。

「どいつもこいつも私より先に…くそっ!!」

蝶よ花よ英雄よともてはやされた人間兵器も、人を救うことにかけては無能。

「貴様…私より先に死ぬ事は許さんぞ!!」

これまでも散々思い知らされてきたことだ。

「ハボーーーーック!!」






絶望的な沈黙。

その中で自分の呼吸だけが煩いほどに鳴り響いている。

「…完全に空回りだな…」

滑稽だ。
自嘲に口元を歪め、それまでの感情に区切りを付ける。
重い瞼を浮かせて息を整えると、何とか頭が働きだした。

さて、

優先順位を考えよう。
とにかくまずはこの鬱陶しい傷を塞ぐことから。
それからハボック。
次は人造人間だ。

もたつく指先で周囲に金属の手触りを探す。
この辺りにあったはずだ。

「…ッ!」

ずきりと腹が軋む。
くそ…
次は中尉が狙われている。
急がなければ。

やっとのことで手に触れたライターを握りしめ。
ありったけの意識を集めて一息に擦った。
傷口から煙が噴き出す。

「――が…ッ!」

熱した油に水を注いだ時の荒々しい破裂音がして。
悪臭が鼻をついた。
傷口を焼いて止血する、ただし組織の破壊は最小限に。
これほど繊細な技術を要する錬成は久しぶりだ。

――まだ、弱い…!

歯を食いしばる。
身体が思うように動かないのはこの際都合がいい。

「ッぐ…あああぁあーーー!!!」

熱が、傷を舐めるように腹の内部へと走る。
勝手気儘に皮膚を焼き、細胞を食い荒らしていこうとする焔。
制御しなければならない、が。

「あ、あぁ…‥」

少々、先を急ぎすぎ た か …

うっかり許容を超えた痛みに意識を奪われかける。
その刹那。

「…佐…」

掠れた声が意識に滑り込んだ。

「――ハボック!」

条件反射的にその名を呼ぶ。
音にして初めて実感する。
ああ、ハボックの声だ。

「…ちょい、静かに…」

待ちわびたその声。

「腹に響いて…」

うわごとのように頼りない。
しかしそれでも、彼は確かに生きている。
生きてくれている。
急に沸き上がった実感が、離れかけた意識を力強く手元まで引き戻した。
確かな重みを持つひしゃげたライターをしっかりと握って、私は彼のリクエストに言葉を返した。

「知るか、命があるだけ有難いと思え」



2008/05/02
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