返信する

ガラス玉
by サヨリ  
R指定:無し
キーワード:アビス アシュルク
あらすじ:ルークの願いとアッシュの想いは、決して重ならない。お互いが大切だと、大事だと思う限り、それは何度でも繰り返される運命。
▼一番下へ飛ぶ


『ルーク』に全てを返す時がきたんだな……

眩しい光の中でオレンジの髪を靡かせた青年…いや、若干七歳の幼子は、穏やかな気持ちで全てを受けとめていた。
ふと、彼の視線が、自分の腕に支えられた真紅の髪を力なく垂らした青年、アッシュを捉えた。
命の鼓動を失った彼に寂しげな微笑みを向ける。
「名前、家族、友人…婚約者、…居場所を全て返すから。だから、…だから、どうか記憶を持って行かないでくれよな…。俺がルークとして生きてきた七年間は、どうか、譲って欲しいんだ。仲間を…お前を…忘れたくないから。

………アッシュ、今度こそ幸せになれよな…」



《………我が半身よ、もう時間だ………》

硬質でいて、しかしどこか柔らかさを含んだ声がルークの肩を震わす。視線を上げると無表情でいながら憂いを帯びたような表情をした男が浮かんでいた。

「……ローレライ」

アッシュともルークとも似て非なる存在は、ルークの頬を優しく撫でた。まるで母親が傷ついた子供を癒すように。

《…今は眠れ、我が半身。いつの日か……きっと必ず………》


優しく囁くローレライの声をどこか遠くに聞きながら、眩しい光の中でルークは瞼を閉じた。その手にアッシュの手を重ねて。








そのルークの最後の願いを、皮肉にも彼の記憶で得た『ルーク』いや、アッシュは、ルークのささやかな願いさえ叶えてやる事も出来ない自分に、行き場のない憤りと、ルークのいない『日溜まり』に寒さを感じた。


「………幸せになんて今更なろうとも思わない。零れた水は戻らないんだ、ルーク。俺は『アッシュ』でお前が『ルーク』であるように。そして『アッシュ』にとっては『日溜まり』は焔の中。……だがお前が一緒なら『日溜まり』の中で優しい温もりに変わり、生きていけたかもしれないんだ…!!」
月からの仄かな光が差す、約束の場所にアッシュただ一人、立ちすくむ。

…ガラス玉が一つ、砕けて、もう一つのガラス玉が、片割れ恋しさに『日溜まり』ら弾かれた音がアッシュの耳に届いた気がした。

おわり



2008/06/17
▲ 始めに戻る
作者のサイト
編集
[←前][次→]

戻る


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]