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鋼の錬金術師、後日談
by 梶原  
R指定:---
キーワード:鋼の錬金術師、ロイ・マスタング、マース・ヒューズ
あらすじ:賢者の石に関わる全てが白日のもとに晒された、あの日。存在する全ての石が人知れず無に還された、あの日。ヒューズは戻って来た。
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中央司令部、大総統執務室。

長い赤絨毯の廊下をしずしずと来客を先導してきた秘書官は、重厚な大扉の前まで来ると足を止め、洗練された身のこなしで執務室のドアをノックする。

「大総統、お客様をお連れしました。お会いになりますか?」

が、中からの返事はない。

「…あら?」

その機を逃さず、仕事熱心な秘書官を押し退けて彼はドアノブを掴んだ。






浅い眠り。
ふわりふわりとそよ風に揺られ、夢と現実の狭間をたゆとう至福の一時。

「ロイ…」

「…おいロイ…!」

そこへ彼を呼ぶ声が、スイッチを切り替えるようにして断続的に意識を揺らす。

「ロイ・マスタング!!」

マスタングは薄く目を開けた。
目を開けてしまったというべきか。
夢の淵から強引に引きずり出された結果、その余韻は霧散し、今や後頭部に当たる固い不快感が声高に現実を主張するばかりである。
調べ物の途中でそのまま仮眠に入ったので、本を枕に、埋もれるような格好で彼は居た。あまつさえ顔には読みかけの本が被さっている。

「起きろってんだゴルァ!無能!」

「…あ"ぁ…?」

寝起きの渇きにいくばくかの不機嫌さが加わり、地を這うような声がマスタングの喉から絞り出された。
彼は一つ身じろぎすると、長いこと油を注していない機械の動きで本に手をかけ、半分程ずらして顔を出す。

「おう、起きたな大総統」

慣れない光に目を眇めつつ、ようやくこの無礼な珍入者を見上げ、そして息を飲む。

「ヒュー…」

そこにいるのは紛れもなく親友のマース・ヒューズ。
いや…即座に打ち消す。
そんなはずはない、彼は戦いの中で討たれたのだ。確か、何とかいうホムンクルスに……。

そうだ。

徐々に歯車が噛み合い、回り始める。

賢者の石に関わる高官の汚職が白日のもとに晒された、あの日。
この世に存在する全ての石が人知れず無に還された、あの日。
ヒューズは戻って来た。彼らの前に、以前と変わらぬ姿で。

それから…

二人で長い話をした。これまでのこと、これからのこと、下らない話もした。
彼と顔を合わせるのは大総統の就任式以来だ。死んで一年、生き返って二月…まだ日が浅い。

ぼんやりと自分を見上げる二つの眼。その奥に届けるつもりでにっこりと笑ってみせるヒューズ。
しかしその笑顔は、彼が普段から無駄に振りまいている種類のものとは微妙に違っていて。
それについて聞かれるまでもなく、彼は自ら明かすつもりでやって来ていた。

「暇か?」

この時、ヒューズの背後に立ち尽くす秘書官の姿がマスタングの目に留まったのは、彼女に取って幸運だった。
やれやれと短く息を吐いて体を起こすマスタング。

「コーヒーを入れてくれ」



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2010/01/06
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