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猫耳フェミニスト(土方夢)
by 沁唱 夕瑤
R指定:無し
キーワード:土方 夢小説
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「おい、余りふらふらすんじゃねえよ。」
「だって土方さん、とっても素敵ですよ。ほら。」
「お前なぁ・・・見回りに来たの忘れてねえか。」
「忘れてませんよ。ただ江戸が平和なだけです。」
「はあー・・・・・。」
真選組である土方の隣を歩くのは、其処で女剣士を務める少女――玻泪(ハル)である。
彼女は書類整理で暫く真選組に篭りっ放しだったため、久し振りの外出で露骨に喜びを表していた。
その少女の微笑みは道行く人々迄も欣幸にする。
しかし隣を歩く土方は酷く恥ずかしそうだ。
緋色の頬を隠すため、さりげなく煙草を蒸かしている。
そして...彼女は彼女でおのぼりさんの様に、ふらふらふらふらと忙しなく双眼を泳がせていた。
「土方さん土方さん。そろそろ休憩しましょう。」
「・・・・・まだ5分も経ってねえだろうが。」
「腹が減っては何とやらですよ。お腹空いてないけど。」
そんな事を云いながら玻泪は何とも云えない表情でお腹を摩っている。
取り敢えず彼女はお茶が飲みたいらしい。
まあ、余り甘い物を好まない彼女らしいと云えば彼女らしいが....
「はあー・・・お前はなあ。」
「あっ溜息ばかり吐いてると幸せが逃げちゃいますよ。」
「お前と居て笑ってられるのは何処かの馬鹿だけだ。」
「・・・・・・酷いです。土方さん。」
「はあ。・・・ほら、入るんだろ、茶屋。」
「あっはい。(何だかんだ云って優しいんだから副長は)」
土方がそんな言葉を紡いだ後、玻泪は急に笑顔を取り戻した。
そして彼女の表情変化に疑問を持ちながらも、土方は一歩先に茶屋へと足を踏み入れるのだった。
茶屋中の人気は余りなく、老人が茶を啜る音韻が響くだけだった。
土方はと云うと何処から出したのか、黄色い固体を団子の上に塗っている。
そして前に座る玻泪は、眉を顰めながらも彼に言葉を紡いだ。
「土方さんて、ネコミミとか好きですか。」
ぶっ
「あわわ。だっ大丈夫ですか、土方さん。」
「お前は・・・如何したらそう突拍子もない事が云えんだ。」
「えっぇぇぇ。今のってわっ私のせいですか。」
「ったりめえだろうがっ」
「そっそれじゃあ此れ、お詫びにどうぞです。」
そう云って彼女が差し出したのは、漆黒のふわふわが特徴の猫耳だった。
土方は先程玻泪がそうした様に眉を顰め、軽蔑の眼差しを彼女に向ける。
そしてそんな彼を気にする事もなく、目の前の少女は相変わらずにぱにぱと微笑を漏らしているのだった。
それから数分の時が流れ。
偏頭痛でもするのか、土方は頭を抱えている。
厭な空気が漂う中、天然危険物の玻泪はそんな事、全く気付いていないのだった。
そして掌をぽんっと叩き、テーブルの上に鎮座する猫耳をぱきょっと彼の頭へと装着させた。
茶屋の隅の方に座っていた老人は真冬だと云うのにだらだらと汗を垂らし、足早に店を出て行く。
玻泪はそれを横目で見遣ると猫耳の彼を見て、似合う似合うと掌を叩いて喜んだ。
「わあ。やっぱり土方さん似合いますね。にゃあって云ってみて下さい。」
「てめえは・・・余程犯されたいらしいな。」
「男性と云うのはみんな喜びを表す時、生殖の話をなさるんですか。」
「もういい。お前とまともに会話しようとするのがそもそも間違いだった。」
そう云って玻泪の代金も支払い、店を出て行く土方。
相変わらず優しいのか怖いのか解らない人物である。
因みに、まだ例の猫耳は着けっ放しだ。
先程の事はもう忘れてしまったのだろうか。余りの精神的ダメージによって。
「あっあの土方さん。理由が理解出来ないのですが、もしかすると怒ってます?」
「・・・・今までにした自らの行動を全て顧みてみろ。」
「あぅ・・・とっ取り敢えずごめんなさいです。何でもしますから赦して下さい。」
「はあ。じゃあ、今日一日この猫耳でも被ってろ。そしたら赦してやるよ。」
土方のその言葉にうんともすんとも云えない侭、玻泪は仕方なく彼から渡された猫耳を被り、土方の背を追う。
そしてもう一度赦しを請えば彼は何事もなかったかの様に笑みを漏らし、玻泪の頭を優しく愛撫するのだ。
「でも土方さん。ネコミミは本当にお似合いでしたよ。」
「てめえだって十分似合ってんだろうが。」
「私はネコミミよりごしっくろりーたの方が好みですもん。」
「この時代にそんなものはねえ。それより今度首輪と尻尾も着けろ。絶対似合うから。」
「嫌ですよ。セクハラで沖田さんに訴えますよ。」
そんな和やかな雰囲気を醸し出す二人に、傾き始めた夕陽が優しく微笑む宵の始まり時。
そして今日も真選組のでこぼこコンビは、江戸の町を賑やかに流離うのであった。
「玻泪。今度は仕事としてじゃなく、団子でも食いに出掛けるか。」
2007/02/02
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