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あなたが去った日
by reiyou  
R指定:---
キーワード:赤ちゃんと僕
あらすじ:うさぎのお兄さんの他界後のSSです。うさぎの語り
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「愛しています」

震える喉元からどうにか聞こえてきたのは蚊の鳴くような幸子の声だった。
そうして、あんたは高い空の住人になったのだ。



 僕が知っている最後の記憶によれば、あんたはいつだって幸子の事をさっちゃんと呼んでいたんだ。
さっちゃんは僕と同じ名前で、それでいて見た目はまったくの別種族で尚且つメスだった。
人間の女さっちゃんに、さっちゃんという名前を僕につけたあんたはひどく人間のさっちゃんに一途だった。

さっちゃん、知らなかったんじゃないよ。
さっちゃん、人は笑う前に隣のやつの顔ばっか気にしてるんだ。
さっちゃん、冷たくなった人には叫んだって触れ合う肌のぬくみすら伝わらないよ。

二人がどんなに大声で罵倒しあっっても
二人がどんなに大声で愛してると声を嗄らした所で
うるさくて大切な事もくだらない事も何一つ聞こえないよ。

 人間のさっちゃんがあんたに伝えられなかった事があるとするならば。
僕はそのメッセージをあんたに運ぶ空飛ぶ郵便屋みたいだ。
ふわりふわりといくつもの雲で膝のバネを存分に撓らせると次の雲にと高く飛び跳ねる。
どんどん雲を飛び越して、どんどん野生のうさぎの本能を取り戻し風を切る事が出来るんだ。
ゆらゆらと雲に隠れる前の朧月に手紙をとうかんする俊敏なうさぎ。

 僕の白く整った毛並みに、柔らかな月光が降り注いではそれをすべてつつみ溶かしていく。
少し大きめだってからかうあんたの声がもうすぐ大きめの僕のこの耳に届くだろう。

僕は耳を尖らせて、君の声をあんたに届けてあげる。

 君は耳を傾けて良く聞いていて。
一度しか伝えてあげないから。
だからもう泣くのはやめた方がいい。
恋敵の声をあんたにわざわざ届けるんだ。応援するほど僕はお人よしじゃないよ。
だから耳を尖らせて、僕が愛しているあんたにさっちゃんのこの声よ届け。




「愛しています」

震える喉元からどうにか聞こえてきたのは蚊の鳴くような幸子の声だった。
そうしてあんたは高い空の住人になったのだ。

…言い忘れたけど。
あんたの返事ががさっちゃんの耳を掠めるまでは耳を澄ませて聞いていて欲しいんだ。


*あなたが去った日*
(わたしは世界を失った)

うさぎのお兄さん・うさぎ・人間のさっちゃんのお話です。


2008/02/01
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