第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


審査員選評



広田修

 僕は、一次選考通過作品として、

「一杯」イエローのこねこ
「幽食」ヨルノテガム
「水を捨てる」宮下倉庫
「ベッドタウンの印象」宮下倉庫
「終息」藤本哲明
「帰路」島野律子
「無題(1)」たなか
「淫れ NO.1」藤本哲明
「木陰」田崎智基

佳作として、

「偶然にもシェイクスピアに似たパラノイア」ヤツヒガタ
「さよならパステル、花びらワンダー」ヤツヒガタ
「臆する」殿岡秀秋
「蟻」淡島
「国道沿い」淡島
「友達」如月
「終わらない夏」流川透明
「海面にある町」今唯ケンタロウ
「糸の先にある町」今唯ケンタロウ

を選びました。一次審査通過作品の中から、ポイント付与作品・審査員特別賞作品の候補として、

「一杯」イエローのこねこ
「終息」藤本哲明
「帰路」島野律子
「木陰」田崎智基

を選びました。その中から、ポイント付与作品として「一杯」を、審査員特別賞作品として「終息」を選びました。以下、これら2作品について述べます。

 「一杯」は、「疑問を感受する能力」を平明に表現していて、疑問から解答へ至る微細な心理プロセスをイメージさせ、不思議な危うさを持つ解答を提示しています。
 疑問:話している言葉は話し終えればどこかに行ってしまうが、じゃあどこに行くんだろう。→(思案のプロセス)→解答:水の中に入る。→疑問:かきまぜたらどうなるだろう。→(思案のプロセス)→解答:甘くなる。→疑問:どちらが甘くなるのか。→(思案のプロセス)→解答:水。
 この一連の、日常に内在する疑問・解答プロセスを、日常の外に出す。日常に埋没していてめったに主題化されない自明なプロセスの微細な部分を、あえて主題化して発掘するところに、この詩の妙味があると思います。
 そして、ここで提示される疑問は決してありふれたものではありません。疑問というものは、普通に生活していればそんなに広い領域を覆わないものですが、その領域を超えて、非実用的な領域において疑問を提示する。普通に生活していれば感受できないような疑問を感受する。その「疑問を感受する能力」に惹かれました。
 さらに、ここで提示される解答は信憑性がありません。これは科学的な思考回路をとっていなくて、感情やらイメージやらがこんがらがっている領域を通過させて解答を出しているからです。整備された道を行くのではなく、未踏の荒野に道を作っていくのです。その危うさと美しさ。

 「終息」は、見事な彫刻を見せられた、という印象。つまり、一人称、二人称、その他のモチーフがそれぞれの量塊をもち、それぞれの形でそれぞれの方向に張り出していて、それらの空間的配置がとても美しいと感じました。
 「蛾」「おとこ」「夏百合」「ダンプカー」「おんな」「黒い虫」が次々と連結されていく様は、造形的な広がり、緊密な空間性とそのイメージによる充填・連続において、詩のマチエールが絵画的に変化していくように思いました。
 また、「ギシャリ」の反復が面白かったです。指示性(意味)の薄いオノマトペを、一方で書かれるものとして更にその指示性(意味)を希釈し、他方で繰り返すことにより文脈的に重い指示性(意味)を持たせようとする。この指示性の希釈の往路と、指示性の重化の還路が微妙に擦りあわない。その絶妙さに惹かれました。




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