第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


審査員選評



稲村つぐ

本企画に審査員として参加させて頂けたことを至上の幸せに思います。
応募者の皆様方、主催のピクルス様、ダーザイン様、そしてゆうな様、審査員方々、関係者の皆様に心より感謝いたします。
多くの作品に向き合う、貴重な機会を与えてくださり、私の一生の中でも、大変得難い経験となりました。ありがとうございました。

以下に、私が素晴らしいと感じたいくつかの作品について、講評を記します。
手短であり、必要以上に批判的なコメントだと、受け取られてしまうかもしれません。申し訳ありません。少しでも、作者方々のお役に立てばと、願っています。


○「水を捨てる」宮下倉庫
抑制が効きすぎている、と見えるかもしれません。
しかし、この作品から放たれてくるものは、決して「調和」などではなく、耳を傾けざるを得ないほどの、静謐な叫び。そこに、尽きることのない「対話」があります。
立ち向かい方の美しさにも惹かれます。力のある作品です。

○「でたらめ」泉ムジ
光のあて方によっては変わった輝きを放つ。「とてもお気に入りのブローチ」。良くも悪くも、私にとっては、それ以上でもそれ以下でもない作品でした。

○「臆する」殿岡秀秋
この作品の「丁寧な文面」と「ぎこちない文脈」だからこその、超えていける時空があるのだと思います。その上で、構成や、一つ一つの描写に、高いレベルにおいて、より工夫を求めたいです。
モチーフを崩壊させる怖さ、をも超えて(本当にそれが書きたければ必ず甦るはず)、狙える部分はもっと狙ってほしい。

○「マッスル・ドッグ」七瀬俚音
手荒いけれど、心に通じるサービスがある。良い作品だと思います。
ラストは、難しい。残したかったものはなんだったのか。何度読んでも私の心には突き上げきれないところがありました。

○「無題(1)」たなか
すごい。連想する緊張感、を味わえる作品です。交わるピアノ線、分割される視野、・・・怖いくらいの美しさを秘めています。
ただ、キーワードにも見える「台形」が、私の中でパツンと決まらなかったのが、残念です。キーにも伏線にもならず、むしろイメージの瞬発力を阻害しているように思えます。

○「百日紅」中村めひて
粗いけれど、ぞくっときます。もう一つの投稿作品の「潮」のほうも、飛び過ぎという感じがありつつ、しかし豊かなイマジネーションを突きつけられます。

○「子供のこと」吉田群青
素朴な筆致ながら、読み手に奥行きを残していく。しかし、もっと手段を練ってもいいと思います。この奥行きは、筆致の素朴さによってもたらされたものではないと思っています。

○「ベッドタウンの印象」宮下倉庫
役割を持ったいくつかの吐露が、統一感のある薄味によって、うまくコントロールされています。
ラストは、仕様のために、「淡さ」が「弱さ」に成り果ててしまっている。優れたバランス感覚ゆえの欠点だと思います。

○「海が見たくなった時のこと」吉田群青
カット割りに精彩がなく、しかし、それゆえの魅力があります。不思議な作品でした。

○「国道沿い」淡島
この気っ風の良さは買いたいです。良い意味でも、悪い意味でも、「楽」して書いているなという印象ですが。

○「友達」如月
直情の「強さ」が単調で、逆に、もの足りないです。削ぎ込んだ、というよりは材料が不足しているような気がします。そんな中でもよくここまで書けたと思います。

○「ららら」七瀬俚音
失敗はしていないとは思いますが、クセのある比喩に抵抗があります。ラストにかけて、アイデアはとても良いと思いますが、転調が性急だと感じられました。

○「六月を雨に少女の祈る」森下ひよ子
作用、反作用のリズムがとても心地よく、美しい作品です。
極端な感情をあっさり採用してしまうところが見られ、丁寧さには欠けるかもしれません。酔い切れない作品でした。

○「Soundscape」はらだまさる
美しさを謳歌し、演出する力を持っていて、それは成功しています。
確かに、素朴な言葉が真っ当に向かってくるように思える部分もあるのですが、ムラがあって今一つ、素直に乗っていけません。
言葉の「無垢」と「あざとさ」の狭間を歩き続けている自覚を、今以上に強く持ち直してほしい。もっと苦しんでほしい作家ですね。期待します。

○「木陰」田崎智基
文体のぎこちなさとは別に、築かれた感興は確かにありました。造語のような語彙を混ぜてくる効果、この字面によるミスマッチは失敗しているような気がします。
心の芯に灯った良質なアートと、ぎこちないインターフェイスとが、もっと活かしあう方向に進めていければ、モチーフの面白さが、より見えてくるかもしれません。

○「君は害虫」しもつき、七
モチーフが良いです。もう少し他の、見せ方があったのではとも思います。

○「水の色彩」夏野雨
前半の3連には余すことなく心が浸れました。ラストへかけて、急激に、言葉が「息遣い」から「語彙」へと失速しているような気がします。

○「獣の死」島野律子
このスタイル、手法は、もったいないと、私は思ってしまいます。表現の連結が、イメージの飛躍によるものではなく、端折って感じられる、というようにさえ見えてしまいます。

○「[私たちは素晴らしい箱の箱の箱の箱の箱の箱の箱の中にいる。]」香瀬行鵜
力作でした。キーワードの埋め込みが功を奏していて、しかし却ってそれが、作品を平坦に読ませてしまう。
また、作品の行き先が読み手にも作者にも向いていないように感じられ、棚上げされたような不満が残ります。

○「本の塔」佐々木 きささ
面白かったです。偶成とは思えない味わいはあります。読ませるためには、冒頭から前半に大胆な推敲を要すると思います。

○「ヘルタースケルター」he
2連目、3連目はとても良かったです。モチーフを掴みきれていないし、それゆえに届けきれていない、という感じがします。


他にも気になった作品が多数ございましたが、ここでは、以上にさせて頂きます。



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