第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


審査員選評


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平川綾真智

素晴らしい作品ばかりでした。詩を読んで、圧倒されて感情を揺らされて、余韻に浸り続ける。その連続でした。様々なベクトルでの作品があり、それぞれがそれぞれに間違いもなく優れていました。確かなまでに。一部、本当にこれで自信作なのかな、と疑問に感じた作品もありましたが、これから突出した作品へと変わっていく一側面を見せているのだろうと思います。投稿された皆さん、全員も胸を張って欲しいです。そして書き続けて欲しいです。尊敬します。ありがとうございました。

選考の際、私は、一作品の強度と情感をとにかく重視するよう心がけました。投稿作品の中には、作者の世界観がとても興味深く漂っていて、作品単体よりも、作者に魅力を感じ、作品集を読んでみたいな、と思わせられる作品もありました。賞品が賞金ではなく詩集だった場合、是非とも賞を受けて欲しいな、と胸が高鳴る作者は何人もいました。島野律子さんや今唯ケンタロウさん、とうどうせいらさん、など、そういう視点で特に印象深かったです。しかしそこは心を鬼にして一作品の強度と情感、そこへの感動と余波を頼りに作品推挙を進めていきました。

投稿作品の中で、
応募作品#232 「六月を雨に少女の祈る」森下ひよこ  
応募作品#336 「水葬」 谷竜一
 の二作品は特に群を抜いた強度と情感を放っていました。
最後までどちらにポイントを付与しようか迷いました。
応募作品#232 「六月を雨に少女の祈る」森下ひよこ の熱量と昇華には嫌悪を伴する感情を塗りつけられました。拙い部分も効果的に呪縛的に働く圧してくれるだけの作品でした。読めて良かったと底から発することが出来ました。
応募作品#336 「水葬」 谷竜一 の繊細さと大胆さには、読後育つ生体を与えられました。少しだけたまたま目に付いた箇所を補う部分の欠損も手に触りましたが、今でも中で育ち続けています。読めて良かったと底から発することが出来ました。
最終的に、「拙い部分も効果的に呪縛的に働く圧してくれる感触」と、「少しだけ手に触った、たまたま目に付いた箇所を補う部分の欠損の感触」の差異から、応募作品#232 「六月を雨に少女の祈る」森下ひよこ へ、ポイントを付与しました。
さて、それぞれの作品に触れていこうと思います。

応募作品#232 「六月を雨に少女の祈る」森下ひよこ
手放しに賞賛することは出来ない部分もあるけれども、それでも素晴らしいと漏らしてしまうだけの力作で、熱量と詩に浸れる作品でした。Word文書での応募作品はいくつかありましたが、文書に引きずり込み客体と共に詩世界を構築した作品は今回、この作品ただ一つに感じます。実にスピードの速い作品で、一文目から、展開を噛み締めようとした時には既に新たな展開が導かれていて、一文字一文字に瞳孔を絶望という有象へと開いていかざるを得なくなります。飲み下された咀嚼された作者の細胞を成すものから繰り出される言葉、史実は時間と空間の有限性が不変に無限へと移行されていき、懐死してしまった脈拍を胎動へと変えていっています。本人から湧き出る詩情よりも本人を形成した詩情が勝る行脚は、読み手の部分と書き手の部分両方を挑発される稀有を握らせられました。最終連への持って行き方だけが気になりましたが、死の顔を残したかの<注解>で生は混在した死でしかないと汚濁を残し、内実を凌駕する質感を一点に残していきました。見事です。


応募作品#336 「水葬」 谷竜一
導入部分から最終連まで、それぞれが生きている作品でした。読後も脈を打ち、育っていく生命を持っています。存在を預けていた母と母性の安らぎで紡がれた彼女を、自分という現象を通し、一体となることはない三位へ見事に描き出し昇華させてあります。それぞれの生の体温が、水の感触とイメージの作用により、浮かび上がり、背後を知り、作品世界の澱まで読み手を、引きずり込んでは溺れさせます。個人的な欲を言うと「ふぞろいな雨が」は、初めに出す水の綴りとしては少し他の連に負けてしまい、ぎこちないかもしれません。けれども群を抜いた、圧倒的な作品です。


その他、一次選考の際に、最終選考のことを考え推挙はしませんでしたが、木山 瑠美さんの作品が気になりました。詩の純たる部分を大切に持たれている伸びやかな情感のある作品でした。これからも読んでいきたい、と感じさせられる素敵な作品でした。他にも、投影を素直に書かれている岩尾忍さんなど、これからの作品を読んでいきたい方や、変態性に富んだ面白い作風のケン太さん、力作ばかりの中で異色を放っていたリズムと人生が小気味良く響く欲の無い作風である菊西夕座さんなど、他にも、たくさん気になる作品を書いた方がいらっしゃいました。後ほど、全作品にコメントしていきたいと思います。ゆっくりになるかもしれませんが、お待ちください。


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平川綾真智

応募作品
#104 「欠片」 矢凪祐
詩に向けられた若々しさが穏やかな作品でした。
 このまま時だけが過ぎて
 空っぽになったら
 楽になれる?

 だから私は生きるの
などに特に感じたのですが、そのまま書いてしまうのは勿体無いかもしれません。
独自の視点などを見させてくれたらもっと面白くなるのかな、と思いました。

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平川綾真智

応募作品
102 「エーテル」 矢凪祐
書いてある内容はとても解りやすかったです。
言葉選びをする際に、少しだけ妥協したり、身近な言葉で済ませてしまったのかな、と感じる部分もありました。
 嗚呼 なんて自由だろう
 なんて孤独だろう
ここはもっと違う側面から書いても面白いのかな、と思います。
独自の言葉を見つけた時が楽しみだな、と感じました。


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平川綾真智

【赤ん坊】Call
生まれてきた赤ん坊への思いが素直でとてもわかりやすい作品でした。
詩にするにはそれだけの感情があったのだと思います。
 こんなにも温もりを、ありがとう
で済まされないもののような気がして、この先を読みたいな、と感じもしました。
 一生は見守れない
の連を
 羽毛のように
のような比喩を使って書いても良かったのかな、とも感じました。
温かさが伝わってくる作品でした。

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平川綾真智

応募作品
#98 [心]空木虹音
解りやすく、そのままの文章が綴られている作品でした。
 強い。そう思っていた僕の心は

 弱かった。

 「僕は強いよ。」それは表面だけ。
良質なものが眠っているんだと思います。この書いてある内容をそのままのメモ書きではなく多角的な視点で捉えられるものに進んでいくと、きっと良質さは目を覚ますのだと思います。
独自の視点をどのように身につけていくのか、とても興味深くなりました。

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平川綾真智

[キミの力に。]空木虹音
そのままの言葉が力を持つこともあるのかもしれないな、と思います。
 あの時キミに、アナタに
 何か声を掛けられたら
 何か変わっていたかもしれない。
そのままの叫びがきっといつか変化する時があると思うので、その時でも感触を思い出せるような綴りに化ける今後がとても楽しみになりました。

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平川綾真智

応募作品
#95 「新しい古い」こんぺいとう  
感覚の中に良質なものが漂っています。
 あたしはやわらかい布団で自分を守る
などは最終連の硬質とも言える部位を探り当てて上手く情感を放っていると思います。
 この肌触りは子どものころから好きなこと
 あたりまえすぎて詠むこともなかった
などは、ひょっとしたら書かなくても伝わってくるものかもしれないな、とも感じました。
作者はこれから多くの優れた作品を書くと思いますので、その度驚かせて欲しいと少し嬉しくなります。

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平川綾真智

応募作品
#94 「季節」  こんぺいとう 
誰もが探り当てる根が緩やかに描いてあります。
前半は心地良かったです。
 あたしはここにいる
から、もう一歩先へと綴りを歩ませても良かったのかもしれません。
 あたしはこころのなかにいる
 あたしを見送る
この部位というか脚への共感は引き出すものが奥にあるのだと思います。
引き出す表層を独自の綴りにしても面白いかもしれません。
根を大切にしながら、そこからどう進んでいくのかこれからを一緒に楽しみたくなりました。

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平川綾真智

応募作品
85 「約束」 川瀬 僚
死にたがりの私
のひたむきな気持ちが現実感からは少し浮遊した場所で、清涼に書いてあります。
 あの時の友達から君の記憶がポツポツと消えてきている。
からは感情が浮かび上がり、見事な箇所へと行きつこうとしている部位も多く見えます。
そこまでが少しだけ説明的になり過ぎていることを外したらもっと動いたのかもしれません。
 君は走るのが好きだった。
なのですが、
 生き急ぐ者は、与えられた時は短くて消えるのは一瞬。
ここにもう少し結んで放っても良かったのかな、と思えます。もう少しだけ点でつないでいくことが必要だったかもしれません。
そこから見えるものは素敵です。
間違いなく。
最後の綴りも含めて、説明的な部位を概念だけでなく、何か伝えたり放出したり、形にしたり匂わせたり背負わせたりすると、この詩は圧倒的なものになると思います。
寄り添いたくなる内実はありました。

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平川綾真智

応募作品
84 「虐待を受ける子供たちへ」川瀬 僚
伝えたい物事はよく理解できました。
 好きな人を恨むなんてしたくない 悪いなんて言いたくない
 そう思うのでしょう

 もし好きな人が どこか悪いのなら 
 君が 生きて 育って 学んで 力をつけて 治してあげればいい
綺麗にまとまり収まり過ぎてしまっているようにも感じましたが、伝わりやすいのかもしれません。
虐待に関してもう少し精神的なアプローチをしていくと、膨らむのかもしれません。
伝える方法としてこれからを感じさせるものがあったように思いました。


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平川綾真智

応募作品
80 「コンクリーな案」岡部健志
傑作に化ける予感を十分に秘めている作品に感じました。
転換していく様相は身近な空の色彩から始まり隠喩的な感触と跳躍で意識を連れていきます。
 ぼくの手は汚れていて嫌な気分になった。
ここに息吹が吹きこまれていることに拍手を送りたいです。
 道路の真ん中では、サラリーマンがソーラン節を踊っていた。

 暫くして、はねられた。
の展開はもう少し丁寧でも良かったのかもしれません。
最後の
 空は青かった。

 空は青かった。
と一行目に戻り繰り返す部位はもっと他の言葉を探しても良いようにも感じました。
タイトルと共にもう少しだけ変化を付けると傑作に化けるのかもしれません。
興味深い作品でした。
ありがとうございました。


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