西鉄電車を降り、階段を下りたら人混みばかりの息が詰まる馬鹿げた街だった。 空なんて見えるはずもなく頭と頭がぶつかる地下回路だけが狭苦しく伸びたそんな街。 いつものように階段と一緒に足どりも急降下、わたしの場所なんて誰が見つけてくれんの。 目を端の方にやるとダンボールをひいて寝ている大人がいて、それすらも気にとめなくなったサイクル。 ホームの右側に寄り、これを逃すと次は通勤通学ラッシュにのまれるので仕方なしに乗り込む、大濠公園まで。 そこには息苦しさは変わらないのに自由すぎて目に入るもの全てが同じに見え、なにも拾う事はしない。地下から階段を上がると同時に煙草に火をつけるのが癖になっていた。 ena 12/23* シンタには6年も付き合っている彼女が居て、嫉妬深いらしくあたしに手紙をよこした事がある。そこには丁寧に自分の携帯番号まで記されてあり、いつか一緒に飲みに行こうとまで書かれてあった。シンタとはいつからの付き合いになるだろう。お互い気にはするが大事な一線は越えない、それはルールみたいに。あたしが学校をサボるので大濠公園まで迎えに来てくれていた。その足でドン・キホーテに行きたいとシンタが言った。行くにはバスに乗らなくちゃいけないし、少し歩かなくちゃいけない。シンタはドンキで長く働いている、結構偉いんだと聞いた。呑んだ時たまに言う仕事の愚痴はちゃんと聞く。でも働いている姿は見た事はなかった。「ここで待ってる」と言うとシンタは「じゃあいいか」と言った。 (バスに乗らなくちゃだし、手紙も捨ててしまったから形には残らないし、知る必要のないものは知らないままでいいのだ。) ena 12/23* あたしはこの街が全く好きではない。いつも窮屈にしてしまうし、いつも通るルートは全く外れる事はない。 行きと帰り 生きと返り イキカエレ 地下鉄を乗らない日は歩いて帰る大手門から天神まで。まだ歩き煙草も厳しくない時代だ。 裏通りを通るとロシア料理の店があって、そこで煙草を吸い終わるのだが消すのを躊躇う。あの先の自販機までどうか、どうか、 生き返れ。 いつもヘッドフォンの音量は 18だって決まってる。 ena 12/23* CBへの行き方が分からない。だからキングも笑わない。 あたしは胸にピリオドを刻む。 まだまだ歩いていた地下から上がり天神コア前。キャッチに引っ掛かる。 「お試しエステあるんだけどやってみない?」やるわけがない。 声を掛けたキャッチの男は茶髪でスーツ着て背が小さく爪が異様に磨かれていてピカピカしているのが妙に気持ち悪い。 「彼氏いるの?」 「なんか守って挙げたいタイプだよね」 ぐらんぐらんに街が騒ぐ。守ってやってんだこっちがよ。 守ってるんだ必死扱いて。 地上になんか上がるんじゃなかった。 CBへの行き方が分からない。だからキングは笑わない。 あたしは胸にピリオドを刻む。 行き先は天神CB 必死扱いて守ってんだ。 ena 12/23* 海沿いに観覧車が二つ並ぶ。 手も繋がないシンタはあたしのモノではない。頬を刺す潮風はあたしを日陰へと導いた。姪浜から地下鉄を降りバスに乗り換えてマリノアまで。 郊外から少し離れたそこに来るのは初めてだった。いつも往復するそれらとは違う。わたしたちは地下鉄のレールみたいに往復するだけ。気持ちを関係を。シンタは手を繋がないわたしのモノではないから。 そんな事は今はどうでも良かった。何か買い物をするわけでもなく、ぶらぶらと並んで堂々と歩く。 エスカレーターでは一段上に乗る。(目線を合わせたいから) 自分のポケットからは絶対に手は出さない。(寒いだろう。) ギリギリの頭でぎりぎりに並んで歩く。 ここまでが自分のテリトリーだと犬みたいに歩いてやりたい。縄張り争いなんて女にもあればいいのに。 「あれ乗るか。」 ちっさい観覧車だ。あたしはぐっと我慢できない声で 「え!いいの?」 かわいげも糞もない。 そんなのどうだっていいんだ!こんな地下だか地上だか分かんない世界を二人で飛び出せるのなら! 観覧車マジックだ。 ena 12/23* うまく発色出来ないでいる あかあおきいろ 光の三原色混ぜたら無彩色 「さんのーがーはい」 いつ踏み出せばいいの ざわつく箱の中 ミシンを踏む音 笑えているだろうか あかあおみどり 混ぜれば無彩色 さんのーがーはい さんのーがーはい そこは核中心部 針と糸で睡眠を削り 今と明日を不器用にも描いてた ena 12/23* 描いた観覧車の中では「何も」ありませんでした。 「何も?」 見えていたのは回る時間と2人の距離。計算したら何かが答えになるのかもしれない。答えを急いでいたあたしには絶好の計算式。 シンタは急ぐこともなく躊躇うこともなく距離を平行に置き、あたしはそれから垂直に思いを募らせた。 景色は見えただろうか夕暮れの太陽が赤々と燃え、手紙だとか、日陰なのだとか、大濠公園には居られなくなるのとか、頻繁に流れるミシンの音、朝方のいつもの親不孝通りのネットカフェとか、 全て照らしてくれて、赤く赤く笑っているみたいに包んだみたいに。 あたしは逆光に隠れて涙する。 「何もありませんでした。」 ena 12/23* やーめた その一言で終わりました。 あたしの真上から飛び跳ねた重たい腰つき。 やーめた その一言で終わりました。 やりかけのせっくすも酔いしれて肩まで浸かってしまっていた憂いた恋も、 支えも何もなくして冷めてしまったと同時に脆いくらいに崩れ落ちた基盤。簡単な事で跳ね飛んだ腰と、解く気もさらさらなかった謎解きのような回路を通過するだけのただただ迷子。 やーめたの一言で終わるのでした。 地下を上り右に曲がったらミスタードーナツ そこでお茶して帰るのです。 あたしはシンタを地下鉄の各駅に置いてきた。ひとつひとつ千切って開くドアの隙間からゴミ箱目掛けて捨ててやる 手紙と同じです。 あんな手紙当てつけるんじゃねーよ でもあんたんところに戻ったって話は聞かなかった。 女子高生の尻にひかれて車を走らせてるって話。 ただただ地下鉄は一本道です。 路線変更する駅までも行った事はなくて、ただただ4つの駅を行き来するだけの生き方しなくて良かっただけでも儲けモン。 笑って裂いてあげましょうよ。 今も地下鉄は動いてる。 ena 12/23* ▲/▼ [RES][BACK] |